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お互いの沈黙

Yaspers

◇青が散る

「「哲学すること」は、根源を目ざまし、自己へ還帰し、内的行為においてできるだけ自らを助けるという決断であります。
日々の課題や要求に従うと言うことは、もとより現存在においては、明らかにもっとも大切なことであります。しかしそれで満足しないで、単なる仕事や、目的物に没頭することがすでに自己忘却への道であり、同時に怠慢と罪であることを知ることが、哲学的な生活態度への意志なのであります。こうして幸運と侮辱、成功と断念、暗黒と混乱などの人間に関する経験が真剣に取り上げられるのです。忘却ではなくて内的に自己のものとすること、半途にして道をそれることでなくて内的に貫徹すること、片づけることでなくして徹底的に開明すること、これが哲学的な生活態度なのであります。
このような哲学的な生活態度はつぎの二つの道をとります。あらゆる種類の反省を通じてなされる孤独な思弁と、共同活動・共同討議・お互いの沈黙、などにおいて行われるあらゆる種類の相互理解による人びとの交わり、がそれであります」(ヤスパース(草薙正夫訳)『哲学入門』(新潮文庫、昭和47年))。

これまた学生時代(学部1年の春)、ヤスパースの本をぱらぱらめくっていると、宮本輝の『青が散る』(文春文庫、1985年)を読んでいた先輩から「青臭いな」と言われた記憶があります。「ヤスパースは青臭いのか」--なんだか、よく分かりませんでしたが、おそらくラカンやデリダでも読んでいた方が、「青臭く」なかったのかもしれません。
結局、その後1年あまり、ヤスパースを紐解くことはなかったのですが、初めて読んだときには、“人間の生”に注視するヤスパースの強烈な筆致に驚いたことがあります。
冒頭に引用したのは、ヤスパースの著作の中で比較的入手しやすい『哲学入門』(新潮文庫、昭和47年)の中からの一節です。この本は、ヤスパースがバーゼル放送局の依頼に応じて12回にわたって試みたラジオ講演『哲学入門』の全訳です。
現代の哲学界では、『哲学入門』のような作品など、ほとんどの大物哲学者は著してはいませんが、その中でも異色とも言うべき、大家の手によるすぐれた哲学への入門書です。もちろん、クロニクルな叙述ではありませんが、テーマ別に上り詰めていくスタイルで、読み物としても面白い作品です。
ヤスパースは、本来の哲学とは単なる講壇哲学ではなく、哲学が人間として人間にかかわるものであるかぎり、市井の人間存在の中で深く根を張っていかねばならないと考えていましたが、そうした彼の根本主張をこの本から読み取ることが出来ます。
「青臭い」と言われましたが、ヤスパースのコトバは文献渉猟や専門書の山で食傷した心をいやしてくれる力をもっています。

引用箇所の末尾で、ヤスパースは、哲学的な生活態度の二つの道を次のように語っていますが、すなわち、「あらゆる種類の反省を通じてなされる孤独な思弁と、共同活動・共同討議・お互いの沈黙、などにおいて行われるあらゆる種類の相互理解による人びとの交わり、がそれであります」、哲学することの基礎になる“孤独な思弁”はいうまでもありませんが、哲学する人間の社会性を表現する上で、ヤスパースが“お互いの沈黙”と表現しているのは興味深いです。人間の社会性に関して、“共同活動・共同討議”というフレーズは比較的だれでも言いますが、“お互いの沈黙”をも自己と他者の向き合う場として指摘しているのには驚嘆です。ヤスパースは実存主義の哲学者と評されますが、実存主義といえば、とかく自己の存在原理が第一に語られる傾向が強いのに対し、ヤスパースがそれをふまえながらも、自己と全く異なる他者と自己との原理を示唆している点は再考の余地があるのかなとも思います(専門家からは失笑されそうですが)。

◇お互いの沈黙

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もうすっかり空は秋。日中の陽気に汗は流れますけど、夜気はじょじょに心地よくなってきています。
で・・・
昨日も、共同活動・共同討議・お互いの沈黙をしてきました。
市井の仕事の話ですが、今頑張っているバイト君(昨日が6連勤の4日目)、仕事とプライベートで肉体が限界に近づいているようでしたので、別部門のMgrと一緒に軽く飲みに行きました。茄子が今は旬ですね。焼き茄子とサッポロビール、疲れをぶっ飛ばすトーキングで心身共に復活。彼も私も今日から再びがんばります。
晩夏から初秋の夕方からおちる夜の帷は美しいです。
そんな夜空を背景に、Smokey & Miraclesの“Tracks Of My Tears”なんかに耳を傾けると、夏に疲れた心身をほぐしてくれます。

YouTubeで“Tracks Of My Tears”動画はココ

Book 哲学入門

著者:ヤスパース,草薙 正夫
販売元:新潮社
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