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マリタンとタチ 二人のジャック

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      「暗黒と全面的混乱の時代において、人類にとって最悪の誘惑は、道徳理性を放棄しようという誘惑である。理性は決して座をゆずってはならない。倫理学の仕事は謙遜であるが、しかし、不幸な世界の苦難の真只中においても、そこに人間性の微光が見えているかぎり、不可変な道徳的諸原理の可変的な適用を導くとき、その仕事は高邁なものである。」

◇70にしてラテン語をならう人
上の一節は、ネオ・トミストのオピニオン・リーダとして広く世界に知られた思想家ジャック・マリタン(Jacques Maritain)の言葉である。むかーし、学生時代、先輩に勧められてというか、その言い方をそのまま表現すると「近代、現代社会の構造を理解するには、ネオ・トミズム、またその基盤となっているトマス・アクィナス(St.Thomas Aquinas)を読め」といわれたことがあります。もちろん当時も(今も)中世スコラ学の専門でもありませんでしたし、不案内なところもありましたので、そこでその導入として、ネオ・トミストと知られるジャック・マリタンの著作を勧められた記憶があります。マリタンをひもときながら、トマス・アクィナスそのものへ入っていくのも一つの手だよ、とその先輩はいっていました。

今になっても、その道筋がいいのか、わるいのかわかりませんが、実際読んでいておもしろいのも事実です。またおかげでトマス・アクィナスそのものも読むようになりました。話がそれますが、このジャック・マリタンを初めて日本に紹介したのが、戦前のカトリック系詩人哲学者・吉満義彦です。流れで吉満義彦も読むようになりましたが、その縁で出会った人たちもたくさんいます。ある修道院では、吉満義彦を顕彰する催しを毎年行っていたりしていて、そこで出会った初老の男性のエピソードですが、もうすでに定年している年代でしたが、そこから一からラテン語の勉強をはじめ、今こつこつと、トマス・アクィナスのスンマ(『神学大全』)をゆっくり読み始めました、という話を聞いたことがあります。

その話には、本当に驚愕しました。自分からいえば、自分の祖父ほどもあろうその人が、ラテン語を勉強し始め、スンマを読み始めた。そのことに奮起し、自分もラテン語をはじめた懐かしい思い出があります。

◇人間のため
で・・・脱線しましたが、最初に紹介した一節は、マリタンの『人間と国家』(創文社)から引用です。この本では、はじめに、民族、国家、人民の元意を整理した上で、主権の概念、手段の問題、人権、民主主義、教会と国家が論じられ、最後に世界政府の問題が検討される、内容的にいえば、政治学的な趣のある一冊です。その所論を一貫して流れるテーマは何か、といえば、「人間が国家のためにあるのではなく、国家こそ人間のためのものである」ということです。いうまでもないような、基本中の基本の約束事が、実は中心に据えられています。国家の位置はどこにあるべきか、それは人間のため、デモクラシーのため、世界平和のため、所詮は人間そのもののために、国家を本来のあるべき位置にすえるべきとの主張です。しかしその論調はたんなる講壇哲学やきれい事のショーケースとは全く異なるぎりぎりの独白であることに驚きます。理想と現実との間の、理論と実際との間の、そして原理(普遍的真理)と具体的問題との間の深いつながり、せめぎ合いが語られており、それが故に、歯に浮くコトバでなく、読み手の心を揺さぶります。これにはおそらくマリタン自身、バチカンのフランス大使をつとめた現実の経験が大きく影響を与えているのだと思いますが、興味のある方は是非読んでみてください。
「政治学的な趣のある一冊」と上に書きましたが、実は読んでいるときわめて倫理的、神学的著作であることにも二重に驚きます。是非!!

◇ジャック・マリタン(久保正幡・稲垣良典訳)『人間と国家』創文社、昭和37年。

ちなみに、ジャック・マリタンからみで(でもないですが)、おなじくフランス人ジャックといえば、ジャック・タチ(Jacques Tati)の映画も最高です。映像だけでなく音楽も最高です。こちらも是非!!

YouTubeの「ぼくの伯父さんの休暇」(Les vacances de M. Hulot)の Trailerはココから

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