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暴力と聖性

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なんとか無事にガイダンスおよび、導入の講義をすませる。
前日風邪をひいたので、結構きつかったですが、履修される皆さん、1月まで宜しくお願いします。
哲学とはおそらく遠い異世界にあったりするのではない。
身近な日常生活の狭間でふと立ち止まり、事態に疑問をもち、権威に従って回答を準備するのではなく、自分の頭と心と体で悩み答えを見出す知的営みだと思います。
もちろん実際に哲学書は難解であり、初学者を当惑させる側面を持っています。しかしながらそれだけではない。過去のひとびとも、今活きている自分と同じように自分の頭と心と体で悩み、苦闘してきたのだと思います。その表象が哲学書として現代に残されているのだと思います。そうだとすれば、おそらく、それは確かに難解ではあるにもかかわらず、人類の知の遺産であり、宝の山であると思います。

そんな哲学や思想家の中で、(専門ではありませんが)今一番注目しているのが、やはりエマニュエル・レヴィナスという思想家です。レヴィナスは20世紀を「約束なき時代、手を差し延べることなき神の時代」と呼び、自らの人生を「二度の世界大戦--数多の局地戦争--スターリニズム--さらにはスターリン批判--強制収容所--ガス室--テロリズム--失業--、ひとりに人間がその生涯に経験するには、少なからざる出来事である。たとえそのひとが単なる証人でしかなかったとしても」と語っています。

深いユダヤ的体験からハイデガー哲学との対決を通して、人間存在と暴力について根源的な問いを発した彼の倫理思想は現実の悲劇の経験の上に構築されています。現代哲学の世界において、西洋哲学の主題や哲学そのものが批判の対象となっていますが、少なからず批判のための批判になっている部分もあります。しかしながら、レヴィナスの西洋哲学のもつ暴力性の批判には、やはり経験に裏付けられた強烈な力強さが存在します。言葉を慎重に選び惜しむように語る彼の言葉に是非耳を傾けてほしいと思います。

ちょうどある漫画家が、そのレヴィナスに関して語っていますので、そこを紹介します。

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 現在の作品、『残酷な神が支配する』をめぐって
 最近は、愛と暴力の表裏一体性に興味を持っています。ポーランド系ユダヤ人のレヴィナスという哲学者がいて、彼は強制収容所からの生還者なんです。彼は要するに、「世界自体は今既に崩壊している、この世界をもう一度呼び戻すには、愛しかないんだ」というんです。もっと複雑な言葉を使っていますが、わたしに理解できる言葉の範疇で言えば、そういうことです。
 さらに、「わたしたちには他の人に対する有責性がある」というんです。自分の知っている人に対してもあるし、知らない人にもある。自分が今ここで何かすることによってどこかの誰かが影響を受ける、それにも責任があるんですね。そう考えると、わたしたちには神の英知が必要になるじゃないですか。それで、レヴィナスに話を聞いていたインタヴュアーが、「みんなを公平に愛するのはとてもたいへんじゃありませんか? ある人をたくさん、この人はちょっとしか愛せない、ということがあるんじゃないですか?」と聞いたら、レヴィナスは、「そうです、愛には順列がある、そこに暴力性が存在します」と答えるんです。溜息をつきたくなりますね。愛があればうまくいくなんていうのは、夢なんだなぁと思うんです。そういうことをずっと考えているのが今の『残酷な神が支配する』です。

    --立花隆+東京大学教養学部立花隆ゼミ「萩尾望都にきく」、『二十歳のころ II 1960-2001』(新潮文庫、平成十四年)。
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愛という言葉を再び考える必要があると思いますね、ほんとにネ。

で・・・この漫画家さん「萩尾望都」さんという方で、『トーマの心臓』、『銀の三角』、『メッシュ』、『イグアナの娘』、『海のアリア』等々が代表作で、インタビューで触れている『残酷な神が支配する』は、第一回手塚治虫文化賞マンガ優秀賞を受賞した作品です。
どの作品も読んだことがありませんが、おすすめの作品があれば是非、どなたかご教授してください。

さいごに、重なってしまいますが、おまけで、萩尾さんが、レヴィナスの思想を語っているだろう部分の原本を以下に掲載します。

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ポワリエ 他人はみなそれぞれかけがえのないものですけれども、私たちは全員をひとしく愛することができません……
レヴィナス まさしく、それゆえに、私たちは、私が倫理的秩序あるいは聖性の秩序あるいは慈悲の秩序あるいは愛の秩序あるいは慈愛の秩序と呼ぶものから出てゆかねばならないのです。いま言ったような秩序のうちにあるとき、他の人間は、彼がおおぜいの人間たちの間で占めている位置とはいったん切れて、私とかかわっています。私たちが個人として人類全体に帰属しているということをとりあえずわきにおいて、かかわっています。彼は隣人として、最初に来た人として、私にかかわっています。彼はまさにかけがえのない人であるわけです。彼の顔のうちに、彼がゆだねた内容にもかかわらず、私は私あてに向けられた呼びかけを読みとりました。彼を放置してはならない、という神の命令です。他なるもののために、他なるものの身代わりとして存在すること、という無償性の、あるいは聖性のうちにおける人間同士の関係がそれです!
ポワリエ 質問を繰り返すことになりますが、私たちは全員をひとしく愛することができません。私たちは優先順位をつけ、判別します……
レヴィナス というのも「全員」(Tout le monde)という言葉が口にされたとたんにすべてが変わってしまうからです。その場合には、他人(l'autre)はもうかけがえのないものではなくなります。この聖性の価値--そしてこの慈悲の高まり--は、全員が同時に出現するという事態になれば、他の人たち(les autres)との関係を排除することも、無視することもできなくなります。ここで選択という問題が出てきます。私は「内存在性からの超脱」(des-interessement)を果たしながら、今度はいったい誰が際立って他なるもの(autre par excellence)であるのかを特定することを迫られるのではないでしょうか?評価(ratio)という問題が出てきます。裁きの要請が出てきます。そのときまさしく、「かけがえのないものたち」(uniques)のあいだで比較を行うという要請が、彼らを共通の種属に還元するという要請が出てくるわけです。これが始原的暴力(premiere violence)です。かけがえのない唯一性(unicite)に対する異議申し立てです。
     エマニュエル・レヴィナス、フランソワ・ポワリエ(内田樹訳)『暴力と聖性--レヴィナスは語る』国文社、1991年。
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告白・独白・毒吐の日々」カテゴリの記事

コメント

初めまして。萩尾望都さんのこのレヴィナスの記事について検索していたらヒットしました。

萩尾望都さんは「少女マンガを文学にした」とか「少女マンガ界の手塚治」といわれる
天才です。(「少女マンガ」の「少女」は要らない気が・・・)

「銀の三角」「百億の昼と千億の夜」は難解で哲学的。特に「百億の~」は男性ファンが多いと聞きます。

「残酷な神が支配する」長編のサイコサスペンスです(文庫で全10巻)
愛憎や暴力、重くて深いです。
ただ初めて萩尾作品を読む方にはあまりおすすめできないかも・・・?
(一巻を読んだ時にギョッとしたのですが
「この作者は裏切らない」と信用していたので読み進めました。後は一気に読みました。

「ポーの一族」23歳の時に描かれ、その名を世にしらしめた大ヒット作品。
老若男女問わず今なお圧倒的に支持されています。
永遠の時を生きるバンパネラの少年の孤独な物語、
耽美的でロマンチシズムの極みです。

「半神」短編集です。腰のところでつながっている双子のお話。題名になっている「半神」はたしか「16ページの奇跡」とか言われていたような・・・。その通りで度肝を抜かれました。

「イグアナの娘」これも短編集です。母と子の深い話。母親には生まれてきた長女の姿がイグアナに見える・・・齋藤孝さんも推薦されています。
個人的に大好きな作品です。
実際に母親との関係で長く葛藤されてきた萩尾さんだからこそ描けるのだと思いました。

「メッシュ」「バルバラ異界」まだ読んだことないけど評判はすごくいいです。

「トーマの心臓」ヨーロッパのギムナジウム(寄宿舎)を舞台にした少年達の愛の物語。(いわゆる同性愛とは違って、透明な美しさがあります)
これまた老若男女とわず大絶賛された作品ですが、私はどうも苦手です。
これを読んだ人は「無償の愛」「真実の愛」と言うのですが・・・
確かに「無償」ではあるけれど「真実の愛」ではないんじゃないかと思います。
25歳のときの作品だそうで今萩尾さん自身はこの作品をどう思うのだろう・・・と考えて
いたら、
この間対談で「14歳で愛のために自殺する、という設定の時点で却下です。はずみで描いたんですよ」とおっしゃっていて妙に安心(?)しました。
ただ台詞、線画、コマ割り、空気感、全てが美しいです。

女性は「ポー」から、男性は「百億の~」か「11人いる!」からハマルとか聞いたことがあるのですが真偽はどうだか・・・
でも真偽はともかくこの人は他の漫画家さんより一つも二つも抜きん出た所にいらっしゃる事は確かです。
個人的に「アメリカンパイ」等もオススメしたいのですが35歳の男性に・・・と考えるとちょっと分かりません。
読まれた作品の感想など、時間が許せばアップして下さったら嬉しいです

投稿: くろねこ | 2007年10月 1日 (月) 05時06分

萩尾さんの作品の紹介ありがとうございます。まわりにいるのは、榎本俊二のファンだけでしたので、たすかりました!。
おすすめのように、まず「百億~」「11人~」あたりを実際に本屋で手にとってみて、フィットしそうなところから読んでみます。
読後に感想など載せますので。

投稿: 宇治家参去 | 2007年10月 1日 (月) 22時46分

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