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言論嫌いが人間嫌いへ

Hemlock

 「対話」と「会話」の違いとはなんだろうか。

 『大辞林』によると次の通り。
 対話:双方向かい合って話をすること。また、その話。
 会話:複数の人が互いに話すこと。また、その話。

 「対話」が向き合ってお互いに真剣に話し合うものであるとすれば、「会話」はまさに字の如く、話を交わすものと理解できるが、上の説明だけだとわかりにくい。

 そこで、多田孝志『対話力を育てる―「共創型対話」が拓く地球時代のコミュニケーション』(教育出版、2006年)を手がかりに考えてみる。

 氏によると、「対話」とは、人間の信頼関係の中で語り合いによって何かを創造していくことを目的とするものであるのに対し、「会話」とは、例えば井戸端会議のように、とりたてて目的があるのではなく、とりとめのない話であったり、楽しさの共有に意味をおくものと説明されている。

 現在の子どもたち(だけでなくオトナもそうだが)に多く見られるのは、「会話」であって「対話」ではない。

 本書ではその原因をいくつかあげているが、第一は、子どもたちに自信がないこと、あるいは自己肯定感が持てないこと。第二は、諸外国に比べると日本の学校教育においては、対話をする環境が少ないということ。第三は、聴いてもらう体験がきわめて少ないこと。そして第四は、褒められていないことが指摘されている。ゆえに、現在の子どもたちの傾向として「対話からの逃避」の傾向が見られるわけである。

 「自分が言ったことが誤解されて伝わってしまった過去の体験から、他人を信用できないと感じ、過度に人間嫌いになったり、あるいは恐れと失望のため、自分の世界に閉じこもったりしてしまう傾向がある。引きこもりも、会話拒否も、携帯電話やインターネットへの執心も、結局はしっかり他人と向き合い、話をするということ自体からの逃避である」

 たしかに子どもたちの話に耳を傾けると、発信や自己主張は多いが、相互作用や意味形成をもとめるやりとりはなかなか見えてこない。対話の欠如は顕著に存在する。

 思うに、人との対話であれ、歴史、あるいは自然や宇宙との対話であれ、語らいを通した開放された空間の中でのみ、人間の全人性が保障される。なぜなら、人間は生まれ落ちたまま人間であるのではなく、“言葉の海”“対話の海”の中で鍛え上げられて初めて、自己を知り他者を知り、真の人間へと成長するからだ。

「……しかし、先ず、われわれはある出来事に襲われないように気をつけよう」とあのお方は言われました。
「どんな出来事でしょうか」と私は訪ねました。
「言論嫌いにならないようにしよう、ということだ。ちょうど、ある人々が人間嫌いになるように。というのは、言論を嫌うよりもより大きな災いを人が蒙ることはありえないからである。言論嫌いと人間嫌いとは同じような仕方で生じてくる。」
    --プラトン(岩田靖夫訳)『パイドン 魂の不死について』(岩波文庫、1998年)。

 言論嫌いが(ミソロゴス)が人間嫌い(ミサントローポス)に通じていくことを諄々と若者に諭す『パイドン』の美しい一節の消費期限は、今なお切れていない。言葉(対話)や人間の存在と切りはなされ、孤立した個人(=弧人)の自閉的空間とは、人間精神の自殺の場にすぎない、淋しい空間である。

 ソクラテスが最後には、毒杯を仰いだように、言論、対話に生き抜く人生は確かに茨の道である。しかし、そこにしか人間が人間となる道はない。

 アテナイ中を経巡り歩き、相手を見つけては、対話に明け暮れたソクラテス--。自分自身を見つめ直し、弱さも強さも知り、勇気をもって前進したその生涯の最後は荘厳であった。

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 さて、子供が幼稚園の芋掘りで、どでかいサツマイモ2本を持ち帰ってきた。
 さあ、いかように調理すべきか。

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