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吉野博士を語る

Yosino6

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博士論文の執筆を再開した宇治家参去です。

研究対象は、いわゆる、吉野作造です。

吉野といえば、大正時代、「民本主義」を唱え、大正デモクラシーをリードした論壇の雄です。歴史の教科書なんかで、そっと、そんなことが書かれていると思いますが、吉野作造は単なる政治学者・評論家ではなく、存在基盤の根柢に信仰をずしりと据えたクリスチャンデモクラットです。
お恥ずかしながら、わたしも、大学院で吉野作造と出会う前、彼がキリスト者だったということは知りませんでした。
ただ彼の文献を読み始めると面白いこと、面白い。
吉野といえば、いわゆる「憲政の本義を説いて其有終の美を済すの途を論ず」をはじめとした政治論文が有名ですが、実は、一番面白いのはエッセーとか批評です。論文ではなく、そうした文章にその人柄でてくるのだなアと実感します。

ま、ひとつ。

西洋で帽子を取るのが礼だとなつて居るのは男子に限るので、婦人については却つて帽子を取らないのが礼である。人の家などへ行つて帽子を取る必要を感ずると、御免下さいと断つてから取る。男子の礼儀を見て之を一般西洋通有の礼儀と誤解した日本の警察官などが、貴顕の前に盛装して出た西洋婦人に脱帽を命じて彼等を呆然たらしむることが屡々ある。自分でいゝと思つて居ることが、対手方の誤解からわるい事と評価されて面喰らうと云ふ事は官憲との交渉に於て昨今我々の屡々経験する所である。殊に思想問題について、分けても国家に関する思想の問題について、斯う云つたやうな社会的矛盾は最近頻繁に目撃させられた事は言ふ迄もない。
    --吉野作造「現代通有の誤れる国家観を正す」、『中央公論』1921年1月号。

吉野の民本主義論には、主権の所在を問わないなど、もちろん時代的制約がある。しかし、それを批評しているのは制度としての民主主義が一応は存在している現在からの視点である。しかし、時代的なコンテクストをふまえた場合、それは、確かに現代的には欠陥のある方法であったとしても、それは発言に対する制限が当たり前であったあの時代に、ぎりぎりのところでの攻防戦をやっていたことは評価せざるを得ません、といいますか拍手喝采です。同時代人ではありませんが、それは言い過ぎだろう!なんて、読んでいるこっちまで冷や汗が出るような言い方なんかもしていますが、ともかく、彼の論法で面白いのは、現場での特殊的問題(日本には日本のやり方があるんだから、外から文句をいうなー的な開き直った権力者たちにの主張)に対して、根柢を覆すような、一段上位のスタンダードを示しながら、やんわりと、権力者たちに「とは言っても、アナタ形のやっていることは、冷静に考えると、チトおかしいよナ」という言い方です。

上に引用した、帽子の礼儀に関しても、文字を追うだけでも痛快です。

さて……

 デモクラシーが徹底的に社会の各方面に実現するが為には、人格主義が人類の間に生きた信念として働て居ることを必要とする。理論は之よりかゝる信念の活動力を助けるには相違ない。然し活動力の本源は何処までも之を宗教的信仰に求めねばならない。而して人格主義が其信仰の内容として一層著しく活躍して居るものは吾が基督教ではないか。吾々は総ての人類を神の子として総ての人類に一個の神性を認め堅く基督に結んで居る。之れ程確実な人格主義の信念がまたと世にあらうか。故に基督教の信仰は夫れ自身、社会の各方面に現はれて直にデモクラシーとならざるを得ない訳である。
    --吉野作造「デモクラシーと基督教」、『新人』1919年3月。

 人間の仕事を社会的なもの、経済的なもの、政治的なもの、純粋に宗教的なものというように完全に区分することはできない。私は、人間の活動から遊離した宗教というものを知らない。宗教は他のすべての活動に道義的な基礎を提供するものである。その基礎を欠くならば、人生は「意味のない騒音と怒気」の迷宮に変わってしまうだろう。
    --M・ガンジ、K・クリパラーニー編(古賀勝郎訳)『抵抗するな・屈服するな--ガンジー語録』(朝日新聞社、1970年)。

 上の言葉は吉野作造とガンジーの言葉から。基盤をおく宗教や文化的伝統に関して両者をみると全く異なる出自だが、宗教を人間存在の根柢におき、そこから社会のあり方や人間の意味を問い続けた二人の思想は、どうやら共鳴しあっているように思われる。

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