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ミネルヴァのフクロウは夕暮れに飛び立つ

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Seneca

 昨日から市井の仕事が六連勤の宇治家参去です。忙しいのは分かっていますが、忙しさに流されたり、忙しさに酔って、己の本分を忘れぬ日々でありたいと思います。

 人間といういきものは、まことに不思議なもので、時間がある時は、無為に過ごし、時間がないときに頑張ろうとする、ぎりぎりになるまでは仕事に手を付けないが、その一方で、締切直前になると無性に部屋の片づけをしたくなる--。
 そうした感情を抱きたくなるのはおそらく宇治家参去ひとりではあるまい。

 われわれが短い時間をもっているのではなく、実はその多くを浪費しているのである。人生は十分に長く、その全体が有効に費やされるならば、最も偉大なことをも完成できるほど豊富に与えられている。けれども放蕩や怠惰のなかに消えてなくなるとか、どんな善いことのためにも使われないならば、結局最後になって否応なしに気付かされることは、今まで消え去っているとは思わなかった人生が最早すでに過ぎ去っていることである。全くそのとおりである。われわれは短い人生をうけているのではなく、われわれがそれを短くしているのである。われわれは人生に不足しているのではなく、われわれがそれを短くしているのである、われわれは人生に不足しているのではなく濫費しているのである。
    --セネカ(茂手木元蔵訳『人生の短さについて 他二篇』(岩波文庫、1980年)。

 古代ローマを代表するモラリスト・セネカの言葉は、至言である。
 ただしかし、それは冷静に考えれば、ありがたいおことばや高邁なモラルの宣言ではなく、過去・現在・未来の時間軸の中で、自分自身を率直に見直した結果の偉大な常識にすぎない。

 しかしながら、人は、こうした偉大な常識から眼をそらし、どこか遠くへ永遠不変の真理や原理を求めがちである。日常生活と乖離したところに人間の道はおそらく発見できないのではないか--そう実感する宇治家参去です。

 ひとは日常生活の繁忙さのなかで、おのれを見失い、気がついたときには、壮老に達してしまうということが多々あるが、そうならぬためにも、ときにふれては、己自身を見つめ直し、反省しながら明日へ向かってふたたび歩き直すことが重要であろう。

 その瞬間が夕暮れ時である。哲学者のヘーゲルは「ミネルヴァのフクロウは夕暮れに飛び立つ」といったそうだが、ミネルヴァとは、知恵すなわち“哲学の女神”であり、フクロウはその象徴である。様々な人間の活動についての知恵=哲学は、日常的な活動が一段落した夕暮れに動き始める。そのことをヘーゲルはミネルヴァのフクロウと表現した。
 このフクロウとは面白いたとえで、フクロウは、単に世界を認識する、というかかわり方で世界に関わっているのではない。行為という関わり方もしている。獲物だけを認識しても、飛び立ち捕らえる行為がないとフクロウは生きてゆけないからだ。
 ひともおそらく同じである。夕暮れ時に、ふと立ち止まり自分自身を見つめ直す(=哲学)する瞬間を、ときにふれてもつことで、有限な時間の中で、何が一番大切で、今なにをやるべきか、課題がおそらく見えてこようというものである。

そうした瞬間に写したのが、昨日と同じ、夕方の富士山です。

 田子の浦に うちいでてみれば 真白にぞ ふじの高嶺に 雪は降りける  山部赤人

    --佐佐木信綱編『新訂新訓・万葉集』(岩波文庫、1954年)。

 霊峰の雄大な姿に、今日一日の自分自身を向かい合わせながら思索する宇治家参去です。

 では、最後にセネカの言葉をもう一発。

 暇のある人というのは、自分の暇の何であるかについても気付いている人である。ところが、自分の体の有様を知るのに他人に教えてもらう必要のあるような人間が、一体どうして時間の主人となりうるであろうか。

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