« 明治の叫び | トップページ | 「愛」を「考えなさい」 »

この世を撃つ内村の警鐘は鳴り響く

Dscn6878

Uchimura_kanzo

指導教官に怒られてしまいますが、実は若い頃、内村鑑三が苦手でした。
頑固で、融通が利かないというイメージでしたが、最近、読み直していくと、ふと腑に落ちるところが多くあり、がらりと印象が変わってきました。

ずるずるべったりで、雪崩をうって自己の信条や信念をいとも簡単に曲げ、転向してきたものが多数を占める日本の歴史においては、内村の存在は峻厳に屹立したものがあります。

内村の頑固さは、他者へ向けられた頑固さでなく、自分自身に向けられた頑固さなのではないかと思うようになってきました(ま、本格の研究者からは違うよといわれそうですけど)。

さて、その内村の著作で、幅広く読まれている一冊といえば、やはり、『代表的日本人』ではないかと思う。もともと、英文で書かれたもので(原題は、Representative Men of Japan,1908)、JFKが、その著作から上杉鷹山を知ったというのも有名なエピソード。洋の内外を問わず幅広く読まれているようです。

今日はそこから一節を。

5 ひとり世に抗す
 故郷にいられなかった日蓮は、「法を弘めるにはよき地」である国の首府鎌倉に直行した。鎌倉で今日も松葉ケ谷と称されている地の、所有者もいない所に、自分のための草庵を建て増した。ここに法華経をひっさげた日蓮は居を定め、ひとり立って世のあやまちをただす仕事を開始したのです。大日蓮宗は、まさにこの草庵にその起源を発するといえます。身延や池上をはじめ、他の巨大な寺院、全国にある五千をこえる寺、そこにお参りする二百万の信徒、その起源はことごとく、この草庵と、この一人の人物にあったのです。偉大な自行という物は、常に、このようにして生まれるものであります。不屈の精神とその持ち主に抗する世間、その間に、永遠に偉大なるものの生じる期待があるのです。二〇世紀のひとびとは、この人物から、教えはともかく、その信仰とその勇気を学ぶがよろしい。ところでキリスト教そのものは、はたして日本で同じような始まり方をしたのでしょうか。ミッション・スクール、ミッション教会、金銭の支給、人的援助……、大いなる日蓮には、このうちなに一つありません。日蓮はまったくひとりで始めたのです!
    --内村鑑三(鈴木範久訳)『代表的日本人』(岩波文庫、1995年)。

おもえば、内村鑑三も、経歴においては日蓮と共通点が少なくない。仏教界での孤立(自立)は、日本の教界における内村の孤立(無教会主義)であり、日蓮の預言は、そのまま、内村の再臨運動にそのまま重なる部分である。

こうした背景を考え併せて、読み直すならば、内村は、みずから日本における「キリスト教の日蓮」たらんとの志が窺われる。もちろん、いうまでもないが、内村も日蓮そのものを全肯定しているわけではない。曰く、ルターやマホメットとの比較を交え、「経典崇拝者」、「闘争好き」との批判も存在する。

しかし、それでもなお、内村は、「しかし私は、たとえただ一人であろうとも、この人物のために、必要なら私の名誉をかけてもよい覚悟であります」と書きつづっている。

おそらく、日蓮の専門家からも、そして内村の専門家からもそしりを受けそうだが、内村は日蓮の姿に、自己自身の姿を重ね合わせながら、世に警鐘しつづけたのではなかろうかと思うのが実感です。

さて、凄いのは、その内村の弟子たちです。
盧溝橋事件の直後、「日本の理想を生かすために、一先ず此の国を葬って下さい」との軍国主義批判ゆえに、東京帝大の職をうばわれた矢内原忠雄。大学と学問の自治を叫び、官憲から睨まれた南原繁。そして温厚な人柄で知られ、一高の良心と謳われた三谷隆正。

もちろん門下にはそうでないひとびとも多数存在するが、そうした良心の軌跡をたどると、日本人の中にも、まだまだ、不屈の勇気と忍耐を兼ね備えた逸物がいるのだと、すこし安心したりもしますが--。

さて、こういうことを書いたのも年末で忙しくなってくると、世知辛いのが世の常です。最近、市井の職場で、上司や同僚から、いわれなき逆ギレを頻繁にうけるので、綴ってみました。

宇治家参去の美徳は、これまで一度もキレたことがないことです。不屈の勇気と忍耐をやしない、ひとびとにきぼうとうるおいをおくりつづけたいものです。

代表的日本人 (岩波文庫) Book 代表的日本人 (岩波文庫)

著者:内村 鑑三
販売元:岩波書店
Amazon.co.jpで詳細を確認する

現世と来世 Book 現世と来世

著者:鈴木 範久
販売元:教文館
Amazon.co.jpで詳細を確認する

|

« 明治の叫び | トップページ | 「愛」を「考えなさい」 »

神学」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: この世を撃つ内村の警鐘は鳴り響く:

« 明治の叫び | トップページ | 「愛」を「考えなさい」 »