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象を撃つ Shooting an Elephant(1936)

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Owel

最近まったく、本をよめていない。
仕事上の必然で、関連文献や、一次資料をひもとくことは毎日の日課ですが、それ以外に本を読む暇がなく、チト淋しい毎日です。

ちょうど、先週末は、出張があったので、その際、ゆっくりと、古い本を読み直しました。

岩波から出ているジョージ・オーウェルの評論集です。

オーウェルといえば、政治色の強い『動物農場』とか『一九八四年』で小説家として有名ですが、実は、評論・批評家としてのほうが、面白い作品がおおいのではないかと思います。オーウェルの評論には、「建前」論の不毛性を撃ち、矛盾にみちた「本音」に光を当て、議論に現実的な稔りをもたせる不朽の輝きがあるからです。

帰りの便で『オーウェル評論集』(岩波文庫)に眼をとおしましたが、自分の目で見て、耳聞いた事実を歪めず、思想や文化、文明というものが、肉体をもった無数の個性的背景をもつ人間の所産であることを明らかにする、その手法に戦慄です。

矛盾をふくむ事実の性格な認識こそ議論の出発点である--「建前」論とは無縁のオーウェルの言説は、いまなお、読み直されてしかるべき。

興味のある方は是非どうぞ。
とても読みやすいですよ。

さいごにひとつ。

ナショナリズムの興隆、伝播の原因となると、これは問題が大きすぎて、ここで論じる余裕はない。だが、英国の知識人のあいだでのナショナリズムについて言えば、それが、もっと広い世界で現実に起こっている恐るべき戦いを歪んだ形で反映しているものであること、そしてその中でもいくつか最大の愚行の原因は愛国心と宗教心の崩壊にあることだけを、指摘しておく。この思想を押しすすめて行けば、一種の保守主義が政治的傍観主義に陥る危険はある。たとえば愛国心はナショナリズムにたいする予防接種であり、王制は独裁政治に対する防波堤であり、組織された宗教は迷信にたいする防壁だといった説が、もっともらしく主張されることにもなりかねない--いや、おそらくそのとおりなのだ。あるいは偏向のない見方などはありえない、すべての信条や主義にはひとしく嘘と愚かしさと野蛮がひそんでいる、といった主張も出てこよう。そしてこれがしばしば、政治にはいっさいかかわらない言説に使われるのである。だが現代の世界では、知識人といえるほどの人間なら政治には無関心ではいられず、結局は政治にかかわりを持たざるを得ないというだけでも、わたしにはこの主張を認めることはできない。われわれは--広い意味での--政治に関与すべきであり、自己の選択を明らかにしなければならないのではないか。つまり、たとえ手段が悪であることに変りなくても、客観的に見てすぐれている主義とそうでないものがあることは、認めるべきなのである。わたしがとりあげたナショナリスチックな愛憎の念は、好むと好まざるとにかかわらず、ほとんどすべての人間の気質の一部になっているのだ。これを除去できるかどうかはわからないが、これに抵抗することは可能なのであって、それこそがほんとうの道徳的努力だとわたしは信じる。そのためにはまず、自分のほんとうの姿、ほんとうの感情を知り、その上で逃れられない偏向を認めることである。もしもソヴィエトを憎み、恐れているとしても、もしアメリカの富と力を嫉妬しているとしても、もしユダヤ人を軽蔑しているとして、もし英国の支配階級に劣等感を抱いているとして、ただ考えているだけではこういう感情を除去することはできない。だが、すくなくとも自分にそういう感情があることを認識し、それによって思考過程が歪むのを防止することはできるはずである。誰もが逃れられない、そしてあるいは政治行動には不可欠なのかもしれない感情的な衝動には、同時に現実認識が伴わなければならない。だが、くりかえして言えば、これには道徳的努力を必要とする。そして現代の英文学が今日のさまざまの大問題を反映しているとすれば、この努力を払う覚悟のある人間がいかに少ないかがよくわかるのである。
    --オーウェル(小野寺健訳)「ナショナリズムについて」、『オーウェル評論集』(岩波文庫、1982年)。

複雑に満ちた現実と自分自身を見つめなおしながらも、現実の世界と架橋するオーウェルの響きが、スピヴァクの言説と相照らし合っているように思えて他なりません。

ということで、ボチボチ寝ますかね。
今日は、子供を幼稚園に迎えにいかなければならぬという複雑に満ち溢れた現実が待っていますので。

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