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リベットや継ぎめを、ひとは熟知していなくてはならない

Walter_benjamin

一方通行路(抄)
ガソリンスタンド

 生活をかたちづくる力をもつものは、目下、信念であるよりも遥かに、事実の数かずである。しかも、それらの事実は、これまでほとんど一度も、そしてどこでも、信念の根拠となったことがないようなものなのだ。こういう状況では、真の文学活動は、文学の枠内におさまりかえってはいられない。枠からはみださぬ文学などは、むしろ、自らの無用性のありきたりの表出にすぎない。文学の有意義な作用は、行為することとと書くこととの厳しい交流がなされるところにのみ、成立しうる。それは、共同生活のなかで影響力を及ぼすのに、普遍性をよそおったもったいぶった書物などよりもずっと適しているような、つつましい諸形態を、ビラやパンフレット、雑誌論文やポスターのかたちで、育成しなければならぬ。この種の応変の言葉だけが、現時点に有効に対処することができる。意見は、社会生活という巨大な機構にとって、機械にとってのオイルにあたる。ひとは、タービンの前に立って機械油を浴びせたりはしない。隠されたリベットや継ぎめに、少量のオイルをさすものである。そのリベットや継ぎめを、ひとは熟知していなくてはならない。
ヴァルター・ベンヤミン(野村修編訳)『暴力批判論 他十篇』(岩波文庫、1994年)。

ひとは、形や型からはみ出した有様を“かっこいい”と錯覚するが、それは定番の形や型をきちんと理解した上で、“はみ出し”ていかないと、“ダサイ”姿になってしまう。

“かっこよさ”とか“ぶっ飛んだ凄さ”というものは、グラスに注がれるビールが、グラスからあふれ出すようなプラスアルファの部分であり、本物から出てくる“過剰”の部分である。

しかし、ひとは、グラスにビールを注ぐのを、面倒だと思ってしまう。
直接、缶とか瓶から、ビールを、グラスに注がず、適当にぶちまけてしまうことで、その“過剰”を演出し、“かっこいい”と独り悦に浸っているだけだ。

ビールをグラスにきちんと注ぎ、そこはかとない泡を誕生させ、そして、幾筋かの横溢を演出するのは至難のわざである。
まさにビール・マイスターにしかできぬ、本物のわざである。

そのわざを仕込むには、人並みならぬ苦労や練習が必要になってくる。
しかし、ひとは、そうした苦労や練習を“ダサイ”と退け、易きに走ってしまうのである。

訓練をみずからいとわぬ人間こそ本物の人間である。

その本物の人間の注いだビールほど旨い飲み物はないのである。

さて、冒頭に“文の人(homme de lettres)”と呼ばれたドイツの文芸評論家にして思想家のベンヤミン(Walter Benjamin)の一文を紹介したので最後にその噺をひとつ。

「意見は、社会生活という巨大な機構にとって、機械にとってのオイルにあたる。ひとは、タービンの前に立って機械油を浴びせたりはしない。隠されたリベットや継ぎめに、少量のオイルをさすものである。そのリベットや継ぎめを、ひとは熟知していなくてはならない」。

おそらく、ほんものの文学とは「行為することとと書くこととの厳しい交流」なくして、読み継がれていかないのだろう。このことは文学に限られたことではない。音楽ひとつにしても、今いきている世界を熟知して、そこで、音を紡ぎ出していく、そうした厳しい交流なくして、メロディーは立ち上がってこない。

基本ができていないところに応用は存在しない。
奇をてらったパフォーマンスは、「タービンの前に立って機械油を浴びせ」る、“無知の証明”に他ならない。

今日、用事があって、久し振りに古い友人へ電話をかけた。学生時代からプロのミュージャンを目指していた人間だが、プロになった後、家族のこともあり、一度はサラリーマンに転身したものの、みごとにプロに返り咲いていた。

彼の技術も詩も一流だ。
しかし、その彼自身の生活が一流であった。
家族を養い、地域の人々のために奔走し、すべての訓練から逃げずに挑戦してきた男であった。

俺もがんばろう!
基本をさけずに、人生の大道を歩もう、そう思い直した一日でした。

なんかすいません、飲んで書いているので、また例のごとく、脈絡があまりありませんでした。

ちなみに写真は、青森産の鴨。
本日非番のため、家族に鴨鍋を振る舞う。
鶏と違って野趣が濃く、歯ごたえのすっきりした鴨はお薦めです。

P1020508

Book 暴力批判論 他十篇 (岩波文庫―ベンヤミンの仕事)

著者:野村 修,ヴァルター ベンヤミン
販売元:岩波書店
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