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ロシアへ行く!

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 目当ての杵屋(きねや)は切見世の並ぶ通りのどんづまりにあって、かつ江が歩いてゆくと、日中もしだらない姿の女たちがそこここから凝視した。あからさまな視線が、同じ中身にもいいものを着て取り澄ましている女への嫉妬であることをかつ江は肌で知っていた。彼女はいかにも知った世界だというように平然としながら、それとなく目を配ったものの、自分より男を惹き付けそうな女は見当たらなかった。だいたい女が嫉妬しない女に男が夢中になるはずがないのだった。自堕落を売りものにして、ましな暮らしを手に入れた女を彼女は知らない。
 似たような身の上にありながら女が一生の浮き沈みを分けるのは、男が才覚と運とで貧富に分かれてゆくのと違わない。杵屋のうらがいい例であった。彼女は飛び抜けた器量よしでもないのに二十五のときにどこが気に入ったのか身請けする男が現われ、以来商才を尽くして、いまでは自分が娼家の主となっていた。彼女にあって女郎にないのは欲ではなく、巧みに運を掴み取る知恵と気力であった。歳はもう四十を過ぎたはずだが、うらは並の町女房とも違い、いまでも人生の盛りを生きているような瑞々(みずみず)しさを感じさせる。肌を磨いて高価なものを身につけるわけでもないのに、表情には艶(つや)があって若々しい。
 「生きるのが商売だから」
 とうらは軽く言ってのけた。
    --乙川優三郎「芥火(あくたび)」、『夜の小紋』(講談社文庫、2007年)。

起きてしまった。

昨日市井の仕事が済んで、仮眠程度、横になって、起きると、本日は、勤務先の短大の入学試験。試験監督のため、朝から八王子へ。

倍率8倍。少子高齢化が進むなかで、大学淘汰が始まった昨今、これだけの受験生が集まるのは、嬉しいことである。
みんな合格させたいが、そうもいかないのがつらいところ。
前提として、機械的な試験だけで、学力は判断できないと思う。
本来は、学力を含めたその人格がふさわしいのか否か、トータルに判断すべきなのだが、そうしたジレンマと憤りをもやもや感じつつも、受験生を見守る。

終了後--
「おちる人もいるだろうが、受験したということは生命に刻まれている。それだけもう短大生です」(趣意)との創立者から伝言が受験生に届く。

いい大学で教鞭を執らせていただいていることを今更ながら実感する。
ただ、受験生も疲れたでしょうが、試験監督も疲れました。

いずれにしましても、受験生のみなさん。お疲れさまでした。
四月には短大で待っています!

さて試験監督業務が終わると、本日幼稚園がお休みのため、細君と子息さんが、大学の隣の美術館まで出てきていたので、合流し、『国立ロシア美術館展』(東京富士美術館)を鑑賞する。

大好きなアイヴァゾフスキー(Иван Константинович Айвазовский)の海洋画を食い入るように鑑賞する。

19世紀以降の絵画といえば、フランス中心となるが、ロシア絵画もなかなかどうして、隅に置けない。まるで、文学や社会思想がそうであったように、常に帝室とともにあった画壇が民衆や自然へその視座を向けていくのが、近代ロシア美術の歴史である。

やはり本物はいい!

子息さんも朝から今日は「ロシアへ行く!」(国立ロシア美術館展へ行くの意味)と興奮していましたが、4歳児も4歳児なりに堪能していました。バーチャルメディアが気楽に家庭を席巻していますが、やはり本物は本物。小さな頃から本物に触れさせるのは大切だと実感しつつも、館内で大騒ぎせず一安心。

ロシア美術館の名宝に圧倒されたあと、家族で軽く夕食。
ウィークデイの夕方5時の居酒屋には客はだれも存在しない。貸し切り状態で、湯豆腐で一杯。帰宅後は、布団に吸い込まれるように就寝です。

で……。
起きてしまった。

早く寝過ぎたのがいけなかった。
さあ、これからどうするか--。

とりあえず、本読んで、もう1回飲んで寝ます。
何故ならば、「生きるのが商売だから」。

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告白・独白・毒吐の日々」カテゴリの記事

コメント

 短大試験監督、大変お疲れ様です。
うちの次女が、この春より短大生(市内)というのもあり一瞬保護者の立場の思いでした。

ロシア展(サントリーミュージアム天保山)にて先月観賞いたしました。
 《天地創造》にしばらく足を止めていました。
あと《芝草のベンチで》のマグネットを買って帰りました。

 万年筆レッドブラウンのカラー、とても渋いですね!

投稿: サマンサjp | 2008年2月 7日 (木) 21時08分

サマンサJpさんへ。

お久しぶりです、宇治家参去です。
まずもって、ご息女の入学おめでとうございます。たしか(あてはまるかどうかわかりませんが)、大学入学時、先輩から言われた言葉に、青年の人生岐路として、①(高校卒業後の)進路、②(大学・専門学校等)卒業後の行方、③(そして)結婚、といわれましたが、まずはおめでとうございます。晴れ晴れとした人生行路をあゆまれんことを切にお祈り申し上げます。


さて、ロシア展。


アイヴァゾフスキーの「天地創造」


唸ります。


ロシアといえば、西洋先進諸国からみると、西洋文化圏でありながら、一段低いとみられていた後発先進諸国になりますが(世界史的分類)、いやいや、人間味あふれる大地です。そこに彩りをのこした先人たちの筆跡に脱帽です。

参去も、レッドブラウンの万年筆で、ひとびとと感情や精神を分かち合いたいと思う毎日です。


(不躾かもしれませんが)2月以降、レポート担当する予定ですので、是非どうぞ!。

投稿: 宇治家 参去 | 2008年2月 8日 (金) 03時40分

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