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寒い深夜は“小鍋だて”

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 東京は、日曜の深夜から大雪。ただし、積もりそうな雪ではないので、降った時間の割りには、つもりが浅い。
 久し振りの雪なのですが、子供は喜ぶかと思いきや、寒いのが面倒で大してよろこばず。東京でふるのは珍しいので、細君を促し、公園まで遊びに行かせました。
 やはり現金なもので、到着すると細君と雪合戦を楽しみ、不思議な雪ダルマをつくって帰ってきた。家の中まで雪だるまを持ち込みそうになりましたが、本人曰く、ウルトラマンタロウに出てくるなめくじ怪獣ジレンマ(第6話『宝石は怪獣の餌だ!』)とのこと。
 ただ申し訳ないのは、宇治家参去さんが夕方の出勤時、誤って自転車で轢き殺してしまったこと。本人には溶けたといっておこう。

 さて、本日は、市井の職場は一番忙しい日曜日。
 本来の業務は、売り場メンテナンスや、人員の配置のマネジメントが中心ですが、本日は雪かきを優先。

 結構、体力勝負の仕事です。ゴム長靴とか防寒靴を履いていたわけではありませんでしたので(ただの革靴)、足先がカチカチ。

 これから、“小鍋だて”で一杯やりながら、凍てついたカラダを溶かしていこうと思います。
 いつも市井の仕事が済んで帰宅するのが二十四時過ぎ。当然、細君も寝ていますので、食事は用意しているにはいるのですが、あまりほしくないときは、自分で簡単な鍋をつくります。それがいわゆる“小鍋だて”。材料もあり合わせで、出汁を張った鍋にぶち込み、煮てはふうふういいながら食べる簡単な男料理です。仕込みも片づけも簡単ですので、この季節にはお薦めです。

 “小鍋だて”と出会ったのは、池波正太郎氏のエッセーから。ちょうどその部分を紹介しますので、みなさま是非、堪能してください!

 三井老人は、私の友人・井上留吉の知り合いで、兜町(かぶとちょう)の小さな現物取引店の外交をしていたが、いかにも質素な身なりをして兜町(しま)へ通勤して来る。どこかの区役所の戸籍係のようで、とても株の外交をしているようには見えなかった。深川の清澄町の小さな家に、二匹の猫と、まるで娘か孫のような若い細君と暮らしていたが、金はたっぷりと持っていたようだ。
 若い井上と私が、六十に近い三井老人と知り合ったのは、長唄の稽古と歌舞伎見物が縁となったのだ。
 三井さんは、私たちにも気をゆるすようになってから、
 「宅(たく)へもお寄んなさい」
 こういってくれ、それから、しばしば清澄町へお邪魔をするようになった。
 三井さんは長唄の三味線もうまかった。それでいて、他人前(ひとまえ)では、決して唄わず、弾かなかった。
 私どもが三井さんの腕前を知っていたのは、稽古へ行く場所がおなじだったからである。
 さて、いつのことだったか、よくおぼえていないが……。
 二月に入ったばかりの寒い夜、私は深川で用事をすませた後に、おもいついて三井さんの家を訪ねた。
 三井さんは、お客のところから帰って来たばかりで、長火鉢の前へ坐り、晩酌をやっていた。
 「ま、おあがんなさい。家のは、いま、湯へ行ってますよ」
 「かまいませんか」
 「さ、遠慮なしに……」
 長火鉢に、底の浅い小さな土鍋がかかってい、三井さんは浅蜊(あさり)のむき身と白菜を煮ながら、飲んでいる。
 この夜、はじめて私は小鍋だてを見たのだった。
 底の浅い小鍋へ出汁(だし)を張り、浅蜊と白菜をざっと煮ては、小皿へ取り、柚子(ゆず)をかけて食べる。
 小鍋ゆえ、火の通りも早く、つぎ足す出汁もたちまちに熱くなる。これが小鍋だてのよいところだ。
 「小鍋だてはねえ、二種類か、せいぜい三種類。あんまり、ごたごた入れたらどうしようもない」
 と、三井さんはいった。(中略)
 小鍋だてのよいところは、何でも簡単に、手ぎわよく、おいしく食べられることだ。そのかわり、食べるほうは、一人か二人。三人ともなると、もはや気忙(きぜわ)しい。
 鶏肉の細切れと焼き豆腐とタマネギを、マギーの固形スープを溶かした小鍋の中で煮て、白コショウを振って食べるのもよい。
 刺身にした後の鯛(たい)や白身の肴を強火で軽く焼き、豆腐やミツバと煮るのもよい。
 貝柱(ハシラ)でやるときは、ちりれんげで掬(すく)ったハシラをちりれんげごと小鍋の中へ入れて煮る。こうすれば引きあげるときもばらばらにはならない。
 これへ柚子をしぼって、酒をのむのは、こたえられない。
 むろん、牡蠣もよい。
 豚肉のロースの細切りをホウレン草でやるのも悪くない。つまり、小ぶりの常夜鍋というわけ。 
 材料が変われば、それこそ毎晩でもよいし、家族も世話がやけないので大いによろこぶ。
    --池波正太郎『味と映画の歳時記』(新潮文庫、昭和六十一年)。

 今日は、ブイヨンの出汁で、豚肉とネギだけで、やってみます。

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