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「軽佻浮薄の経世家を警む」

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Yamagataaritomo

亡国に至るを知らざればこれ即ち亡国の儀につき質問書
明治33年2月17日、第14回議会

 亡国ニ至ルヲシラザレバコレ即チ亡国ノ儀ニツキ質問書
右成規ニヨリ提出候也
 明治三十三年二月十七日
            提出者 田中正造
            賛成者 石原半右衛門 外三十四名

一 民ヲ殺スハ国家ヲ殺スナリ
法ヲ蔑(ないがしろ)ニスルハ国家ヲ蔑〔ニ〕スルナリ
皆自ヲ国ヲ毀(こぼ)ツナリ
財用ヲ濫(むさぼ)リ民ヲ殺シテ而シテ亡ビザルノ国ナシ、コレヲ奈何(いかん)
右質問ニ及候也

〔明治三十三年二月十八日衆議院議事速記録二十九号、議長ノ報告〕
    --由井正臣・小松裕編『田中正造文集(一)』(岩波文庫、2004年)。

足尾銅山鉱毒事件の告発者として有名な田中正造の国会へ提出した質問書から。

この質問書は、川俣事件(1900年2月13日、鉱毒被害の嘆願に向かう人々に対して、利根川北岸の川俣で待機した憲兵・警察官が大弾圧を加えた事件)に対する義憤ゆえに提出された質問書で、日本の憲政史上に残る大演説であったと伝え聞く。

2月21日付の山県有朋首相による政府答弁は次の通り。

「質問の旨趣要領を得ず。依て答弁せず」。

田中正造の名を聞きかじったことのある人物を現在見いだすことは難しくない。しかし、答弁に答えた山県有朋の名前を聞きかじったことのある人物は、郷里の人か明治史に聡い人物ぐらいだろう。

方や公害とひとびとのために実際に動いた先駆者として知られ、方や生前から評判が悪く、その異常なほどの権力への執心、勲章好きは、ひとびとの軽蔑の対象となった人物である。

死去に際しては、「民抜きの国葬」と揶揄されたほどである。

原敬いわく。
「あれは足軽だからだ」

とうの田中正造は、この演説の翌年、衆議院議員を辞職、有名な明治天皇への直訴を行う……。

実は、本日が、ちょうどその国会演説から108年目。

果たして国家は、「民ヲ殺ス」あり方から卒業できたのだろうか。「法ヲ蔑ニスル」あり方から卒業できたのだろうか……。

節目としてそう考える一日があってもよかろうと思い、つづってみました。

そういえば、田中正造と交流のあった人物に内村鑑三がいる。
物質至上主義や拝金主義の風潮に抗して警世の預言者として、国を愛するがゆえに、警告を発し続けた人物である。『デンマルク国の話』という講演の末尾を次のように締めくくっている。

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宗教は詩人と愚人に佳(よ)くして実際家と智者に要なしなどと唱うる人は、歴史も哲学も経済も何にも知らない人であります。国にもしかかる「愚かなる愚者」のみありて、ダルガスのごとき「智(さと)き愚人」がおりませんならば、不幸一歩を誤りて戦敗の悲運に遭いまするならば、その国はそのときたちまちにして滅びてしまうのであります。国家の大危険にして信仰を嘲り、これを無用視するがごときことはありません。私が今日ここにお話しいたしましたデンマークとダルガスとにかんする事柄は大いに軽佻浮薄の経世家を警(いまし)むべきであります。
    --内村鑑三「デンマルク国の話」、『後世への最大遺物・デンマルク国の話』(岩波文庫、1976年)。
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田中正造は、牢獄の中で、聖書に親しみ、「聖書を読むよりはまず聖書を実践せよ」と日記に記し、キリスト教に傾倒するが、受洗はしなかった。しかしとおりいっぺんのキリスト者よりも、こころで聖書を読み、実践した人物といえる。

その姿と歩みを見てみると、まさに「智き愚人」に思われて他ならない。

その姿と歩みは見ていると、まさに「軽佻浮薄の経世家を警む」姿に思えて他ならない。

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