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昭和は遠くなりにけり

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春っぽくいい時候になってきました。

いつも寝るのが遅く昼前に起きて活動する宇治家参去ですが、昨日は人が寝る時間に寝たので、朝起きしました。

「どうしてパパは朝寝ているの?」
今日は子供からの恐ろしいセリフをきくことなく、一日を出発。

10日が細君の誕生日なので、午前中は、子供と細君と近所のホームセンターへ行って、園芸用品をそろえる。大きくなったパキラと、花桃の木の植え替え用の鉢と土をゲットする。これだけでは済まないので、とりあえず来週また何か買うことを約して、帰宅して植え替える。

昼過ぎ……。
先月宇治家参去が誕生日だったので、眼鏡を買ってもらったのですが、それが完成したので、調整と受領にいく。
最初は今風のセルの眼鏡にでもしようかと思っていたのですが、店長にまるめこめられて年相応の眼鏡にしました。初めて見たのですが、ブルックス・ブラザーズ(Brooks Brothers)の眼鏡です。
スーツやシャツなんかは基本的にはブルックスでそろえているので、眼鏡もこれでキマリです。すこしおっさんぽい雰囲気ですが、「なかなか洒落てて上品ですよ」って言われたので、それにしてしまいました。

その後は仕事です。

さて、話が全く変わりますが、最近、若い学生さんと話していると、話が合わない部分があるというか、ギャップに驚くときがあります。

相手は18前後ですので、場合によっては平成生まれ。

良いことなのか、悪いことなのか、わかりませんが、不思議なことに、彼らは物心ついたころには、ベルリンの壁は取り除かれ、アメリカ合衆国から“悪の帝国”と酷評された“ソビエト連邦”は崩壊していた。すなわち冷戦構造を肌で感じていないのですね。

それはしょうがないのですが、宇治家参去が中高生のころは、真面目に東西熱戦の核兵器戦争が起こる可能性が結構あったのですが、そうした脅威は彼らには存在しません(もちろんイデオロギー対立に起因する冷戦構造は集結しましたが、核兵器の存在はそのままで、ある意味で言えば、冷戦が終わったと言うことで、その問題が等閑視されていることにも別の問題があるのですが)。

そこで、今日一つ本を読みながら思ったのが、「昭和」という時代は、年号としては「平成」に連続する過去になりますが、つい20年前の「昭和」がいよいよ“歴史”としての“過去”を実感させる昔になってしまったのだなアなどと思いました。

彼らにとって、既に冷戦は、教科書の中の出来事であり、ソビエト連邦の響きも過去の残滓であり、かれらにとってはロシア連邦という国なんですね。

そのことがいいことなのか・わるいことなのか……これはわかりません。
ただ実感だけですがね。

中村草田男は、かつて次のような句を詠みました。

 降る雪や 明治は遠く なりにけり

まさに……

 散る桜 昭和は遠く なりにけり

です。

歴史として対象化された“昭和”に関しては後日論じようと思いますが、実感としてつづってみました。宇治家参去も“おっさん”の仲間入りか……はア。

ということで、最後に、過去としての昭和を想起させた一文を紹介します。

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蒸気機関車が消えた

 「昭和五十年には鉄道はぜんぶ電化されて、日本から蒸気機関車が消えてしまうでしょう」
 電気機関車が牽引する特急つばめの絵の脇に、そんな文章が添えられていた。昭和三十一(一九五六)年のマンガ雑誌の特集だったと思う。この年の十一月、東海道線が全線電化された、おそらくそれがきっかけとなった企画だろう。
 東海道線電化完成記念切手は当時の少年たちを狂わせた切手収集ブームの直前に発行されたから、いまでも結構な高値がついている。翌昭和三十二年は国際観測年だった。南極越冬隊を運ぶ観測船「宗谷」を背景に、極地の蒼穹を見あげる一頭のペンギンをデザインした切手はいまも私の記憶に新しいが、いっこうに値が上がらない。六百万枚のうちの大半が四十男五十男の古い机の引出しに死蔵されているはずだ。
 私はこの記事を信じなかった。蒸気機関車が消えることではなく、昭和五十年ということばに実感がわかなかった。
 昭和は五十年まで本当につづくのだろうか。大正は十五年までしかなかった。明治は、長い長いといわれて四十五年だ。おまけに、当時私は慶応とか天保とかの年号も聞き知りはじめていた。慶応は四年、天保はよく知らないがせいぜい十何年だろうと父がいったことがある。ゆえに「昭和五十年」をあやしんで、その記事の書き手のリアリズムを疑ったのだった。
 進歩は善、進歩は必然と信じていたから、蒸気機関車が消えるという記事に悲しむところはなかった。むしろ早く消えろ、消え果てて私の住む北陸の一地方も東京なみになれ、と願っていた。
 その前年、私は母にともなわれてはじめて東京へ行った。東京は巨大な街であり、電車の街であった。省線電車や西武線を「きしゃ」と呼んで東京の子供にからかわれ、うつむいた。
 私は戦後いち早く電化された上越線に肩入れした。石炭の燃えるにおいがして、窓辺につく肘の黒く汚れる信越線を憎んでいた。東京へ向かう上越線の車中、私は列車の最後尾に母とともにいて清水トンネル内のループを目のあたりにした。蒸気だったら煙でなんにも見えない。息もできない。電気機関車だから、ほらあんなによく見える、と母はいった。まっすぐじゃ急すぎて登れないからぐるっとまわりながら登るんだよ。
 私の住む町にはかつて大きな操車場があり、蒸気機関車が並ぶ機関区があった。前後どちらでも走り出せる電気機関車には不要のターンテーブルがあり、それが回転するのを見るのは楽しみだった。
 進歩を好み旧弊を嫌う心情の底で、私は、ひそかに蒸気機関車のたくましさを愛していたようだ。中野重治のごとく、走り去るその重たくて黒い後姿に熱い手をあげたかった。洗いざらしの青い作業服を着た機関区員は、昼休みにはみんなで歌った。夕暮れには冷たい水で体を洗った。腰にさげた手拭いで顔をこすった。
 先日従姉の娘が東京に遊びにきた。もう二十いくつだ。年に何回かは新幹線に乗って原宿へ買いものにくる。彼女が私に尋ねた。新宿から吉祥寺まではどのキシャに乗ればいいの?私は笑った。なぜ笑うのかと彼女は多少気色ばんだ。少し嬉しいからだと答えて、さらに彼女の不興を買った。
    --蒸気機関車が消えた
 「昭和五十年には鉄道はぜんぶ電化されて、日本から蒸気機関車が消えてしまうでしょう」
 電気機関車が牽引する特急つばめの絵の脇に、そんな文章が添えられていた。昭和三十一(一九五六)年のマンガ雑誌の特集だったと思う。この年の十一月、東海道線が全線電化された、おそらくそれがきっかけとなった企画だろう。
 東海道線電化完成記念切手は当時の少年たちを狂わせた切手収集ブームの直前に発行されたから、いまでも結構な高値がついている。翌昭和三十二年は国際観測年だった。南極越冬隊を運ぶ観測船「宗谷」を背景に、極地の蒼穹を見あげる一頭のペンギンをデザインした切手はいまも私の記憶に新しいが、いっこうに値が上がらない。六百万枚のうちの大半が四十男五十男の古い机の引出しに死蔵されているはずだ。
 私はこの記事を信じなかった。蒸気機関車が消えることではなく、昭和五十年ということばに実感がわかなかった。
 昭和は五十年まで本当につづくのだろうか。大正は十五年までしかなかった。明治は、長い長いといわれて四十五年だ。おまけに、当時私は慶応とか天保とかの年号も聞き知りはじめていた。慶応は四年、天保はよく知らないがせいぜい十何年だろうと父がいったことがある。ゆえに「昭和五十年」をあやしんで、その記事の書き手のリアリズムを疑ったのだった。
 進歩は善、進歩は必然と信じていたから、蒸気機関車が消えるという記事に悲しむところはなかった。むしろ早く消えろ、消え果てて私の住む北陸の一地方も東京なみになれ、と願っていた。
 その前年、私は母にともなわれてはじめて東京へ行った。東京は巨大な街であり、電車の街であった。省線電車や西武線を「きしゃ」と呼んで東京の子供にからかわれ、うつむいた。
 私は戦後いち早く電化された上越線に肩入れした。石炭の燃えるにおいがして、窓辺につく肘の黒く汚れる信越線を憎んでいた。東京へ向かう上越線の車中、私は列車の最後尾に母とともにいて清水トンネル内のループを目のあたりにした。蒸気だったら煙でなんにも見えない。息もできない。電気機関車だから、ほらあんなによく見える、と母はいった。まっすぐじゃ急すぎて登れないからぐるっとまわりながら登るんだよ。
 私の住む町にはかつて大きな操車場があり、蒸気機関車が並ぶ機関区があった。前後どちらでも走り出せる電気機関車には不要のターンテーブルがあり、それが回転するのを見るのは楽しみだった。
 進歩を好み旧弊を嫌う心情の底で、私は、ひそかに蒸気機関車のたくましさを愛していたようだ。中野重治のごとく、走り去るその重たくて黒い後姿に熱い手をあげたかった。洗いざらしの青い作業服を着た機関区員は、昼休みにはみんなで歌った。夕暮れには冷たい水で体を洗った。腰にさげた手拭いで顔をこすった。
 先日従姉の娘が東京に遊びにきた。もう二十いくつだ。年に何回かは新幹線に乗って原宿へ買いものにくる。彼女が私に尋ねた。新宿から吉祥寺まではどのキシャに乗ればいいの?私は笑った。なぜ笑うのかと彼女は多少気色ばんだ。少し嬉しいからだと答えて、さらに彼女の不興を買った。
    --関川夏央『昭和時代回想』(集英社文庫、2002年)。

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