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【覚え書】〔今週の本棚〕「松原隆一郎 評 永遠平和のために(イマヌエル・カント著)」、『毎日新聞』(2008年(平成20年)3月30日付)。

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ちょいと読んでいると面白い書評があったので、忘れないウチに覚え書として残しておきます。
カントの新訳の話は聞いていましたが、まだ読んでいません。パラパラめくって見ようと思います。

そういえば今年の桜はなかなか残っていてよいですね。

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◇〔今週の本棚〕 「松原隆一郎 評 永遠平和のために(イマヌエル・カント著(綜合社/集英社・1365円))」
 哲学者カント、71歳の小著。国際的な平和連合の結成を訴え、現在の国際連合の前身にあたる国際連盟の結成に理念を与えたとして知られている。
 約20年前に岩波文庫の改訳、2006年には新訳が光文社新訳文庫で出ている。今回の新味は、「のんきな夢をみている哲学者のひとりごとなのか」と当人の生の声が聞こえるかのような池内紀のこなれた訳文と、その言葉をアフォリズムとして藤原新也・野町和嘉・江成常夫の写真と大胆に組み合わせたイメージ豊かな前半部にある。心に響く一節と印象的な写真のコラボレーションで若い世代にカントを繙(ひもと)かせようという編者のアイデアは斬新だ。だが評者には、直訳のこわばりを解いてくれたお陰で、従来語られてきた「戦争放棄」「民主主義」「理想主義」とは異なる文脈が浮かび上がったように感じられたのが収穫だった。
 18世紀のヨーロッパでは各地で戦争が続き、本書が発表された1795年は、フランスとプロイセンが「バーゼル平和条約」を結んだ年でもある。カントは1781年から『純粋理性批判』『実践理性批判』『判断力批判』と続く三批判書を出版、人間の自然に対する認識から意思の自由、道徳のあるべき姿へと思索を進めていたが、その内省的で強力無比の哲学を戦火にまみれた現世にぶつけた成果が本書であった。
 だから本書には、カントの達した境地が詰まっている。人間は理性を有し道徳に従う意思力を持つがゆえに、尊厳ある人格性を認められる。人間はつねに目的とされるべきであって、手段とされてはならない。また、そのためには道徳律として理解したルールにはみずからも従わねばならない。本書のミソは、人間の尊厳を保ち人が人を殺す道具に見立てる戦争から遠ざける方策として、道徳の裏づけのある「法の支配」を持ち出した点にある。
 「法の支配」とは、立法と行政を分離し、行政に気ままに権力を振るわせない立場である。カントはそれを共和主義と呼び、君主制や貴族制に親和性を持つとした。先日邦訳が出たJ・ポーコックの『マキャヴェリアン・モーメント』が詳説するように、16世紀以降の西欧ではギリシアの共和主義思想が再評価されていた。カントの平和主義もまた、そうした共和主義の一齣だったのだ。民主主義は不同意の少数者を無視し、立法者が思うままに執行できる専制になるという。ヒトラーの出現を、百年以上前に言い当てていたのだ。「兵士が戦争を早く終えたがるよう常備軍ではなく民兵を」、「対外紛争のために国債発行をしてはならない」という本書の主張も、18世紀イギリスで共和主義者たち(ハリントニアン)が唱えている。
 そして「法の支配」を国際社会にも適用したのが、民族間で国際法を締結し平和のための国家連合を広げるというアイデアだった。戦争放棄は、カントの目的ではあるが方法ではない。正義を主張する国同士がぶつかると戦争は避けられない。そこで各国に正当性を公開の場で表明させ、戦闘を法の下に置き、闘っても、相互の信頼を損ねないまま終結に向かわせよう、というのである。本書の執筆動機は秘密条項を含むバーゼル平和条約への批判だといわれるが、公開性の原則に反し戦争を永久に終わらせるには道徳を欠いていた点で、「法の支配」の誤った運用例と思われたのだろう9・11後の世界は、まっとうな法に服しているのか。カントは我々にそう問いかけている。(池内紀訳)
    --『毎日新聞』(2008年(平成20年)3月30日付)。

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