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環境とはつねに更新するジレンマ

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生は、まず何よりも、われわれがそうでありうるもの、つまり、可能なる生であるが、同時にまた、しかも可能なる生であるがゆえに、もろもろの可能性の中から実際にわれわれがそれになろうとするものを選択決断することでもある。環境と決断、この二つが生を構成している基本的な要素である。環境--もろもろの可能性--は、われわれの生のうちで所与のものであり課せられたものである。そしてこうした所与のものが、われわれが世界と呼ぶものを構成している。生は自己の世界を選ぶことはできない。生きるということは、一つの特定の交換不可能な世界、つまり現在のこの世界の中に自己を見出すことである。われわれの世界は、われわれの生を構成する宿命の拡がりなのである。しかし、この生の宿命は、機械的なそれとは異なったものである。われわれは、軌道があらかじめ完全に決定されている鉄砲玉のように、存在の世界に撃ち出されたのではない。われわれがこの世界--世界はつねにこの世界、現在のこの世界である--に落ち込むことによってはまり込む宿命というものは、まさにその逆である。われわれは一つの軌道を課せられるかわりに、いくつもの軌道を与えられ、したがって、選択することを余儀なくされているのである。われわれの生の状況とは、なんと驚くべき状況であろうか。生きるとは、この世界においてわれわれがかくあらんとする姿を自由に決定するよう、うむをいわさず強制されている自分を自覚することである。われわれの決断には、一瞬たりとも休むことが許されていない。したがって、われわれが絶望のあまり、ただなるがままにまかせる時でさえ、われわれは決断しないことを決断したといえるのである。
 したがって、人生においては「環境が決定する」というのは誤りである。事実はまったく逆で、環境とはつねに更新するジレンマであり、それを前にしてわれわれが決断しなくてはならないのである。しかし、決定を下すのは、実はわれわれの性格である。
    --オルテガ・イ・ガゼット(神吉敬三訳)『大衆の反逆』(ちくま学芸文庫、1995年)。

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時間もあまりないので、考察できませんが、最近つくづくと実感するのが、理念と現実の二律背反といいますか、対立といいますか、そうした部分をひどく突きつけられることが多くあります。例えば、人間とは何か、社会とは何か、また経済活動とは何か--そうした問いをひとが発したとき、過去の叡智を参考にしながら、まさに、人間とはこうである、また社会とはこうである、そして経済活動とはこうである、ないしは、「こうあるべし」という理念を形成し、そこから現実の活動を照射するという方式が一般的だと思いますが、理念が高ければ高い程、そして現実が低ければ低い程、その開きに、いわば絶望する、ないしは、「もういいや」って感じで、開き直ってしまう、そういう思考パターンが多いのでは?と思うことがあります。

そこにはいわば、理念と現実活動における内在的な連関といいますか、緊張関係がかけているがために、両者を自己の左右へならべ、別個の対象としてとり扱ってしまう落とし穴に自ら陥っているためではなかろうか--という実感です。

様々な理念にしても、現在の自分自身がそれに対峙した場合、まさに高邁なイデアールなものとして、頭上に見上げる完成物として見てしまいがちですが、理念が理念として形成されるには、そこにさまざまなプロセスがあったわけで、もとから完成したものとして、そしてできあがったものとして、はるか遠くに存在していたものではないのだろう--そういう部分です。

であるとするならば、そうした理念なり理想的な在り方なりを、見上げながらも現実活動のなかで自分自身で解体し再構築していく、また咀嚼していく、そういう循環的・内在連関的、そして両者を不動の対立物として捉えない緊張関係をたえず、保ちながら、不断の逡巡、熟慮、葛藤が必要なのではあるまいか--そう考えています。

なかなか自分自身のなかでもうまいコトバにならないのですが、人間は、ある程度、理念的な範型をもたないと、現実一元論で行き詰まってしまうし、ぐだぐだになってしまう。また理念的な範型が強すぎると、生きること自体がキツくもなってしまう。そうした両端をうまく避けながら、理念を現実活動のなかでみずからの理念へとしていく--そうした賢明な闘いというものを自ら選択しないとナー、ということですかね。

そうすることによって、おそらくカントなんかがいう、天空の星の輝きと、人間の内なる道徳律の卓越さに、驚きと敬意を表しながら、個別の現実活動を行いながら、何か普遍への連帯が可能になるのかなどとふと思っています。

自分のなかでもなかなかまとまりませんが、覚え書きとして残しておきます。

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Book 大衆の反逆 (ちくま学芸文庫)

著者:オルテガ・イ ガセット
販売元:筑摩書房
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