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「ひゅう、バナナ高いなあ」

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 たしかトム・クランシーの小説『レッド・オクトーバーを追え』に、亡命しようとするソヴィエト時代のロシア人に向かって主人公ジャック・ライアンが「アメリカのスーパーマーケットでは冬だってトマトが買えるんだぞ。そりゃまあちょっと高いけどな」と説明する場面があったと記憶している。ロシア人はそれを聞いても「冗談じゃないや。冬にトマトが何で買えるものか」とあまり信用しなかった。でももちろんジャックは嘘をついているわけではない。皆様ご存じのようにアメリカでも日本でも、冬にだって温室もののトマトはちゃんと買えるわけだけれど、それはそれとして僕は読んでいて「そりゃまあちょっと高いけどな」というところにいたく感心した。ひょっとしたらライアン氏は意志として多忙をきわめる奥さんのかわりに、よくスーパーに行って食品の買い物をしているのかもしれない。そして値段を見ては「ひゅう、トマト高いなあ」と深い溜息をついているのかもしれない。ジャック・ライアンのこのような巧まざる生活リアリティーは、ハリソン・フォードという俳優の持っている本人実物大的な雰囲気に相通じているような気がする。映画『レッド・オクトーバーを追え』ではもっと若くてハンサムなアレック・ボールドウィンがこのライアン役を演じていたが、ハリソン・フォードに比べるとどうしても存在感が稀薄で、まだちょっと役不足という感は否めなかった。ケビン・コスナーでもちと違う。やっぱりジャック・ライアンはなんてったってハリソン・フォードである。
     --村上春樹「ジャック・ライアンの買い物、レタスの値段、猫喜びビデオ」、『村上朝日堂ジャーナル うずまき猫のみつけかた』(新潮文庫、平成十一年)。

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「冗談じゃないや。冬にトマトが何で買えるものか」
たしかに……自分の市井の職場はGMSなので、食品メインになるのですが、確かに何でもいつでも揃っているよな……ってとこをいつも思うのですが、いつでも揃うってことは、旬を鈍磨させてしまうなあ……などと感じつつ、そういう食材は、「そりゃまあちょっと高いけどな」です。ですけどそうでなくても“高いもの”も存在します。

仕事へ行くと、やはり接客になるので、「マンゴーは?」っていうお客様がいるので、売り場で案内する。マンゴーの本場がどこかは知らないのですが、運悪く売れ筋マンゴー(400円前後・フィリピン産)が品切れで、高級品?(2000円前後・タイ産)しかなかった。

どう見てもお客様は素人……というか、恐らくうえのジャック・ライアンではないが、奥様に頼まれメモを持って買い物にいらした高齢のおじいさん。

「この、高額のものしか今のところないのですが……」
「わしもよくわからんから、それでいいや、ありがとう!」

多分、帰宅してから、奥様に怒られてしまうことでしょう……そのとばっちりをこちらへむけないで下さいまし。

さて店長と売り場打ち合わせを行うのだが……

「宇治家参去さん、これから、榊を買ってくるからさ、少しの間、売り場の様子を頼むぜ」

「榊ですか……」

「そう、それじゃあよろしく」

不吉な思い出が走馬燈の如く脳裏を回転するのだが、店長が売り場を離れた直後、レジが例の如くパンクする。こ1時間レジを打って、事務所へ戻ると、店長がいた。

「雨が降り出したから、榊を買いに行くのは後日にしたよ」

「はあ」

榊=神棚なんですが、また強要はしないでくださいまし、店長さん。
※以前、店長さんが、係長以上のMgrに結集をかけ、「おい、祈るぞ」などとやりましたので、神学的スタンツから「信教の自由」について苦言を呈したのですが……。

繰り返すと、こちらも、神学の立場から繰り返してしまうのですが、今後は簡潔にします、長いと読まれませんので。ホンマたのみますよ……って感じです。

というわけで(?)……豪雨のお陰で不用意なバトルは一時休戦となる。

今日は久し振りに痛風がひどかったのですが、こちらも豪雨のお陰(?)で、来客数少なく、クレーム・トラブルなどもなかったので、すこし楽をさせて頂きました。

「さ、帰って飲むか」
終業後、帰宅する前に、メールを読むと、細君から「バナナと牛乳を買ってきて(なにやら絵文字)」

宇治家参去は、ジャック・ライアン氏ではありませんぞよ。

体よく利用される意趣返しに、高額商品をチョイスして、領収書まできってもらった。

「そりゃまあちょっと高いけどな」

細君から「ひゅう、バナナ高いなあ」と深い溜息をついてもらいたい。

何しろ、バナナ(2房)と牛乳(1L)で1000円も使ったものだから。

深い溜息ではなく鉄拳制裁になりそうですが……こうして「巧まざる生活リアリティー」を学習するある日の宇治家参去でした。

とりあえず、福島の酒「あだたら吟醸 奧の松」(奧の松酒造株式会社)でも飲んで寝ます。福島の酒は、基本的に「甘口」メインと聞いていますが、この「奧の松」は辛口メインで攻めています。リーズナブルな価格ですが、それなりにいけます。

失敗した……。
安いバナナと牛乳で済ませ、ビールでも買っておくべきだった。

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