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「年をとらないという不文律」からの逸脱

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(引用者註……時代小説『御宿かわせみ』は)原則として一話読切りの短篇小説を目指してた。
 途中から様子が変り出したのは私自身、計算もしなかったことであった。月刊誌の連載であった。その場合、私は雑誌の発売される季節に合せて作品の季節を描く。江戸と呼ばれていた時代の日本の四季の移り変わり、風俗習慣、年中行事などもドラマの背景として書きたいと心がけてもいた。読書は「御宿かわせみ」に登場する人々と共に四季に暮し、一年が過ぎて行くことになる。それでも主要人物の東吾とるいが独身の中はよかった。こうした連作小説の場合、主人公は年をとらないという不文律があった故である。私の誤算は二人の主人公を結婚させ、やがて二人の間に子供が生まれたと書き進めたことであった。
 厳密にいうと読書の中にはもう少し前から数えていた方々がいた。主人公の親友で一回目から常連として登場していた人物が主人公より一足先に妻を迎え、そこに源太郎という名前をつけられた嫡男を誕生させた。連載が続いている翌年に或る読者の方から、源太郎ちゃんはもうすぐ満一歳のお誕生日が来ますね、江戸時代ですから数えで二歳ということでしょうが、元気で成長なさっていることと思います、とお手紙を頂いた。
 慌てふためいたのは、畝(うね)家に生まれた子供の存在を殆(ほと)んど忘れたような感じで毎月の原稿を書いていたからである。私の頭の中で赤ん坊は愛らしい一切の幼児となって再認識された。あと一年書くとこの子は二歳になる。従って主人公夫婦に娘が誕生した時、私の覚悟は決まっていた。子供と共に親も年をとるということであった。「御宿かわせみ」の暦は時代と共に進みはじめた。
    --平岩弓枝「私の履歴書27」、『日本経済新聞』(2008(平成20)年07月28日(月))付。

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文筆家・池波正太郎(1923-1990)が師と仰いだのが劇作家・長谷川伸(1884-1963)ですが、その池波と同門の弟子に小説家・平岩弓枝女史(1932-)がいますが、彼女の時代小説も比較的よく読むといいますか、ほとんど読んでいます。
御宿かわせみシリーズ、はやぶさ新八御用帳シリーズあたりが代表作ですが、この夏、『日本経済新聞』紙上で、「私の履歴書」を載せておりましたので、改めて、御宿かわせみシリーズを読み直しております。

どちらのシリーズも連作短篇の「捕り物」ものがたりなのですが、新聞のなかで彼女が告白しているとおり、この小説の愁眉はやはりなんといっても“登場人物”が“成長”することでしょう。連載を重ねるごとに、主人公とそれを取りまく人々が年をとりながら、おおきく成長する。そしてそれと同時に時代情勢も大きく揺り動いていく。
季節感たっぷりの江戸情緒のなかで、変わらぬひとがひとを思う情(こころ)が美しく描かれてい、読むたびに感動ひとしおである。

平岩弓枝の著作に触れるまで、池波一辺倒でしたが、母親がたまたま読んでいたので、借りてよんでみると、「とんでもないほど“面白い”」。
時代小説のワクを拡げてくれた一冊です。

サザエさんやドラえもんが、まさに「年をとらないという不文律」を律儀に守ることで、閉塞したループする空間での再現性にこだわる作品で、その真骨頂をみせてくれる。しかし連作ドラマは、何もその不文律に拘らなくてもよいのでしょう。

平岩の描く『御宿かわせみ』とか池波正太郎の描く『剣客商売』なんかは、連作ですが、作中の人物が成長するだけでなく、年を取り、衰えていく様も美しく描かれているので、読んでいて、楽しいだけでなく、哀しみも同時に味わうことができる。そこがたまらなくよいのである。

さて、本日。
昨日の疲れがひどく、予定した外出をキャンセルし、日中は月末のスクーリング書類(事務書類とか配布物などの申請物)の準備をすませ、少しレポートに目を通してから、ぶらりと外出する。
曇ってはおりましたが、汗ばむこともなく、虫の声が心地よい、中秋をひとしきり味わい、公園で、『御宿かわせみ』を肴にカールスバーグで渇きを癒す。
ベンチのとなりを見てみると、初夏から夏にかけて鮮やかな姿を見せてくれた紫陽花がまだ咲いていたが、すこしもの悲しい風情。しかし、そうした営みに耳を傾けると、不思議なことに、これが明日へのの活力となっていきます。

「子供と共に親も年をとる」。
たしかにそのことを実感する昨今です。
どのように年をとっていくのか、今更ながら改めて考え直す必要がありそうです。

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