【覚え書】「悼む 山下肇さん 東大名誉教授 ドイツ文学 88歳 10月6日死去」、『毎日新聞』2008年11月19日(水)付。
【覚え書】の連発で恐縮ですが、ちょいこれも残しておかないとなア~と思いまして……。
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1942年9月、東大ドイツ文学科を半年間の「繰り上げ」卒業、即陸軍へ。「学徒出陣」のほぼ1年前のことである。戦後復員して、旧制浦和高校・新制東大・関西大学で教職をつとめた。「戦中派」という時代の刻印を押されつつも、それを恥じることなく生きぬいた。
日本戦没学生記念会(わだつみ会)が再発足した59年に、阿部知二理事長を補佐して、自宅に事務局を引き受け、すでに入手困難になっていた「日本戦没学生の手記 きけわだつみのこえ」をカッパブックスから再刊させ、今日にいたるわだつみ会の起訴を築いたことは、最も大きな社会的貢献だったろう。最後まで「わだつみのこえ記念館」の館長をつとめておられた。
現代ドイツ文学の紹介・翻訳など多数あるが、学問的な業績として残るのは「近代ドイツ・ユダヤ精神史--ゲットーからヨーロッパへ」(80年)であろう。モーゼス・メンデルスゾーンとハインリッヒ・ハイネに焦点を当てながら、解放と迫害のはざまで引き裂かれた東欧系ユダヤ人の精神の系譜を追った労作。この先駆的な研究に着手した動機として、戦争中、ユダヤ人というだけの理由でハイネ研究さえ自由にできなかった、日本のドイツ文学のあり方への反省がったことにも注目したい。
訳業のなかで、ゲーテ「ファウスト」と、20世紀の代表的哲学者で、この人もユダヤ人のエルンスト・ブロッホの「希望の原理」は、翻訳文化賞に輝いた。とくに後者を貫くユートピアへの呼び声は読者の心を奮いたたせずにはおくまい。
大学定年後、叙勲の打診があったが、固辞しつづけたと聞く。(翻訳家・高橋武智)
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