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和平(やはらぎ)を求むるものは福(さいわい)なり

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日本国の天職如何、地理学は答へて曰く、彼女は東西両洋の媒介者なりと、勿言(いふことなかれ)、何ぞ簡短の甚しきや、是れ一大国民たるに恥づべからざる天職なればなり、是れ希臘国の天職たりしなり、是れ英国の天職にして彼女の強大なるは彼女が能く其天職を蓋せしが故なり、媒介者の位置、……「和平(やはらぎ)を求むるものは福(さいわい)なり、其人は神の子と称へられるべければなり」。
 地理学の指定に係る我国の天職は大和民族二千年間の歴史が不識の中に徐々として蓋しつゝありし大職ならずや。
    --内村鑑三『地人論』岩波文庫、1942年。

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無教会主義キリスト者・内村鑑三(1861-1930)が青年時代に著したのが冒頭に引用している『地人論』です。初版は『地理学考』とのタイトルで、1894年の出版されましたが、「世界の地理を一大詩篇として見たる作」と内村自身が呼ぶ異色の作品で、読んでいるとなかなか面白いところがあります。基本的には冒頭で地理学の目的が論じられ、そのケーススタディとして世界各地の風土を地理学の立場から論じているわけなのですが、やはり内村鑑三です。「二つのJ(JapanとJesus)」を持ち出すまでもなく、地政学的なスタンツと自己自身の信仰の立場から「日本という地域に住んでいるひとびとの使命・天職とは何か」をさらりと織り込んでいるところが彼らしいです。

おそらくその部分こそが内村鑑三自身がつっこんで議論したかった部分なのかもしれませんが、青年時代はそこはかとなく触れているところが一寸興味深いところです。

さて……。

「日本国の天職如何、地理学は答へて曰く、彼女は東西両洋の媒介者なり」

果たして内村の叫びから百年を超えた現在、状況はどのようなものであるのでしょうか……問うまでもない絶望的な状況にあるのかもしれません。

サブプライムローンに端を発する金融危機に関していうならば、欧米のそれにくらべると「壊滅的なダメージ」を現実は被っていないにも拘わらず、報道の有り様は、何か不安を煽る体たらく……何か意図的な誘導を感じざるを得ません。どのように生活者の視点から、世界へと、そして人々へと関わっていくべきなのか、もう一度考え直す必要が痛切に感じられ、ここ数年……隔靴掻痒な感が拭いきれない宇治家参去です。

で……。
本書はもともと、警醒社から1894年(明治27)に『地理学考』として出版されましたが、その後、改題を経て、全集に収録されました。これが手軽な文庫本として再録するのが岩波書店の岩波文庫ということになるのですが、その初版が出るのが、1942年(昭和17)6月のことであります。著名な内村研究者である鈴木俊郎の解説を付せられて出版されますが、これがちょうど歴史的に言うならば、ミッドウェー海戦前後の時代状況です。

出版業界に対する締め付け・用紙の配給が制限されるなかで、「よくぞ、出版したな」というのがもうひとつの実感です。鬼畜米英と主導されているときに、「是れ英国の天職にして彼女の強大なるは彼女が能く其天職を蓋せしが故なり」などと記された書籍が出版されたことに驚きです。

知性とか知識とはこういう形で不滅の光を放ちだすのかもしれません。

さふいえば……
いよいよ、自宅からも富士山が遠望できる季節になってきました。
これから初春まで、その容姿に楽しませてもらいます。

しかし、今日は昼から勤務校の推薦入試の試験監督なので、ぼちぼち「軽く」飲んで寝ます。二日酔いではいけませんから……。

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