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「人間は自分のことはわからない……」ものなんだ。だから、他人(ひと)が言ってくれたことはやっぱり素直に聞かないとね

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 つま楊枝

 ぼくらの若い頃は、大人の人たちが方々へ連れてってはいろいろ教えてくれかたからね。今はあまりそういうことがないんじゃないの。それだけ世の中に余裕がないんだね。
 銀座の裏のほうにSという昼間からぶっ通しでやっている鮨屋があるんです。ぼくは映画の試写を観て、家へ早く帰らなきゃならないから、そういうときによく行くんだが--古い店なんですよ、ぼくが株屋の頃から行ってたんだけど、そこのおじいさんがこの間亡くなったんだけどね、まあ八十ぐらいだったけど、威勢のいい頃から行っていたの。
 それでこっちは生意気盛りだからね、くわえ楊枝して外へ出ようとして、怒られたことがある。まあ怒られたというよりも、
 「若いうちにそんな恰好しちゃいけませんよ。くわえ楊枝は、見っともないから、およしなさい」
 と、注意された。
 昔は大人が厳しいからね。だけど、その厳しさはやっぱりひとつの愛情でしょう。ぼくのことを憎ければ、そんなことは言わないんですよ。あいつはばかだとか、あいつは勝手にやっていればいいんだということだけど、ぼくのことを憎いと思わないから注意するわけなんだね。
 人間というのは自分のことがわからないんだよ、あんまり。そのかわり他人(ひと)のことはわかるんですよ、第三者の眼から見ているから。だから、
 「君、こうしたらいいんじゃないか……」
 とか、
 「君、あれはよくないぜ……」
 とか、言うだろう。
 それは傍(はた)から見るとわかるんだよ。
 だけどそのときに、
 「何だ、お前にそんなことを言う資格があるか、お前だってこうじゃないか……」
 と言ったらおしまいなんだよ。だから、言ってくれたときは、
 (なるほど、そうかもしれない……)
 というふうに思わないとね。ぼくなんかもなかなか出来ないことだけどね。
 お前だって何だ、そんなことを言う資格があるのかって言われたら、ぼくなんかも書いたり、しゃべっていてこれが本になるようなことはとても言えないわけですよ。だけどぼくは、自分のこと以外のことはわりあいよく目に見えるから言うわけだからね。
 食べもの屋のおやじが、たとえ若いとは言ってもこちらが客でしょう、その客に対して何か偉そうに注してけしからんと、腹を立てる人が多いかもしれない。だけど、何度も言うように、、
 「人間は自分のことはわからない……」
 ものなんだ。だから、他人(ひと)が言ってくれたことはやっぱり素直に聞かないとね。
    --池波正太郎「つま楊枝」、『男の作法』新潮文庫、昭和五十九年。

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 〝「人間は自分のことはわからない……」
  ものなんだ。だから、他人(ひと)が言ってくれたことはやっぱり素直に聞かないとね〟……このことは重々承知なのです。そしてそのことを宇治家参去としては自分自身に対して他人(ひと)が言ってくれるのはありがたいのですが、それを自分でやるのはそれ以上に難しく勇気がいるのでは……などと思う早春の深夜です。

市井の職場で、高齢なのですがきちんとした老婦人のお客様から店内に犬を連れてあるいているお客様がいらっしゃるので注意した方がよろしいのでは?と声をかけられましたので、自分自身としては〝Sという昼間からぶっ通しでやっている鮨屋〟さんのおじいさんほど、人情にあふれタフな人物ではなくナイーヴなチキン野郎ですから頭をかかえながら、現場?へ急行することに!

売り場を見渡すと、二十代でしょうか……シャネルのサングラスをかけた若いおにいちゃんとおねえちゃんの組み合わせで、おにいちゃんがお犬様をかかえ、商品を選んでおりました。

当然、食品を扱う売り場ですので、盲導犬など介助犬を除き入店をおことわりしているわけですので、声をかけますと、

「あんだぁぁ、てめえ!! この犬が汚ねえっつうのかぁぁぁ」

「いえいえ、そちらのお犬様の汚い・綺麗ではなく、こちらは食品を扱う〝公共空間〟になりますので、介助犬などを除き入店をお断りしております。大変申し訳御座いませんが、買い物はお連れの方でしていただき、お犬様といっしょに店外でお待ち頂けませんか」
「ああん! どこにそんなこと書いてあんだぁぁぁ!!」

「どうぞ」

……ということで、おにいちゃんとお犬様を案内し、正面入り口の自動ドア横に〝大きく〟表示されている掲示物とマーキングを確認し、

「申し訳御座いませんが、お連れ様がお買い物が終わりになるまで、今暫く店外でお待ち下さいませ」

……これで、終わるかと思ったのですが、

「コラっ、お前エ、火つけんぞ、ボケッ!!」

……などとおっしゃいますので、

「火をつけますと、お客様の方がご不利益を被るかと存じます。大変申し訳御座いませんが他のお客様をお待たせしておりますので、応対をクローズさせていただきます。本日もご来店いただきましてありがとうございます」

……棒読みで店内にすっとんで帰りました。

久し振りに、いわゆる〝心臓ばくばく〟というやつで、鼻血でもでるのではなかろうか……と思う一瞬ですが、さらりとクローズでき、ともあれ、なによりでした。

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 昔は大人が厳しいからね。だけど、その厳しさはやっぱりひとつの愛情でしょう。ぼくのことを憎ければ、そんなことは言わないんですよ。あいつはばかだとか、あいつは勝手にやっていればいいんだということだけど、ぼくのことを憎いと思わないから注意するわけなんだね。
    --池波正太郎、前掲書。

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〝Sという昼間からぶっ通しでやっている鮨屋〟さんのおじいさんであれば、「あいつはばかだとか、あいつは勝手にやっていればいいんだ」と選べるかもしれませんが、自分の場合は、選ぶことも出来ず、そのまた前提条件としての時代意識がまったくことなりますので、同列に論じることも出来ないわけですが、「いったい、何なんだろう」とただ茫然自失するばかりです。

しかし……

「怖かった」

なんというか、チャックを開けっ放しがカッコイイというのが時代思潮とすれば辟易とするばかりですが、自分自身もそうした同じ命が冥服するものであるとすれば、通俗的ないい方で実に恐縮ですが、それを他山の石としていかなければその「怖かった」経験はたんなる日常の一コマで終わってしまい、自分自身の財産にはならないのだろうと思うばかりです。

「人間は自分のことはわからない……」ものなんだ。
だから、他人(ひと)が言ってくれたことはやっぱり素直に聞かないとね。

なんですが、それことを指摘するのには、それをうけいれるよりも勇気が必要かも知れません。

その意味では、〝無理矢理〟にでも勇気を〝奮い立たせてくれる〟?今の環境は、学を深める上ではありがたいのでしょうか……ねぇ?

とわいえ、実に「怖かった」・・・。

……ので、〝充全〟に、そのサングラスの奧にきらりと光る他者の〝まなざし〟に無限責任@レヴィナスを果たすことができなかったことは忸怩たる部分なのですが……。

久し振りに「怖かった」

で……。

帰宅すると、大学より非常勤の「任用通知書」が教材と一緒に届いておりました。
哲学を教えている短大の方からは、一月ぐらいにそれに該当する書類が届いていたのですが、となりの大学のほうからは、新年度も続行で「任用通知」以降の書類はがんがん来ていたものですが、やはりそれが来ないと一万の不安があるもので、ようやく年度末になって到着しましたのでひと安堵です。

切られない?ように新年度もさらなる充実をめざしてがんばらないとマズイよな……ということで、よいのくちから心臓がばくばくいいすぎたものですから、ちと軽く飲んで寝ます。

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