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(ああ、畜生め、なんて暑いんだよう)

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 昼下がりの境内の、松の木立に蝉が鳴き頻(しき)っている。
 夏の盛りの日ざしに参道が白く乾いて、参詣の人の姿もなかった。
 (ああ、畜生め、なんて暑いんだよう)
 相模の彦十は、げんなりとなって、先へ行く長谷川平蔵の背中を、うらめしげに見やりつつ、
 (へっ。長谷川さまときたらあ、この暑いのに汗もかかねえのだから、供をしている者は、たまったものじゃあねえ)
 参道の左側が大きな池になってい、その辺(ほと)りには葦簀張りの茶店もならんでおり、その中には客の姿もちらほら見えた。
 (ちぇっ……昼めしも食わねえつもりかよ。長谷川さまも吝(しわ)くなったものだ。あきれるほかねえ)
 胸の中で、彦十は文句をならべている。
 この日の長谷川平蔵は、白い帷子(かたびら)を着ながしにして、塗笠をかぶり、和泉守國貞二尺三寸五分の太刀を落とし差しに、例のごとき浪人姿の市中見廻りであった。
 平蔵が、本所二ツ目の軍鶏なべ屋〔五鉄〕へあらわれたのは五つ半(午前九時)ごろで、
 「おい。彦十。供をしろ」
 いまも、五鉄の二階に寝泊まりをしている老密偵・相模の彦十を連れ出した。
 それから、およそ二刻も諸方を歩きまわり、水一杯のもうとしなかったのだから、彦十が怒り出すのもむりはない。
 平蔵が〔本所の銕〕などとよばれていた、若き日の放蕩時代から知り合っている彦十だけに、いざとなると遠慮も会釈もなくなってくる。
 「長谷川さまよう。ちょいと、ひと休みさせておくんなせえよう」
 たまりかねて、彦十が声をかけたけれども、平蔵は振り向きもせぬ。
 ここは、請地村にある秋葉大権現の境内である。
 秋葉大権現は、遠州の秋葉大権現を勧請し、稲荷の相殿としたもので、ゆえに土地(ところ)の人びとは「千代世稲荷」と、よんでいる。
 このあたりは、現・墨田区向島というわけだが、当時は田園そのものの景色であって、物の本にも、
 「……境内の林泉は幽邃にして、四時遊覧の地なり」
 と、ある。
 「長谷川さまよう。いいかげんにして下せえよう」
 彦十が、ついに大声をあげたとき、平蔵は裏門を出てしまった。
 「ええ、もう、勝手にしやがれ」
 喚きながら彦十が裏門を飛び出すと、長谷川平蔵が向こうの茅ぶき屋根の茶店の前に立ち、塗笠をぬぎ、笑いかけているではないか。
 「な、何がおかしいのでござんす。年寄りが空腹を抱え、照りつけられてひょろひょろしているのが、そんなにおかしい……」
 「まあ、落ちつけ」
 「落ちついてなんか、いられ……」
 「この家(や)の鯉はうまいぞ」
 いうや、平蔵はさっさと茶店へ入って行く。
 (な、なあんだ。それならそうと、早くいっておくんなさりゃあいいによ)
 照れくさそうに彦十が、一足遅れて茶店へ入ると、すでに平蔵は土間を抜けて奧の小座敷へあがっている。
 茶店といっても、酒を出すし、気のきいた肴もつくる。
 この店は〔万常〕といい、土間の一隅に生簀を設け、鯉を放してあった。
 冷たい井戸水をつかっての鯉の洗いで、酒が出たものだから、
 「へ、へへ……すみませんねえ、長谷川さま」
 彦十は、たちまちに相好をくずした。
 「爺(とつ)つぁん。ここでたっぷりとのんだら、今日はもう、五鉄へ帰って昼寝でもするがいい」
 と、平蔵の口調もくだけてきた。
 「さすがは銕つぁん……いえ、あの長谷川さまだ。ものわかりがようごぜえます」
 だが、これから後で昼寝というわけにはいかなくなった。
 彦十が、むかし、知り合っていた盗賊の顔を見たのは、それから半刻(一時間)ほど後のことであった。
    --池波正太郎「高萩の捨五郎」、『鬼平犯科帳 20』文春文庫、2000年。

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なんらかの引用がありませんと宇治家参去らしくありませんので、入力はしたものの、ほぼ息が切れてきました。

土曜は短大の定期試験にて、早朝より大学へ出講。
前日、疲れを癒すためにガッツリ飲んだのが良くなかったのでしょうかヘロヘロ状態で出勤しましたが、早朝はそれでも、曇りながらになんとなく涼しい風がふいておりましたので、「長谷川さまときたらあ、この暑いのに汗もかかねえ」という快適状態で向かいましたものの、大学へ到着してからしばらくすると、バケツをひっくり返したような雨です。
試験開始とともに、雨足もよわくなりはじめましたが……無事、試験終了で、前期の大学の仕事は、あとは成績をつけてそれを返却して終了!ということで、ひとやまこえたなという実感です。

通信教育部のスクーリング直前に祖母がなくなったり、種々ありましたが、マア、なんとか走りきることが出来たことに、まだまだ、自分自身もすてたものではないな!と思いつつ、帰宅の教員バスの時間まで講師控室にて、答案を読んでいると、面白いコメントがひとつ。

「哲学って全然自分自身に関係ない、遠い世界の字面だけの議論だとおもっていましたが、15回の授業をうけるなかで、俄然その認識が変化しました。最終講義は、“卒業式”の当日のホームルームのようでじいいんと来ました! 先生はよくいっていましたよね!“授業で寝ていても何していてもいいが、『おめえら、本読めよ』”を肝に銘じて夏休みは挑戦してみます」

手前味噌ですいません。
しかしありがたいものです。
いろいろ試行錯誤しながら今回はまたちと特別に工夫もしてみたのですが、もった以上の反応でしたので、これから更に最高の内容を組み立てていくぞ!と決意するばかりです。

さて……バケツをひっくり返したような雨ですが、試験終了時刻ちかくになると、すっぱりと晴れ、太陽がぎらぎらと昇り始めてしまいました。

こいつはチトやばい!

そうです。
台風一過ってやつですね。

嫌な予測はドンピンで、大学から教員バスの停車する講堂前まであるくだけで、汗まみれ!

精神としてはここちよい疲労なのですが、肉体としては最悪のコンディションにて……、どこかで弔い合戦を!

……とは思うのですが、夕方から市井の仕事を控えていることもあり、そのまんま飲みに行くなどという選択肢は当然とれません。

また「冷たい井戸水をつかっての鯉の洗いで、酒が出」て、帰って「昼寝」をとることもできませんので、ちょいと気になっていた蕎麦屋でお茶を濁した次第ですが……、

……これが思った以上に絶品で、「鯉の洗い」がなくとも、冷たい「酒」がなくとも、ひさしぶりに満足したものです。

細かいレポートは恐縮ですが、次回の詳論?させていただこうかと思います。

さて……。
用事が山積みですが、本日は、これから寝て、朝一番で息子殿と細君と共に、本人が入学を希望している小学校の入試説明会です。

昨年も参加したのですが、これがきつかったです。

ど夏日に、スーツをフル装備で参加しましたが、たぶん同じ状況だと思います。
しかも、説明会がおわるとそのまんま市井の仕事……という仕事のスパイラルです。

「貧乏暇なし」とはよくできた言葉です。

……ということで、これからチト冷酒を飲んでから寝ますですワ。

お休みなさい、お月様。

……まさに昼寝のできない相模無宿の彦十でした!

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