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夜にも、嵐にも、飢えにも、事故にも、挫折にも、樹木や動物のごとく立ち向かいたい

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ぼく不動なるもの

ぼく不動なるもの、「自然」のさなかに悠然と立ち、
万物の支配者あるいは女王、不条理なものにかこまれながら自若たる、
そのものたちの色に染まり、そのものたちのごとく受身で、柔軟で、寡黙、
ぼくの生業、貧困、悪名、欠点、罪悪、これらのことは思っていたほどたいしたことではないと知り、
ぼくはメキシコの海をめざし、あるいはマナハッタかテネシーの川に、あるいは遙かな北ぐいであれ奥地であれ、
川に暮らし森に生きる、あるいはこれらの諸州か沿岸地域の、それとも湖水のあたりかカナダのどこかで農場ぐらし、
たといどこで暮らそうとも、おお、どんな偶然事にも泰然としていたい、
夜にも、嵐にも、飢えにも、事故にも、挫折にも、樹木や動物のごとく立ち向かいたい。
    --W.ホイットマン(酒本雅之訳)「ぼく不動なるもの」、『草の葉(上)』岩波文庫、1998年。

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ホイットマン(Walter Whitman,1819-1892)の『草の葉』からふたつの詩を紹介しておきます。

言葉を失う瞬間があるのですが、不動に突き進んでいきたいものです。

問題は極めて一人の人間に時として集中的に襲いかかってくるのですが、決して人間はひとりではありません。

だから限りない青海原を乗り越えていけるはず……だと確信しつつ。

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  海に浮かぶ客船のなかで

風がひゅうひゅう唸り、波が、尊大な大波が高鳴り、
限りない青海原が四方に広がる、
そんな海に浮かぶ客船のなかで、
それとも濃紺の海原にわびしく浮かび、
それでいて自信に満ち、歓喜に溢れ、白い帆を広げて、
白昼の泡だち輝く波のさなか、あるいは夜空にかかるあまたの星の下でで、精妙な大気を分けて進む一艘の帆船のなかで、
老いも若きもすべての船乗りたちに、わたしはすっかり打ちとけて、
陸地を思うよすがとして、おそらく読まれることだろう。

「これぞわしらの思い、航海者の思い、
これぞ陸地の、堅い陣地の歌のみならず」、あとで彼らは言うかもしれぬ、
「ここでは空がアーチを描き、足の下には甲板のゆるやかなうねり、
長い鼓動、引いては満ちる終わりのない動揺、
目には見えぬ神秘の声調、海の国を偲ばせる茫漠広大な暗示、潮流さながらに流れゆく言葉、
潮の香り、索具類のかすかな軋み、もの憂いリズム、
果てしない眺望と遠くに霞む水平線、これらもすべてはここにある、
これぞまさしく大海原の詩」

だから挫けてはならぬ、おおわたしの本よ、お前の定めを果たすのだ、
お前はただ陸地ばかりを偲ぶよすがにあらず、
精妙な大気を分ける孤独な帆船のように、お前もまた、めざす港は分からぬが、それでも自信に溢れ、
帆走するすべての船の僚友となって進みつづけよ、
わたしの愛を包みこんで彼らのところへ届けてくれ、(親愛なる船乗り諸君、君らのためにわたしはこれらすべての歌草に愛を包みこんでおく)、
船足を早めよ、わたしの本よ、尊大な波浪に逆らってわたしの小舟よお前の白い帆を広げよ、
歌いつづけよ、走りつづけよ、限りない青海原を越え、わたしからすべての海へ
この歌を、船乗りたちと彼らのすべての船たちのために届けてくれ。
    --W.ホイットマン(酒本雅之訳)「海に浮かぶ客船のなかで」、『草の葉(上)』岩波文庫、1998年。

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