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【覚え書】「【今週の本棚】山内昌之 評 倒壊する巨塔 上・下」、『毎日新聞』2009年10月4日(日)付。

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すんません、連日の【覚え書】関係で……。

ちょうど、今、ローレンス・ライト(Lawrence Wright,1947-)の9・11事件に関するルポルータジュ(思想的考察)である『倒壊する巨塔』を読んでおり、その書評が出ておりましたので、ひとつ紹介しておきます。

山内氏の手による論考は、やや「思惑」の部分に重きをおいた描写……限られた字数ですからイタシカタナシ……になりますが、それでも、読んでおりますと正鵠を得ているところが多く【覚え書】とした次第です。

論点だけを整理すると、結局のところ、原理主義といえばイスラームに独占的に配置される問題ではないということ。

そして、現状の足跡は、宗教そのものに内在した悪性とはまったくかかわりがなく、なんらかの意図的なイデオロギーの作為によってなされているということ。

そして、結局のところ、その「実働部隊」の「隊員」たちの純粋さ(Purerism)が、なにか利益誘導され、「勝ってくるぞと勇ましく……」となっている問題そのものの陥穽……。

なんども書いておりますが、Pureなものは、ウンコ臭い現実の中でひとつひとつ、共同存在者と確認しながらすすんでいかないとまずいわけなのですが、どうも人間という生き物は、Pureなものを垂直から一挙に押しつけ、Purerism法案可決によって事態を展開しようとしてしまう嫌いが強く……そこに辟易とはするわけですが、そうした傾向が自分自身に内在することも承知しておりますので、自覚しつつ、ひとつそれを「自分自身の問題」として格闘戦していくしかないのかもしれません。

だからこそ……
そうした靄をかき分けて、利益誘導の張本人そのものと、そしてなんらかの利益誘導に導こうとする報道をかき分けながら、ひとつひとつの事態を確認するなかで、推移を誘導されずに、ひとりひとりの民衆である自分自身がその舵を切っていく必要と賢明さと勇気が必要なんだろう……と思われて他なりません。

……ということで、数時間後には授業なのでこの辺で沈没します。

今日は雨模様との予報ですが、この時間はまだ空が澄んでい、乙な月見酒としゃれこみます。

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「【今週の本棚】山内昌之 評 倒壊する巨塔 上・下」、『毎日新聞』2009年10月4日(日)付。

山内 昌之 評 倒壊する巨塔 上・下
        ローレンス・ライト著(白水社・各2550円)

9・11--渦巻いたそれぞれの思惑

 9・11同時多発テロは謎の多い事件であった。そのなかで、ウサマ・ビンラディンやザワヒリといったテロ犯罪者だけでなく、その好敵手たちの思惑や心理のひだまでくっきり描き出した本書は、歴史学とルポルタージュの長所を生かした力作である。『ニューヨーカー』誌のスタッフライターの著者は、事件の発端と因果関係に触れるだけではない。ビンラディンを育てたサウジアラビアの情報部長官トゥルキー王子や、ビンラディンらを追い詰める一歩手前までいった米連邦捜査局(FBI)の対テロ部長オニールは、その複雑な屈折感だけでなく、野心的で想像力に富み、情け容赦なく敵対者の一切合切をすべてだいなしにする点で犯人らとも性格的に共通する面が少なくない。
 第一夫人と離婚して十五歳の少女と結婚するビンラディンや多数の女性遍歴を重ねるオニールらの恐ろしく人間臭い生活ぶり、テロリストだけでなくFBIやサウジアラビア王室内部でも繰り広げられる嫉妬に満ちた権力闘争も興味をそそってやまない。ことにイスラム・テロの専門家オニールの警告を生かせずに引退に追い込み、そのうえ9・11に世界貿易センタービルで第二の人生を歩み始めたばかりの彼を死においやった責任はだれにあるのか。サウジアラビア王室の寵児で無口のビンラディンがその体制の腐敗ぶりや異教徒アメリカ軍の導入で王族と決別するあたりの人間模様も読みであるが。
 アフガニスタンの洞窟から超大国アメリカに挑戦したビンラディンの“清廉”な使命感や、「決断の集団化、実行の分権化」というアルカイダの組織運営の特質もよく描かれている。世俗的な科学技術を発達させた巨人ゴリアテのアメリカにも臆する様子のないビンラディンは、“自爆”という手法に少しもたじろがない。むしろ“自爆”戦術こそ多くの人間を殺すテロ作戦の意図に道徳的な逃げ口上を提供したと著者は語る。大量殺戮が目的のアルカイダにとって、“罪もない人たち”という概念自体がありうるはずもなく、人びとを無差別に巻き込むテロに忸怩たる感情もなかった。ザワヒリは生物・化学兵器にひどく執着したのに、ビンラディンはむしろ核兵器使用のほうがましだと考えたようだ。「アルカイダ内のハト派」という表現には不謹慎ながら苦笑を誘われるが、かれらはムスリムの土地で民間人を巻き込んで生物・化学兵器を使うのを逡巡したという。しかし「タカ派」は、アメリカが二度も日本に核兵器を実際に使用し、イラクでも劣化ウラン弾を使用している以上、ムスリムを守るのに何の遠慮もいらないのだというのだ。
 9・11の下手人たちは大半が上・中流の出身者で自然科学や工学への傾斜が強く、精神疾患の徴候もなかった。かれらは、欧米社会で本当の足場を築けなかった境界線上の人間であり、その「寄る辺なき思い」がかれらを自然にモスクへ通わせ、反ユダヤ主義にも感染させた。その一人モハメド・アタらの宗教的潔癖さと情勢への忌避感を発見した著者は、性的葛藤もアタをテロに走らせる“文明の衝突”並の大きな影響を及ぼしたと推測する。9・11の直前、トゥルキー王子は情報部長感を辞めオニールはFBIを退職する。そして、新生アフガニスタンの担い手になるべき北部同盟のマスードはビンラディンの密使によって場草津された。事実確認を積み重ねていく“水平的報道”と事の本質を深く理解していく“垂直的報道”が見事に融解したピュリッァー賞受賞作である。(平賀秀明訳)
    --「【今週の本棚】山内昌之 評 倒壊する巨塔 上・下」、『毎日新聞』2009年10月4日(日)付。

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