« 魂のためによいこと | トップページ | 影さへに今はと菊のうつろふは波のそこにも霜や置くらむ »

【覚え書】鹿島茂「[引用句辞典 不朽版]民主国家の借金」、『毎日新聞』2009年10月28日(水)付。

01_img_1204

例によって考える時間がないのですが、先週、新聞に目を通しているとおもしろい記事に出くわしましたのでちょいと一本紹介しておきます。

アレクシス・ド・トクヴィル(Charles Alexis Henri Clerel de Tocqueville、1805-1859)の民主主義論の古典からの考察というものですが、トクヴィルの民主主義論(『アメリカのデモクラシー(De la démocratie en Amérique)』)は日本ではどちらかといえば、その「功」の側面ばかりクローズアップされてきたフシといいますか、受容史が顕著です。

しかし丁寧に読むとトクヴィルのレポートは、「功」だけでなく、その正反対の側面、いうなれば、ひとつものの裏表である……ここでいう「負」とはアンチとかそうした意味合いの「負」でないことはいうまでもなく、ワンセットになった異なる側面として受容すべき意味合い……の側面も詳細にレポートされております。

くどいようですが、その側面とは、どちらかといえば、「功」とともに「引き受けなければならない」責任といってもよいのでしょうが、そのあたりにあまり焦点があてられてこなったのも事実だよな……ということで、そのあたりを短い文章ですがひとつ踏み込んだ記事がありましたので【覚え書】として残しておきます。

トクヴィルを本朝で初めて紹介したのは福澤諭吉(1835-1901)なのですが、福澤は比較的その両方の側面を注意深く紹介していたのですが、民主主義なるものが「アタリマエ」のものとしてなってしまうと、その注意深く設計?されたシステムの持つ陥穽を見抜けなくなってしまうのかもしれません。

-----

鹿島茂「[引用句辞典 不朽版]民主国家の借金」、『毎日新聞』2009年10月28日(水)付。

民主国家の借金
誰もが他人事と思い やがて大破局のXデー……

 「次に最後の<財産をほとんど、あるいはまったくもっていない>階級が立法を独占した場合を想定してみよう。この場合、公租は減少するどころか増大する可能性があると私は思う。(中略)
 法律に賛成する者の大部分は課税しうる財産を何一つもたないから、社会のために費消される金銭はすべて彼らにとって損失なしの利益になるように見える。(中略)
 民主政では主権者が貧しいから、その暮らしをよくしてやらねば主権者の好意は決して得られない。金を使わずにこれを行うことはまず不可能である。(中略)
 このため、一般には公租は文明とともに増大するように思われ、税金は知識の普及につれて高くなっている」
 (アレクシス・ド・トクヴィル『アメリカのデモクラシー』第一巻(下)松本礼二訳 岩波文庫)

 民主党政権下での各省庁の概算要求が出そろい、かつてない九十五兆円の規模に膨らんだ。民主党がマニフェストにうたっていた項目を全部実現しようとすれば、税収(四十兆円を下回る見込み)が突然に増加するわけはないのだから、赤字国債の発行以外に方法はないだろう。
 おそらく、民主党が権力の座にある四年間に赤字国債は増え続けることはあっても、減ることは決してないだろう。なぜなら、赤字国債がいやなら、消費税の値上げをはじめとする増税路線を歩むほかないが、これは、民主党が、少なくとも天下を握っている間はなんとしても回避したい方向性だからである。
 アレクシス・ド・トクヴィルは、その名前からも判断がつくように、貴族出身の十九世紀フランスの歴史家・政治家。マルクス主義全盛期の時代には顧みられることが少なかったが、冷戦構造崩壊後、俄然、評価が高くなり、いまやミシュレをしのぐ最高の歴史家ではないかという声が定着しつつある。『アメリカのデモクラシー』は、そんなトクヴィルが若き日に合衆国を視察してまわった見聞をまとめたものだが、今日、アメリカ型政治形態のはらむ利点と欠点、とりわけアメリカ型デモクラシーの陥りやすい陥穽を恐るべき慧眼で見抜いたアメリカ論として、必読の文献となっている。
 げんに、民主主義が進捗し、民衆が立法者として権力の座に上ると、有権者の要望に答えようとして国家財政の規模が膨らむから、公租は膨大になるというパラドックスをトクヴィルはもうこの時点で指摘している。
 ところで、これを日本のけーすに引き付けて考える場合、問題はいつ赤字国債発行をやめて増税路線に転じるかということになるが、私は、個人的体験からして、いったん身についてしまった借金(国債)依存体質というものはそう簡単には抜けないと思う。
 理由その一。借金がほとんどないか、貯金が少しある人間はドケチになるが、借金がたくさんある人間は、自分に対しても他人に対しても鷹揚になる。借金というものは、ある限度を超えると、まるで他人事のように思えて、想像力が働かなくなるのである。個人でさえこうなのだから、他人の金を預かっている政治家や役人においておやである。当分のあいだは単年度五十兆円の赤字国債といっても、だれも真剣味をもってこれに対峙するという姿勢は持てないにちがいない。
 理由その二。借金生活の破綻はある日突然やってくるが、それを予感することは困難である。かなりの借金を抱えていても、返してまた借りるというヤリクリを続けているうちは、危機はほとんど感知できない。このままなんとかやっていけるのではという錯覚さえ生まれる。ところが、ある時、借金はいきなりキバをむく。複利法のせいである。
 年利二十%で十万円を借りた場合、一年なら十二万円だが、五年だと二十四万八千八百三十二円。十年では、なんと、六十一万九千百七十四円。ある時点からグンと勾配をきつくして、放物線を描いて跳ね上がっていくのだ。
 しかし、たとえ日本が取るべき道は赤字国債をやめるしかないことが分かっていても、大増税を打ち出したら、政権が取れないことは歴然としているから、どの政党もこれをマニフェストにうたわうわけがない。かくて国家的破産のXデーは二〇一四~二〇一五には確実に到来することになるのである。
(かしま・しげる=仏文学者)
    --鹿島茂「[引用句辞典 不朽版]民主国家の借金」、『毎日新聞』2009年10月28日(水)付。

-----

02detocque




















03_img_1207



































アメリカのデモクラシー (第1巻上) (岩波文庫) Book アメリカのデモクラシー (第1巻上) (岩波文庫)

著者:トクヴィル
販売元:岩波書店
Amazon.co.jpで詳細を確認する

|

« 魂のためによいこと | トップページ | 影さへに今はと菊のうつろふは波のそこにも霜や置くらむ »

覚え書」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/451663/32039698

この記事へのトラックバック一覧です: 【覚え書】鹿島茂「[引用句辞典 不朽版]民主国家の借金」、『毎日新聞』2009年10月28日(水)付。:

« 魂のためによいこと | トップページ | 影さへに今はと菊のうつろふは波のそこにも霜や置くらむ »