« その後の人生で、彼はひどくいぶかしい思いで、このときのことを思いかえした | トップページ | 【覚え書】「社説:小沢幹事長発言と政治家の宗教感覚」、『中外日報』2009年12月3日(金)付。 »

「飾り」が「戦う」ことを邪魔するはずなのですが……。

01_img_0115

-----

 権力者というものは、おのれの暴力行為をつねになにか宗教上の理想、世界観上の理想で飾りたてようとするものである。
    --ツヴァイク(高杉一郎訳)「権力とたたかう良心」、『ツヴァイク全集 第一七巻』みすず書房、1973年。

-----

ちょうど月曜日に授業で、テロの問題に関して議論することが少々あり、そのことを思い出してオーストリアの作家・評論家・ツヴァイク(Stefan Zweig,1881-1942)を繙く宇治家参去です。

1936年に出版された『権力とたたかう良心』からの一節ですが、作中で描かれるのは宗教改革者として名高い・ジャン・カルヴァン(Jean Calvin,1509-1564)です。ちょうどジュネーヴで神権政治を敷いていたころのカルヴァンの、異端に対する迫害をテーマにした作品ですが、改めて読み直すと非常に示唆に富んだ一冊です。

カルヴィニズムには一種の峻厳な厳格さがつきまといますが、その筋道がちょいとずれはじめると、偏狭さと過激さに陥るのが道理なのですが、ツヴァイクの筆致はその様子を浮かび上がらせるのに鮮やかです。

歴史を振り返ると、宗教が世俗を支配したのがヨーロッパの歴史であり、その逆転が近代へと至る営みです。ヨーロッパに限らず、宗教による世俗の全支配という状況はたいていろくなモノではありません。しかしその全否定がもたらすものもろくなモノでもありません。政治・イデオロギーが「宗教」にとってかわり、「全支配」を目論む構造がその代換物として機能しているだけですから。

精神性を標榜しつつその内実を失った構造への批判が改革だったのですが、世俗化の進展によって、その代換物として出てきたのは、精神性を欠いた怪物によるトータル・コントロールという状況でしょう。しかもそれがなかなか認知できにくい構造として機能しているところが、ポストモダンという雰囲気です。

本来的には、「支配」するという図式ではなく、両者が相互批判を通じながら、第三の道を提示すべきだとは思うのですが、このあたりが人間世界ではなかなか難しいのかもしれません。

さて……。
世紀末から顕著な問題となっている、テロリズムは殆どが宗教に起因するとの触れ込みが多いのですが、これもその内実をとうならば、その消息は触れ込みほど精確なものでもないようです。

何かに名を借りて戦うことほど、ろくなことはありません。
そしてその過程が先鋭化すればするほど、これまたろくなことはありません。

本来、「戦う」のであれば、「飾りたてよう」として「戦う」と、その「飾りたてよう」とする「飾り」が「戦う」ことを邪魔するはずなのですが……。

メディアもネタになるから報道によって「飾りたてよう」とする始末で、ひとびとが真実からどんどん、どんどん遠ざかっているような危惧をどうしても抱く宇治家参去でした。

-----

 各人の生命を神聖なるものと承認することは凡ゆる道徳の最初の、そして唯一の基礎である。
    --トルストイ(除村吉太郎訳)「神の王国は汝等のうちの在り」、『トルストイ全集 第一七巻』岩波書店、一九三一年。

-----

トルストイ(Lev Nikorajevich Tolstoj,1828-1910)は、生命を凡ゆる道徳の最初の、そして唯一の基礎におくべきだと主張しましたが、宗教せによ、政治にせよ、生命そのものに視座を本来はおくべきなのでしょうが、生命の当体が「見えない」がゆえに、「見えない」こととしてスルーしてしまうというのが今の状況かも……知れません。

02stefan_zweig01 02_img_0115_2

Castellio gegen Calvin. Ein Gewissen gegen Gewalt. Book Castellio gegen Calvin. Ein Gewissen gegen Gewalt.

著者:Stefan Zweig
販売元:Fischer Taschenbuch Vlg.
Amazon.co.jpで詳細を確認する

Castellio gegen Calvin oder Ein Gewissen gegen die Gewalt. Gesammelte Werke in Einzelbaenden Book Castellio gegen Calvin oder Ein Gewissen gegen die Gewalt. Gesammelte Werke in Einzelbaenden

著者:Stefan Zweig
販売元:Fischer S. Verlag Gmbh
Amazon.co.jpで詳細を確認する

|

« その後の人生で、彼はひどくいぶかしい思いで、このときのことを思いかえした | トップページ | 【覚え書】「社説:小沢幹事長発言と政治家の宗教感覚」、『中外日報』2009年12月3日(金)付。 »

現代批評」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/451663/32618546

この記事へのトラックバック一覧です: 「飾り」が「戦う」ことを邪魔するはずなのですが……。:

« その後の人生で、彼はひどくいぶかしい思いで、このときのことを思いかえした | トップページ | 【覚え書】「社説:小沢幹事長発言と政治家の宗教感覚」、『中外日報』2009年12月3日(金)付。 »