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【覚え書】「正しく考へ、善意を持つのみで足りるのだ」、ポウプ(上田勤訳)『人間論』

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 (二) 自然の道に従つて妄想を去るがよい。
 幸福に達し幸福を考へるのに、地位や頭脳を必要としない。
 その恵みは明白で、極端なところにはない。
 正しく考へ、善意を持つのみで足りるのだ。
 天与の多寡を嘆くのは勝手だが、
 尋常の判断力と生活は何人にも平等に享けてゐる。
 思ひだすがよい、「宇宙の原理の働きは、
 部分的な法則によらず、一般的な法則による」ことを。
 我らが正しく幸福と呼ぶものは、
 一人の利益ではなく、全体の利益の中にあるのだ。
 個人の見いだす幸福で、多かれ少なかれ、
 人類全体の方向を持たないものはない。
 凶悪な盗賊、驕慢に狂ふ暴君、
 洞窟にかくれる隠者で、自得の者はいないのだ。
 人間を避け、人間を憎むと称する者も、
 弟子を求め、友を定めようとするではないか。
 他人が感じ、考へるものをとり去るならば、
 快楽はすべて色あせ、名誉の光も消えるであらう。
 人には分がある。分を越えて望む者は、
 快楽が苦痛の半ばも償いはないのを悟るであらう。
 秩序は神の第一法則だ。それを明らかに悟るならば、
 人間に大小、貧富、賢愚のあるのは当然である。
 この事実を捉へて人間の禍福を論ずるならば、
 健全な常識が泣くであらう。
 一切のものがその幸福に於て平等ならば、
 天は人類に公平だと言はなければならない。
 相互の欠乏は、却ってこの幸福を増大し、
 自然の相違は、自然の平和の幸福なのだ。
 身分、境遇は言ふに足りず、
 家来も王も、護衛する者もされる者も、
 友たる者も、友を得て喜ぶ者も、
 幸福はすべてに亘つて同一なのだ。
 天は全体の各個に亘つて
 共通に一つの魂を与へ一つの幸福を贈る。
 運命の恵みを各人が一様に受け、
 各人がすべて平等ならば、争ひは慎むべきではないか。
 幸福がすべての人間に意図されたものならば、
 神が外物に満足を置いたとは考へられない。
 運命の恵みは多様で、
 ある者は幸福と呼ばれ、ある者は不幸と言ふ。
 然し前者が不安の中に、後者が希望の中にあるならば、
 天の正しき秤は均衡を得ていると言はなければならない。
 現在の幸・不幸が喜びであり、呪ひであるのではない、
 将来よくなり、悪くなる、その見透しが重大なのだ。
 あゝ、地上の子らよ、汝らは依然として、
 山の上に山を積み重ねて、空に昇らうとするのか。
 天は常に哄笑して、そのむなしい努力をみ、
 狂人をその積み重ねた山の下に葬り去るのだ。
    --ポウプ(上田勤訳)「書簡四」、『人間論』岩波文庫、1950年。

   Take Nature's path, and mad opinions leave;
All states can reach it, and all heads conceive;
Obvious her goods, in no extreme they dwell;
There needs but thinking right, and meaning well;
And mourn our various portions as we please,
Equal is common sense, and common ease.
   Remember, man, "the Universal Cause
Acts not by partial, but by general laws;"
And makes what happiness we justly call
Subsist not in the good of one, but all.
There's not a blessing individuals find,
But some way leans and hearkens to the kind:
No bandit fierce, no tyrant mad with pride,
No caverned hermit, rests self-satisfied:
Who most to shun or hate mankind pretend,
Seek an admirer, or would fix a friend:
Abstract what others feel, what others think,
All pleasures sicken, and all glories sink:
Each has his share; and who would more obtain,
Shall find, the pleasure pays not half the pain.
   Order is Heaven's first law; and this confest,
Some are, and must be, greater than the rest,
More rich, more wise; but who infers from hence
That such are happier, shocks all common sense.
Heaven to mankind impartial we confess,
If all are equal in their happiness:
But mutual wants this happiness increase;
All Nature's difference keeps all Nature's peace.
Condition, circumstance is not the thing;
Bliss is the same in subject or in king,
In who obtain defence, or who defend,
In him who is, or him who finds a friend:
Heaven breathes through every member of the whole
One common blessing, as one common soul.
But fortune's gifts if each alike possessed,
And each were equal, must not all contest?
If then to all men happiness was meant,
God in externals could not place content.
   Fortune her gifts may variously dispose,
And these be happy called, unhappy those;
But Heaven's just balance equal will appear,
While those are placed in hope, and these in fear:
Nor present good or ill, the joy or curse,
But future views of better or of worse,
   Oh, sons of earth! attempt ye still to rise,
By mountains piled on mountains, to the skies,
Heaven still with laughter the vain toil surveys,
And buries madmen in the heaps they raise.
    --Alexander Pope(Henry Morley,ed.),Essay on Man Moral Essays and Satires,CASSELL & COMPANY,LIMITED:LONDON,1891.

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年末になってくると、人格三流・知性二流の宇治家参去ですら、忙しくなってくるというものですが、ちょいとしみる一節を紹介しておきます。

18世紀イギリスを代表する詩人・アレキサンダー・ポープ(Alexander Pope,1688-1744)の『人間論』(An essay on man)からの一節です。

混沌とした世の中だからこそ、大地に足をしっかりとおろし、風に左右されない賢明な生活者の知恵ほど正しいものはないのかもしれません。

「正しく考へ、善意を持つのみで足りるのだ。」

他者への還元・同化することを一切拒み続ける一個の存在の幸福と、全人類の幸福の一致。これは分断されたものでも、どちらかが優先されるべきものでもないのかもしれません。
その獲得を目指す漸進的なとりくみのなかに、恩寵としてでてくるものなのかもしれません。

なにか大切なものをポープに少しだけ教えてもらったような気がします。
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