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「ゆったりと、真にカルチベートされた人間になれ」

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……僕は、去年わかれた黒田先生が、やたら無性に恋いしくなった。焦げつくように、したわしくなった。あの先生には、たしかになにかあった。だいいち、利巧だった。男らしく、きびきびしていた。中学校全体の尊敬の的だったと言ってもいいだろう。或る英語の時間に、先生は、リア王の章を静かに訳し終えて、それから、だし抜けに言い出した。がらりと語調も変っていた。噛んで吐き出すような語調とは、あんなのを言うのだろうか。とに角、ぶっきら棒な口調だった。それも、急に、なんの予告もなしに言い出したのだから僕たちは、どきんとした。
「もう、これでおわかれなんだ。はかないものさ。実際、教師と生徒の仲なんて、いい加減なものだ。教師が退職してしまえば、それっきり他人になるんだ。君達が悪いんじゃない、教師が悪いんだ。じっせえ、教師なんて馬鹿野郎ばっかりさ。男だか女だか、わからねえ野郎ばっかりだ。こんな事を君たちに向って言っちゃ悪いけど、俺はもう、我慢が出来なくなったんだ。教員室の空気が、さ。無学だ! エゴだ。生徒を愛していないんだ。俺は、もう、二年間も教員室で頑張って来たんだ。もういけねえ。クビになる前に、俺のほうから、よした。きょう、この時間だけで、おしまいなんだ。もう君たちとは逢えねえかも知れないけど、お互いに、これから、うんと勉強しよう。勉強というものは、いいものだ。代数や幾何の勉強が、学校を卒業してしまえば、もう何の役にも立たないものだと思っている人もあるようだが、大間違いだ。植物でも、動物でも、物理でも化学でも、時間のゆるす限り勉強して置かなければならん。日常の生活に直接役に立たないような勉強こそ、将来、君たちの人格を完成させるのだ。何も自分の知識を誇る必要はない。勉強して、それから、けろりと忘れてもいいんだ。覚えるということが大事なのではなくて、大事なのは、カルチベートされるということなんだ。カルチュアというのは、公式や単語をたくさん暗記している事でなくて、心を広く持つという事なんだ。つまり、愛するという事を知る事だ。学生時代に不勉強だった人は、社会に出てからも、かならずむごいエゴイストだ。学問なんて、覚えると同時に忘れてしまってもいいものなんだ。けれども、全部忘れてしまっても、その勉強の訓練の底に一つかみの砂金が残っているものだ。これだ。これが貴いのだ。勉強しなければいかん。そうして、その学問を、生活に無理に直接に役立てようとあせってはいかん。ゆったりと、真にカルチベートされた人間になれ! これだけだ、俺の言いたいのは。君たちとは、もうこの教室で一緒に勉強は出来ないね。けれども、君たちの名前は一生わすれないで覚えているぞ。君たちも、たまには俺の事を思い出してくれよ。あっけないお別れだけど、男と男だ。あっさり行こう。最後に、君たちの御健康を祈ります。」すこし青い顔をして、ちっとも笑わず、先生のほうから僕たちにお辞儀をした。
 僕は先生に飛びついて泣きたかった。
「礼!」級長の矢村が、半分泣き声で号令をかけた。六十人、静粛に起立して心からの礼をした。
    --太宰治「正義と微笑」、『パンドラの匣』新潮文庫、昭和四十八年。

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どうも宇治家参去です。

今週は変則で市井の職場が月曜休みだったのですが、日曜日に重~い蓋をあけた影響で腰がぴしぴしと悲鳴をあげていたわけですけども、自宅に配達できない荷物を市井の職場宛に送付していたものですから、休みにもかかわらず、職場へと足を向けた次第です。

ネットオークション、Amazon、楽天はじめ種々取引をしておりますので、発送・受けとり含め週に3-4回は宅配業者とのやりとりがあるのですが、宇治家参去宛であったとしても細君が結構、あけてしまうものでして……文句を言われそうなもので、職場で受けとっても大丈夫な奴は職場宛で受けとるようにしております。

今回の物件は、例のiPhone用の、Gizmon製のマクロ・ワイド撮影用のレンズとそのアダプター……iPhoneは基本画角が35mmなのですがこれをつけると28mmワイド撮影がOKで、接写も1cmぐらいまで近寄れるという便利なシロモノ!……なのですが、こういう〝遊び〟の部分を購入したことがバレると、

マア、それが

ウザイ

……というわけで、お互いに気持ちがよくありませんので、職場へ送ってもらった次第ですが、それを引き取りに行ったという寸法です。

さて……。
夕方に事務所で荷物を受けとってから、ちょいと深夜用のつまみをみつくろって、レジに並んでいたところ……何しろ市井の職場とはGMSですのでそのあたりは便利なのですが……、同僚に声をかけられ、列から離れたわけですが……、、、

「宇治家参去さん、英語わかります???」

……ふたつ向こうのレジでちょいとトラブルがあったようで、、、

「いや、ワタクシ、英語を〝聴いて〟理解はできますが、発信はできませんぞよ、オヨヨ」

……って思いつつ、緊迫していた状況のようにて、、、

「英語以前に、あちきは、今日は非番ですがなもし~」

……って漱石・夏目金之助(1867-1916)の『坊ちゃん』の登場人物的風のバッタもん愛媛言葉でスルーしようかとも思ったのですが、

……そうもいかないようで、

「ゴルァァ、何年も大学に居たんだろう、ボケェ」って眼差しに打ち抜かれ、〝現場〟へ急行した次第です。

……ってこれが10秒足らずのやりとりなわけですが……。

で……。

要するに、お客様がカゴに入れた商品がオレンジなのか、いよかんなのか、はたまたデコポンなのか……。

そこに翠点があったようです。

お恥ずかしながら、小生・宇治家参去、上述したとおり、英語を流暢に〝話す〟ことが苦手です。

読み書きはぶっちゃけ達者です。
※ですから勤務中の案件であればレトロに〝筆談〟を選択するわけですが、今回はそういう余裕もなく……ってところです。

また、読み書きでも順位をつければ……、

フランス、ドイツ、英語、ラテン(古典ラテン語なので中世ラテン語はままなりません)、ギリシアという劣位になっていきますし、フランス語以外は、大抵似たような水準ですから、、、

Parlez-Vous Français ?

……などと念のために聴きましたが、案の定NGのようにて……、ほんぢゃあ〝片言イングリッシュ〟かぁぁ~って!

……ってことなのですが、「オレンジ」は分かるにしても、「いよかん」「デコポン」は英語でなんというのぢゃあああ、と心の中で叫びつつ、目の前の黄色い物体が、「オレンジ」か「いよかん」か「デコポン」か判読できないところに底の低さを噛みしめつつ、これがまた10秒の脳内スパークです。

一応ね……!、念のために「Iyokan?」とか「Deko-Ponn?」とは聴いたのですが、

「???」

……という状況で、そんなこんなことでレジを中断してはマズイ! 
非番にもかかわらず、列が流れない!という職業倫理がマックス発動するわけですのでモノはわからないけれども、価格で聴けばなんとかなる!

……ってことで、伺うと、例のすんごくあやしい英語……しかもキングスイングリッシュではりませんが……で価格を伺うと、

……どうやら「いよかん」で正解のようでした。

レジ担当者は、「オレンジ」で打刻しておりましたので、訂正してことなきを得ましたが……、、、

綺麗な銀髪のオジサンが、最後に一言!

Ich kann Deutsch sprechen!

ぶっきらぼうに言うわけですから、、、

Kann Deutsch reden ?

……っておまけでも聴いた方がよかったです。

……ってことで、細君に隠れて、謎の物件をうけとるために冷や汗をかいたわけですが、それにくわえて、非番にもかかわらず、職場でつかまり……二度冷や汗をかいた次第です。

う~む。

やはり、あやしい取引?をする以前に、きちんと英語は勉強しておくべきだった!
※くどい、しかもくどいようですが読み書きは問題ありません!!!!

……と思うある日の夕べで御座いました。

しかし、デコポンにしろ、いよかんにしろ、英語とかフランス語とかドイツ語では何というのでしょうか~ねぇ・・・???

ま、いずれにしましても〝アヤシイ〟ことをしにいったわけですので(自分の中ではその自覚はありませんが)、〝アヤシイ〟案件に巻き込まれた???ということでしょうか。

以前、教員の先輩に伺ったことがありますが、

「この現代世界では、ドイツ語とかフランス語は、あんまり受容がないんだよ~ねぇ。読み・書き・発信のどれかひとつでもいいけどやっていると非常勤の職はなんとかあるんだよう、独仏はきつい~よぉ、中国語やっとき!!」

……その言葉を思い返した次第です。

ラテン、ギリシアの需要の低さはいうまでもないでしょう。

……ってことで十数年も英語の文章は毎日読んでおりますが、それを生活世界で展開できるだけの力へカルティべートしゆく努力も必要だワイな……と思った次第です。

ゲーテ・インスティチュートにも、アテネ・フランスにも4年ほど通いましたが、やっぱり英語なんですね。

ちょいとがっくしとしつつも、こんなところでも、太宰治(1909-1948)が「カルチュアというのは、公式や単語をたくさん暗記している事でなくて、心を広く持つという事なんだ。つまり、愛するという事を知る事だ。学生時代に不勉強だった人は、社会に出てからも、かならずむごいエゴイストだ。学問なんて、覚えると同時に忘れてしまってもいいものなんだ。けれども、全部忘れてしまっても、その勉強の訓練の底に一つかみの砂金が残っているものだ」と語る金言を思い来させてくれるという出来事として受け止めれば、有難い夕刻だっかもしれません。

……というわけで、気分を入れ直して早速、Gizmonレンズを装着したところですが、

なかなかよろしゅうございます。

ま、いずれにしましても

「ゆったりと、真にカルチベートされた人間になれ」

……ってことでいいですかね???
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