「酒呑童子」……、いやもとい、「酒呑ミドル」のゆうべ
-----
花の香にころもはふかくなりにけり木の下かげの風のまにまに
--「巻第二 春下 111」、佐佐木信綱校訂『新訂 新古今和歌集』岩波文庫、1959年。
-----
『古今和歌集』をこよなく繙きますが、古今集以上に愛韻するのが八代集の掉尾を飾る『新古今和歌集』です。こころの古今、技巧の新古今といわれますが、勅撰和歌集にもかかわらず何十年にもわたって改訂が試みられた新古今には技巧に留まらない深遠さが感じられ、どうしても古今集のうえをいく座右の一書となってしまいます。
さて……。
冒頭の一種は、古今集の編纂に携わった三十六歌仙のひとり紀貫之(866/872?-945?)の春の歌ですが、紀貫之は〝匂い〟を言葉に転換する稀有なる天才ではないか……などといつも唸らされてしまいます。
ヘンなエピソードですが、紀貫之の幼名は「阿古屎(あこくそ)」というそうな。悪鬼の類ですら、くそは不浄ゆえにこれを避けるということから、この時代によくつけられた名前と聞きますが
くそは不浄であり、悪鬼の類ですらこれを嫌うものであるため、鬼魔の害を避ける方法としてこの時代によくなづけられた言葉だそうですが、そうした幼名故でしょうか……。
匂いを描写されると紀貫之の右に出るものはまずいない……そう思われて他なりません。
……ということで???
春を忍ばせる二月の月末とはうってかわり東京ではここ数日、寒い毎日です。
二年前に購入した花桃も蕾もようやくひらきはじめたかとおもうと、まだまだのようです。購入時は室内育てでしたので、二月の半ばにその花びらを解き放っていたものですが、そとでやりますと、これからひらくというところでしょうか。
ただしかし!
阿古屎と幼名した紀貫之ではありませんが、なんともいえぬ春の香りだけは湛えず醸し出してくれております。
あと数日すると大輪を咲かしてくれることなのでしょう。
……ということで???
桃の節句ですから、本日はおこちゃま用の白酒なんて無粋なまねはせず、「越乃景虎 にごり酒」(諸橋酒造株式会社/新潟県)にてその時節の到来を祝おうではありませんか!
このにごり酒は〝季節限定〟という、猛者を刺激する〝限定〟アイテムになるわけですが十一月から二月までのおよそ四ヶ月という冬場にしか出回りません。
ですから定価以上に時季によっては高等するわけですが、それでもやっぱりやるのは今が一番です。
醸造が活性清酒になりますので、蓋にはガス抜き穴がついています。
細君がおよそ一ヶ月前に買ってきてくれたのですが、酒屋さんいわく
「このお酒は〝生きている〟からね。注意してね!」
……などとと進言されたそうでございます。
……ということで???
息子殿も桃の節句を祝う自作アイテムを幼稚園にて拵えてきたようですので、まずはそれを肴に、いっぺえやって沈没しようかと思います。
まさに〝生きている〟その力が無尽蔵に発揮していくその原点になるのが桃の節句の三月かもしれません。
さあ、いっぺえやって、寝ましたら、ちょいと今月も学問を頑張ります。
……しかし、自分も紀貫之と同じかもしれません。
この酒の〝におい〟がたまりません。
……その意味では、 「阿古屎」ならぬ「酒呑童子」……、いやもとい、「酒呑ミドル」というところでしょうか???
新訂 新古今和歌集 (岩波文庫) 著者:佐佐木 信綱 |
新古今和歌集 (新 日本古典文学大系) 著者:田中 裕,赤瀬 信吾 |
新古今和歌集〈上〉 (角川ソフィア文庫) 販売元:角川学芸出版 |
| 固定リンク
« 「ゆったりと、真にカルチベートされた人間になれ」 | トップページ | 【覚え書】「ひと カンボジア地雷被害者を支援するNPO設立 石井 麻木さん(28)」、『毎日新聞』2010年3月3日付(水)。 »
「プロフィール」カテゴリの記事
- 日記:如何なる境遇に在りても、天に事へ人に仕へる機会は潤澤に恵まれている」(2015.02.27)
- 日記:2013年度卒業式:最小限の変革共同体としての学友関係(2014.03.21)
- 日記:特定秘密保護法案に反対する学者の会(2013.11.30)
- 八王子倫理学会?(2013.08.22)
- 文の人(オーム・ド・レットル)・高崎隆治先生の思い出(2013.07.28)
「酒」カテゴリの記事
- アマチュアというのは、社会のなかで思考し憂慮する人間のことである。(2012.09.22)
- 旨いもの・酒巡礼記:東京都・八王子市編「立ち飲み居酒屋座らず屋 おや!福幸」(2012.08.18)
- 旨いもの・酒巡礼記:東京都・新宿区編「ぎたろう軍鶏炭火焼鳥 こけこっこ」(2012.07.24)
- 旨いもの・酒巡礼記:東京都・新宿区編「鳥やす 本店」(2012.06.06)
- 旨いもの・酒巡礼記:東京都・新宿区編「ビア&カフェ BERG」(2012.03.03)
「詩・文学・語彙」カテゴリの記事
- 日記:マリオ・バルガス=リョサの『世界終末戦争』(新潮社)を「読む」ということ(2014.12.10)
- 覚え書:「今週の本棚:本村凌二・評 『叢書「アナール 1929-2010」…』=E・ル=ロワ=ラデュリ、A・ビュルギエール監修」、『毎日新聞』2014年03月02日(日)付。(2014.03.05)
- 覚え書:「島田清次郎―誰にも愛されなかった男 [著]風野春樹 [評者]荒俣宏(作家)」、『朝日新聞』2013年10月27日(日)付。(2013.11.03)
- 日記:『風立ちぬ』雑感 --ひとりの人間がその内に孕む矛盾をひとつの作品に(2013.08.16)
- そして生き甲斐などと、ひと口に言えば大変なものも、仔細に眺めれば、こうしたひとつひとつの小さな生活の実感の間に潜んでいる(2012.09.10)
「告白・独白・毒吐の日々」カテゴリの記事
- 日記:信念を曲げないと柔軟さの相関関係へ成長すること(2014.08.27)
- 日記:人間を「無効化」しようとする仮象にすぎないマモンへの永続的な抵抗(2014.02.16)
- 日記:旅に出ることは日常の生活環境を脱けることであり、平生の習慣的な関係から逃れることである(2013.11.23)
- 日記:人間は、一生を通じて「意識が低い」こともなければ、一生を通じて意見が違うとも限りません。(2013.11.07)
- なごやまつり(2013.08.05)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント