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旨いもの・酒巡礼記(番外編):東京都・国分寺市編「四文屋 国分寺店」、100円玉を握りしめた少年の心で。

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 さて……。
 夏休みになると、市電(後の都電)に乗って、東京の諸方を見物するのが、私のたのしみだった。
 そのころの東京人(びと)は、自分が住む町内から、めったに外へ出ない。
 どの町にも、鮨屋があり、蕎麦屋・洋食屋・中華料理から寄席も映画館も、ところによっては芝居小屋まであった。
 すべて一つの町の中で、用が足りたのである。
 こうした時代に、浅草に住む小学生が赤坂や品川へ出かけることは、一つの旅行だった。
 スケッチ・ブックとクレヨンを抱え、一人きりで、または仲のよい友だちと、にぎり飯と水筒を持ち、一日がかりで出かける。東京の地図を手にしてである。
    --池波正太郎「私の夏(上)」、『日曜日の万年筆』新潮文庫、昭和五十九年。

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私淑する池波正太郎(1923-1990)が少年時代の思い出を綴った一文ですが、東京ではないにしても、少年時代というのは、自分の場合もひとつの町でものごとが「完結」していた節が、思い出としてあります。

浅草ではありませんので、さすがに寄席や芝居小屋まではありませんが、用は済むので、特段の用ががないかぎり、「めったに」というわけではありませんが、「外へ出」なくても済んだように思います。

そうした「外に出ない」で友だちと遊ぶとき、例えば夏時の暑いときなどは、

「遊びに行ってくるーー!」

って家人へ伝え、100円玉を1枚か2枚もらって、遊びに出かけたように思います。
小学生ですから、ジュースなり、アイスをそれで買って、涼を得ていた思い出があります。

大空が紅色に染まるころ、

「またね~」

って、自宅への帰路についた少年時代の自分の後ろ姿が薄ぼんやりと回想することができます。

遊びにいくときにもらった、100円玉。
今の貨幣価値とダイレクトにリンクさせることは不可能ですが、アイスなんかを買って、ガムなんかを買って一杯一杯の魔法の玉。

一枚の硬貨が遊びで疲れ切った躰に鋭気を与えてくれたことは、忘れがたい思い出です。

さて……。
そうした少年における一枚の硬貨で済むのが「焼鳥、焼きとん、焼き鳥 四文屋」ではないかと思います。

今日の東京は夏日でした。
大学での講義を終え帰路についたわけですが、財布のなかは1500円也!(うをぃ!)

しかし、今日の東京はあっちい一日でして……。
夜には用事はない(⇒学問の仕事はどんだけでもありますが、ひとまず措きます)ので、国分寺でふらふらっと降りてしまうと、そのまま「赤提灯」へと自動的に足が向いた次第です。

何度か利用はしているのですが、マア、宵の口から入るのは初めてでしたが、ここはサクッと、

生ビールをお願いして、クィックメニュー……焼き鳥・焼き豚はオーダー入ってから焼くのでちょいと時間がかかりますので……の「煮玉子」をお願いするという定番セレクトですが、

この「煮玉子」が旨いんです。
濃厚な煮込みの汁で煮込んだ玉子というわけですが、モツ煮込みでもない、おでんでもない、「煮込んだ玉子」でして……。甘辛い濃厚な味わいが疲れをふきとばしてくれるというものです。

串は、本日のおすすめの「豚ミミぽん酢串」と「豚ハラミスジ串」をお願いしました。
国分寺店よりも、中野、阿佐ヶ谷の店舗の方がいい仕事をしていると聞きますか、なかなかどうして、いや~ア、いい仕事をしております。

豚ミミは、あっさりポン酢と葱でさっぱり頂きましたが、弾力のあるミミとしゃきしゃきした葱とのバランスがよく、串を抜いてからゆっくりと頂戴しました。

ハラミスジは、濃ゆ~いタレ焼で、あつあつをふうふういいながらほおばりますと、味わいは「おお、焼き肉やねん!」とひとり悦にひたりながらも、同時に、スジの「食べ応え」にニンマリとしつつ、

これにてサクッと終了した次第です。
この手の立ち飲み風焼き鳥屋さん……立ち飲みではありませんが……というものは、サクッとやってサクッと立ち去るのがベストですから、10分少々にて店を辞した次第ですが、いや~あ、いいリフレッシュになりました。

ずんやりと飲み続けるってやり方も大事ですが、こうさらってやるのも粋なものでございます。

さて……お会計。
生ビールが500円、串・玉子が各100円にて、800円也!

少年時代の宇治家参去が駄菓子屋さんで、遊び疲れた折、握りしめた100円玉を片手に吟味のすえにセレクトしたアイスやキャンディーに満足したような爽快感に感謝です。

店をでた時間は、黄昏というにはまだはやい時間でしたが、少年時代の自分自身がどこかで今の私に手を振っている……そうした錯覚を覚えた次第ですが、

まあ、また用事がないときに、サクッといきましょう!

■ 四文屋 国分寺店 
東京都国分寺市本町3-5-1 1~2F
TEL 042-326-2122

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