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Pain is inevitable, Suffering is optional.

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 あるときパリのホテルの部屋で寝ころんで、インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙を読んでいたら、マラソン・ランナーの特集記事がたまたま載っていた。何人もの有名なマラソン・ランナーにインタビューして、彼らがレースの途中で、自らを叱咤激励するためにどんなマントラを頭の中で唱えているか、という質問をしていた。なかなか興味深い企画である。それを読むと、みんな本当にいろんなことを考えながら、42・195キロを走っているのだなあと感心してしまう。それだけフル・マラソンというのは過酷な競技なのだ。マントラでも唱えないことにはやっていけない。
 その中に一人、兄(その人もランナー)に教わった文句を、走り始めて以来ずっと、レースの中に頭の中で反芻しているというランナーがいた。Pain is inevitable, Suffering is optional.それが彼のマントラだった。正確なニュアンスは日本語に訳しにくいのだが、あえてごく簡単に訳せば、「痛みは避けがたいが、苦しみはオプショナル(こちら次第)」ということになる。たとえば走っていて「ああ、きつい、もう駄目だ」と思ったとして、「きつい」というのは避けようのない事実だが、「もう駄目」かどうかはあくまで本人の裁量に委ねられていることである。この言葉は、マラソンという競技のいちばん大事な部分を簡潔に要約していると思う。
    --村上春樹「前書き 選択事項(オプショナル)としての苦しみ」、『走るときについて語るときに 僕の語ること』文春文庫、2010年。

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休みでしたが、論文の資料の精査、授業の準備、子供との応対をしつつ、その合間合間に、村上春樹(1949-)さんの文庫の新刊をぱらぱらとめくっていたのですが、「はあ、なるほど、たしかに」と合点がいくことが多くありましたので、ひとつ抜き書しておきます。

村上さんは、小説家なのですが、専業作家として生活を始めて以来、走り続けることをライフワークとした「走る小説家」なんですけど、その「走る」ということを通して、自分自身について綴ったのがこの一冊です。詳しくはまあひとつ読んでもらうしかないのですが、その前置きでいやー、おもしろいことを教わったと思った次第でございます。

たしかに「痛みは避けがたいが、苦しみはオプショナル(こちら次第)」なんですね。
マラソンだけに限定される問題でないことを指摘するのは、野暮天なわけですが、まあ、それを承知しながらもその事実を確認することぐらいは必要なのかなと思います。

「『ああ、きつい、もう駄目』かどうかはあくまで本人の裁量に委ねられている」わけですので、さてこれからもう少し、学問の仕事をやっつけておこうかと思います。

ま、その方がビールが旨いわけですしネ。

いやー。春樹さん、どんどんその思想が深くなっていく。

まじめにいきることがばかにされるような風潮がありますし、それとは対極にある、おれは「まじめにいきているんだゼ」って大声でいうような傾向にも、すこし辟易としますが、そうではなく、それでも自分自身との対話のなかで、「まあ、がんばってるゼ」って走り続けるっていうのは一種さわやかな余韻を残すものだと思います。

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