« 「その問いは、もはやたずねるべきことが何もない真夜中に、ひそやかな興奮に身をまかせて立てるひとつの問い」なのですが-- | トップページ | 「理性的には、世界戦争といった大惨事の危険性を認識しているのに、腹の底では信じていない。外を見よ、太陽が輝き、自然があるではないか--」ってホントか? »

「じゃ、幸福を願っておくぜ」

1

-----

 ヴェルサンジェトリクス通りの中ほどで、背の高い男がマチウの腕をつかんだ。向かいの歩道では警官がひとり行き来している。
 「いくらかくれよ、だんな、腹ぺこなんだ」
 両眼が寄っていて、厚い唇から、アルコールの匂いがする。
 「むしろ飲みたいってことじゃないのか」とマチウが言った、「本当だよ」
 マチウはポケットの中に百スー硬貨(五フラン)があるのを見つけた。
 「どうでもいいのさ。ちょっと言ってみただけだよ」
 マチウは百スーを渡した。
 「やってくれるね」と壁によりかかりながら男は言った、「すげえ願い事をあんたにしてやろう、何がいい」
 二人とも考え込んだ。マチウは言った。
 「あんたにまかせるよ」
 「じゃ、幸福を願っておくぜ」と男は言った。「そら」
 勝ち誇った様子で彼は笑った。警官が近づいてくるのを目にし、マチウは男が心配になった。
 「わかった、それじゃ」
 遠ざかろうとしたが、男はまた彼を掴まえた。
 「足りないな、幸福だけじゃ」と涙声で言った、「足りない」
 「じゃ、これ以上どうしようってんだ!」
 「あんたに何かやりたいのさ……」
 「物乞い容疑でぶち込むぞ」と警官が言った。
 非常に若く、真っ赤な頬をしている。厳しい態度を示そうとしていた。
    --サルトル(海老坂武、澤田直訳)『自由への道 I』岩波文庫、2009年。

-----

やっと休憩に入りました、宇治家参去です。

やっぱり二日間講義して済んだらそのまま仕事というパターンはキツイですね。

ともかく無事に本日の講義も終了。
たったひとりの学生さんが相手ですが、靖國神社と一水会、シー・シェパードからマルクス主義の問題まで深く議論できたことはなによりです。

なんで靖國神社からシーシェパードまで「倫理学」の議題になるのかって、ここはまあ突っ込まないでください。

ま、生きているこの世界の事象をすべて人間の問題として取り扱うのが「倫理学」であるから致し方ありません。

詳しい話が聞かれたい方は是非、授業に参加くださいまし。
※ついでですがどうやったら参加できるんかい!っていうような野暮なつっこみもご容赦を。

さて無事に済んだので市井の職場へ直行しましたが、バスの車中で、五十代のおばさまはDSで麻雀の最中。トナリのねえちゃんは化粧直しに余念がない……そうした光景を見つつ「平和だよなア」とふと感慨に浸りながら職場へ到着すると、のっけから商品不良のクレームが2件お待ちしておりました。

見通しがあまかったっス。

なにもないだろう……ってタカをくくったときってたいてい何かが不可避的に起こるものなんですね。

ま、ひとまず無事終了しました。

見通しが甘かった。
地球は青かった。
自分も青かった。

……というところでしょうか。

さて、ただ今、休憩中にてサルトル(Jean-Paul Charles Aymard Sartre、1905-1980)の『自由への道』が昨年文庫化されたようですのでぱらぱらとめくっております。

自分より以前の世代はだいぶサルトルを読んだようですが、最近ではあまり読まれなくなってしまった感があります。サルトルは苦手ですが、文人としては一流だったと思わざるをえない才能をもっているとは思いますので、手軽な文庫化というのは大事ですね。

ま、今まで『自由への道』が文庫化されていなかったことが不思議ですけども。

さてぼちぼち休憩も終了です。

作中の酒臭い物乞いの男に「じゃ、幸福を願っておくぜ」と祈られたくはありませんが、このあとの時間、終業まで無事でありますように、自分で願っておきましょう。

でわでわ。

2 3

自由への道〈1〉 (岩波文庫) Book 自由への道〈1〉 (岩波文庫)

著者:サルトル
販売元:岩波書店
Amazon.co.jpで詳細を確認する

|

« 「その問いは、もはやたずねるべきことが何もない真夜中に、ひそやかな興奮に身をまかせて立てるひとつの問い」なのですが-- | トップページ | 「理性的には、世界戦争といった大惨事の危険性を認識しているのに、腹の底では信じていない。外を見よ、太陽が輝き、自然があるではないか--」ってホントか? »

プロフィール」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/451663/35167443

この記事へのトラックバック一覧です: 「じゃ、幸福を願っておくぜ」:

« 「その問いは、もはやたずねるべきことが何もない真夜中に、ひそやかな興奮に身をまかせて立てるひとつの問い」なのですが-- | トップページ | 「理性的には、世界戦争といった大惨事の危険性を認識しているのに、腹の底では信じていない。外を見よ、太陽が輝き、自然があるではないか--」ってホントか? »