« すべての人間は、生まれつき、知ることを欲する。 | トップページ | でも年を取れば取るほど、話が長くなりますね。人生ってそういうものです。 「連投 酷暑 にがうり」 »

フツーのなかで立ち上がる

01

-----

河合  それはおもしろいですね。ぼくは教育の世界の人によく言うんですが、このごろの学校教育というのは、個人を大切にしようとか個性を伸ばそうとか、教室によく大書してあるんですね。ぼくが「こんなこと、アメリカではどこにも書いていない」って言いますと、みんなびっくりするんですわ。
  アメリカでは個性は大事なんじゃないですかと言われますが、いや、そういうのはあたりまえな話だからわざわざ書く必要はないんだ、と答えるんです。
  日本では「個性を大事にしましょう」と校長先生が言ったら、みんなで「ハァー」というわけで、「みんなでいっしょに個性を伸ばそう」ということになって、知らない間にみんな一体になってしまうんですね。それほど、日本では個性ということがわかりにくいんですね。
  このあいだおもしろい経験をしました。日本の学校はもっと国際的にならなければいけないと、教育の国際化にとりくんでいる学校の紹介があった。その紹介の文章の中に道徳教育のことがあって、そこには「『すみません』と言うことが大事だ」、と書いてあるのですね。それを先生も教えている。その時に、自分が悪いことをしないかぎり「すみません」と言わない文化があるということは全然教えない。そして人間関係がスムーズにするためには「すみません」という言葉が非常に大事だと、道徳の時間に教えているのですよ。
    --河合隼雄・村上春樹『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』新潮文庫、平成十一年。

-----

正直なところ読む必要のある古典は殆ど読んでしまっているのがひとつの自負になりますが、それでも古典というものは再読の必要性というものが不可欠です。

ですから、何度も紐解いてしまうというわけで、ドストエフスキー(Fyodor Mikhaylovich Dostoyevsky,1821-1881)は年頭から春先にかけて、春先からはゲーテ(Johann Wolfgang von Goethe,1749-1832)を少々読み直しておりましたが、先月から集中的に読み直しているのが村上春樹さん(1949-)の作品に耽溺している昨今です。

言い尽くされた方向性の示唆ですが、初期のデタッチメントからコミットメントへのスタンツの転換、そのひとつの翠点になっていくのが、阪神・淡路大震災、そして地下鉄サリン事件の起きた1995年なのでしょう。

村上さん自身もそのことを否定しておりません。

その渦中で実現し、お互いに率直な意見や時代感覚を吐露したのが、うえに引用した心理学者・河合隼雄さん(1928-2007)との対談になるのかと思います。

その年に読んでからそのままで、文庫は買うだけ買ってツン読しておりましたので、久しぶりにひもといた次第ですが、考えさせられることがすこぶる多い一冊であったと思います。

ある程度村上文学を読み、河合さんの著作を紐解いてから読む方がストンときますが、それでなくとも初学者に対しては敷居は低く編集されておりますので、興味深い一冊ではないかと思います。

ま、読み返しつつ、考えたポイントだけ少し列挙しておきます。

①全体に同化することで責任を放擲する「自由からの逃走」の問題
②個性を形成するのを学校教育に限定する問題
③個性を形成することを、奇を衒うこととはき違えた民間の受容の問題

……etc

挙げれば挙げるほどきりがありません。

そんなことを考えつつ、朝っぱら、千葉の短大で本日は2回目の補講。
2回とも大学行事で授業がすっ飛んだわけですがその埋め合わせです。

猛暑のなか、日焼けをしつつ……っていって屋外で農作業やっていたわけではありませんが……、なんとか授業を済ませて、そのまま市井の職場といういつものパターン。

本日も同じパターンです。

ただ、つらつら思うに、個性とは、上述したとおり、何かできあがった「個性」像というのがそれぞれあって、それを形成していくという目的論のようなものではなく、生活をどっぷりと経験するなかで、否応なしに形作られている顔のようなものなのではないか……。そしてそれが指示代名詞とか抽象的な概念に還元不可能なわけであって、そしてその自分と同じように、他者もそれがある……そのことをキチンと踏まえる必要がある……ただそれだけではないのか、そう思われてもしまいます。

どこかに「ひとと違う」「作業仮説」としての「個性」なるものを「ありがたく」やってしまうものですから、現在の生活や人格は全否定されてしまい、奇を衒ってしまったり、全体の獲得目標と設定されてしまうから、みんなで「ハァー」て手をあげてしまうのでしょう。

そうぢゃないんだが……。

つうことで、今日も呑んで寝る。

これがワタクシの個性。

02 03

村上春樹、河合隼雄に会いにいく (新潮文庫) Book 村上春樹、河合隼雄に会いにいく (新潮文庫)

著者:河合 隼雄,村上 春樹
販売元:新潮社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

|

« すべての人間は、生まれつき、知ることを欲する。 | トップページ | でも年を取れば取るほど、話が長くなりますね。人生ってそういうものです。 「連投 酷暑 にがうり」 »

現代批評」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/451663/35829644

この記事へのトラックバック一覧です: フツーのなかで立ち上がる:

« すべての人間は、生まれつき、知ることを欲する。 | トップページ | でも年を取れば取るほど、話が長くなりますね。人生ってそういうものです。 「連投 酷暑 にがうり」 »