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【覚え書】「今週の本棚:松原隆一郎・評 『これからの「正義」の話をしよう』 マイケル・サンデル著(早川書房・2415円)」、『毎日新聞』2010年8月15日(日)付。

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「今週の本棚:松原隆一郎・評 『これからの「正義」の話をしよう』 マイケル・サンデル著(早川書房・2415円)」、『毎日新聞』2010年8月15日(日)付。

 ◇平易かつ事例に溢れる白熱の教科書
 ハーバード大学で「正義 Justice」と題し、学部生を相手に三十年近く行っている政治哲学の講義をもとに書き下ろした書である。NHKが「ハーバード白熱教室」と銘打ち全十二回放映したことで火が付き、この分野の教科書としては破格の売れ行きとなった。今月末には来日して東大で八百名を前に特別講義を行う予定となっている。

 ハーバードの講義は、毎回千名近くが受講しているという。日本の大学でそうした大人数を集める講義といえば、おおよそ単位が取りやすく出席を取らないものと相場が決まっている。教授会ではむしろ大人数講義そのものが「悪」であり、同じ内容で複数行ったりして少人数に分散させるべきだと言われている。けれどもサンデルの講義は、実際に「白熱」ものである。テレビに映し出されたように、大学受験や妊娠中絶、徴兵制等、学生にとって身近かつ刺激的な問題を事例に挙げるからだ。

 たとえば所得格差は、どのような条件で認められるか。学生たちは、カースト制のような「生まれ」は拒否するだろう。ではバスケットのマイケル・ジョーダンのような、天賦の「才能」はどうか。これには賛否が分かれるが、ジョーダンにしてもダンク・シュートの技術を磨くためには気の遠くなるほどの「努力」をしているではないか、と答える者がいる。才能は遺伝にもとづくが努力は当人の意志によるから、高給を得るに値(あた)いする、というわけだ。

 ここでサンデルは、「ではこの教室で長子は手を挙げてみて」と畳みかける。例年、受講者の七~八割の手が挙がる。学生は多くがみずからの努力でハーバードに受かったと自負しているが、それだけに「生まれ順が努力する性格に影響する」傾向があると知り衝撃を受けるのである。

 身近でありながらいかにも最高学府という知的な話題、しかも容易には結論が出ない質問を一回五十分の授業で、矢継ぎ早に突きつけることが人気のゆえんらしいのだ。だがいったい、千人の大教室でそんなことが可能なのか。実は仕掛けがあり、講義前に十数人のグループに分かれ、小教室で優秀な大学院生を講師に予備討論が行われている。そうした工夫により、大教室で白熱の授業を実現しているのだ(こんな授業をやられては、同じ教員としては困ったものだが)。

 しかし本書が売れている理由は、NHKの放送や豊富な事例だけには止(とど)まらないと思う。消費税増税はダメなのか。徴兵制は絶対悪か。腎臓を貧しい国の国民から買ってはいけないのか等、各人にとっての「善(よ)きこと」を超える政治的な「正義」をいかに論じるかは、日本人にとってもながらく関心の的だった。そしてギリシアの昔から政治哲学上の思索にはパターンがあるというのに、正義の諸問題にかんする一般人のための手引き書が欠けていたのである。

 これには、J・ロールズを巡る出版事情も関(かか)わっている。というのも「正義」が学界でテーマになったのは一九七一年にロールズが『A Theory of Justice』を刊行して以来のことで、それ以前は個人の自由を至高の価値とする自由主義(西側)諸国において、個人にとっての「善」に優先する正義は論じ方の分からぬ事柄とされていた。しかし七九年に邦訳された同書・『正義論』は誤訳・悪訳の見本とされるものであった。しかもロールズのもう一冊の主著『政治的リベラリズム』は翻訳されず、それでいてロールズに近いR・ドゥオーキンや批判的な「コミュニタリアン」たちの書、そして日本人学者による硬いロールズ研究が無数に出版されるという奇妙な事態となっていたのである。

 サンデルの『リベラリズムと正義の限界』(勁草書房)も、正義を導出するためにロールズが個人間の合意を仮説するというとき、その「個人」は共同体や国家、歴史や連帯という「負荷」を刻印されぬ抽象に止まっていると批判する専門書で、コミュニタリアンの代表作とされている。

 しかしロールズの『正義論』もようやくこの秋に改訳が出版される運びとなった。サンデルのこの平易かつ事例に溢(あふ)れる教科書とともに、いよいよ正義が学界を超えて論じられる時期が到来したのであろう。

 本書の構成は、論理的にはオーソドックスかつシンプルである。正義にかんする議論は、詰まるところ(1)ベンサムの功利主義、(2)J・ロックからR・ノージックに至る私的所有権重視のリバタリアニズム(自由至上主義)、自由の意味を問うて自律と義務に煮詰めたI・カント、個人の自由と正義の両立を図るロールズ、以上からなるリベラリズム、(3)古代ギリシアのアリストテレスに立ち戻り、共同体にとっての共同善や正義を優先的に追求するコミュニタリアニズム、これら三つに還元されるというのである。

 先般、菅直人首相が韓国に対して植民地支配にかんする謝罪を表明したが、なぜ戦後生まれであり支配の当事者ではない菅首相が責任を表明するのだろうか。夏休みの宿題めいた質問になるが、本書には、この問題を考えるカギもしっかり収められている。訳文も明快。(鬼澤忍訳)
    --「今週の本棚:松原隆一郎・評 『これからの「正義」の話をしよう』 マイケル・サンデル著(早川書房・2415円)」、『毎日新聞』2010年8月15日(日)付。

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どうも宇治家参去です。
すっかり夏バテのようでございまして、、、これはマズイということで仕事が済んでからバーミヤンで意識的に食をとり、気持ちよく帰宅して、ウトウト。

サア、寝るべと思ったのですが、1時間たっても眠れず……。

ということで再度飲みなおしております。

ついでに思索もまとまりませんが、終戦記念日のアテコスリかと思いつつ、サンデル(Michael J. Sandel,1953-)の著作の書評が『毎日新聞』に掲載されておりましたので、ひとつ『覚え書』として残しておきます。

さて……。

いつ眠ることができるのかッ。

これは正義以上に重大な問題だ。

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これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学 Book これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学

著者:マイケル・サンデル,Michael J. Sandel
販売元:早川書房
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コメント

いつも楽しく観ております。
また遊びにきます。
ありがとうございます。

投稿: 履歴書の添え状 | 2010年8月19日 (木) 13時19分

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