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【覚え書】「急接近:マイケル・サンデルさん 『正義』の講義はなぜこれほど白熱するのか?」、『毎日新聞』2010年9月6日(月)付。

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急接近:マイケル・サンデルさん 「正義」の講義はなぜこれほど白熱するのか?

 <KEY PERSON INTERVIEW>

 NHKで放送の「ハーバード白熱教室」やベストセラーとなった著書「これからの『正義』の話をしよう」で知られるマイケル・サンデル教授が来日し、対話型の公開講義を行った。今なぜ「正義」を論じるのか。政治哲学の講義はなぜこれほど白熱するのか。【聞き手・佐藤由紀、岸俊光】

 ◇政治哲学を現実と結ぶ--ハーバード大学教授、マイケル・サンデルさん(57)
 --東京大学で行った「正義」の講義はいかがでしたか。

 ◆ 興奮しました。みな活発に発言し、学生同士お互いに議論しあった。日本人は議論が苦手と聞いていたが、その心配は全くなかった。今回の旅に同行した私の長男(ハーバード大学卒)も議論の質や水準は自分たちのころと大差ないと話していた。同感です。

 --対話型講義の意義とは? 学生たちは脇道にそれませんか。

 ◆ 難しい問題について議論し戸惑い、答えあぐねることは、彼らが道徳的考察や政治的意味づけについての探求を始めたことを意味します。すぐに整理された答えが出ることは期待していません。3カ月の学期内でも論理的思考能力は伸びるのです。

 --「正義」を講義のテーマに選んだ理由はなんですか。

 ◆ 哲学の概念と現実社会や政治的な事象を結びつけられる政治哲学を教えたいと思い、それには「正義」がふさわしいと考えたからです。私が大学1年のときに受けた政治理論の授業は、抽象的で理解できなかった。だから講義を始めたとき、自分が1年生なら面白いと思う授業にしたかった。基本姿勢は今も同じです。

 --1000人を前にした講義は緊張しますか。

 ◆ 緊張感やドラマ性が増すのは確かです。学生にも興奮を与える環境ができます。古代アテネの市民が集まり、市民生活にきわめて重要な問題を論じているような緊張感ですね。学生たちは講義が終わった後も、昼食のテーブルや運動場などで議論を続けます。私の役割は、教室の外でも議論が続くよう仕向けることだと思っています。授業の準備には、少なくとも数時間かけます。講義ノートを読んでいては自然発生的な部分を損なうので、どんな問題をどう話すか、いろいろな答えが返ってくることを想定しながら、全体の計画や順番を考えます。

 --講義や本がこれほど話題になると予想していましたか。

 ◆ 本が米国や日本でベストセラーになると想像しておらず、関心の高さに驚き、感謝しています。政治哲学の考え方が民主主義国家での公共の議論に貢献できるとすれば、私の夢が実現することになります。政治哲学における道徳的な問いは重要で、大学や政治哲学者だけで議論すべきではないからです。政治家やビジネス界の指導者が読んでくれるなら光栄です。

 ◇生殖の商品化は問題
 --東大では、東アジアで戦時中に行われた行為を現在の日本人は謝罪すべきか、日本への原爆投下を米大統領は謝るべきかと問いかけました。教授自身の考えは?

 ◆ こう答えさせてください。今の世代には、過去の世代が行った過ちやその結果を修正し賠償する道徳的責任はあると思います。しかし、過ちを行ったこと自体への道徳的な責任があるということとは違います。共同体や国を重要だと考え、歴史や業績に誇りを持てるのであれば、同じように共同体や国の名において行われた過去の過ちを改めたり、賠償する道徳的責任を感じたりすることができるはずです。誇りと過ちへの責任はつながっているのです。

 --野田聖子元郵政相が渡米し第三者の卵子提供を受けて、出産することを発表しました。正義や道徳の観点から、海外で生殖医療を受けることをどう考えますか。

 ◆ 米国では体外受精などの生殖補助は認められており、私も賛成です。道徳的に問題だと思うのは、卵子提供や代理母などの行為が市場で商品化されることです。学力テストの成績や容姿など、特定の遺伝子を持った卵子に高額の謝礼を払う事例です。

 --教授は道徳や共同体の重要性を政策に掲げたロバート・ケネディ上院議員を評価しています。オバマ大統領はどうですか。

 ◆ 最近は経済が道徳的な問題を曇らせ、政治家が技術者や経営者のような用語ばかり使いますが、オバマ氏は道徳的、精神的な信念を語り、それが支持につながりました。しかし、大統領に就任して以降は道徳的、市民的理想主義を実際の政治に当てはめることが難しく、問題を抱えこまざるを得ませんでした。これからの彼の挑戦は、道徳的な価値、共同体の意味などへの信念を、人々にもう一度思い出させてくれることではないでしょうか。

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 ■ことば

 ◇「正義」の講義
 サンデル教授が80年から始めた対話型の授業。当初100人ほどだった受講生は、今では900~1000人に。これまでに18~20回行われ、計1万4000人以上が受講している。ハーバード大学には6400人の学部生がおり、6人に1人が受講した計算だ。大教室での講義は週2回各1時間。加えて18人のグループに分かれたゼミがあり、リポート2本の採点を含め、大学院生が「白熱教室」を支えている。

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 ■人物略歴

 ◇Michael J.Sandel
 米ブランダイス大学卒業後、英オックスフォード大学で博士号。02~05年、大統領生命倫理評議会委員。著書に「民主政の不満」など。キク夫人は横浜生まれ、ハーバード大学で教える社会学者。

    --「急接近:マイケル・サンデルさん 『正義』の講義はなぜこれほど白熱するのか?」、『毎日新聞』2010年9月6日(月)付。

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