剣術というものは、一所懸命にやって先(ま)ず十年。それほどにやらぬと、おれは強いという自信(こころ)にはなれぬ。これは昨日も、よくよく、お前に申したことだ
翌朝……。
まだ、うす暗いうちに、
「ごめんなせえ、ごめんなせえ」
早くも、辻売り鰻屋の又六が、道場の戸を叩いた。
いつもは道場へ泊まりこんでいる飯田粂太郎(くめたろう)少年は、母が発病したので、一昨日から浜町の田沼家・中屋敷の長屋へ帰っている。
唖(おし)の百姓の女房が朝の支度をしているので、秋山大治郎が道場の戸を開け、ころげこむように入って来た又六へ
「早いな。飯を食べて来たかね?」
又六は、かぶりを振った。
「では、私といっしょに食べよう。さ、来なさい。何をするにも腹ごしらえが肝心ゆえな」
「じゃあ、剣術を教えて下さるんで?」
「ああ、やってみよう。だが、な……」
「へ……?」
「剣術というものは、一所懸命にやって先(ま)ず十年。それほどにやらぬと、おれは強いという自信(こころ)にはなれぬ。これは昨日も、よくよく、お前に申したことだ」
「だ、だから、そこを何とか、十日ぐれえで……だからこそ、おれは、この体の汗のかたまりみてえな五両もの大金を……」
「まあ、待て。そこでな、十年やって、さらにまた十年やると、今度は、相手の強さがわかってくる」
「へへえ……そんなら、おれ、もう、わかってる。けれど何としても、その野郎を負かしてえのです」
「それからまた、十年もやるとな……」
「合わせて、さ、三十年もかね……」
「そうだ」
にやりと、うなずいて大治郎が、
「三十年も剣術をやると、今度は、おのれがいかに弱いかということがわかる」
「そ、それじゃあ、何にもなんねえ」
「四十年やると、もう何がなんだか、わけがわからなくなる」
「だって、お前さん……いえ、せ、先生は、まだ、おれと同じ年ごろだのに……」
大治郎は苦笑した。
いまいったことは、父・秋山小兵衛のことばの受け売りだったからである。
--池波正太郎「悪い虫」、『剣客商売② 辻斬り』新潮文庫、昭和六十年。
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どこまで続くのかはなはだ疑問だったわけですけれども、幼稚園の年中さんに進級した4月から息子殿が剣道……剣術ではない!……を始めたわけですが、なんとか2年半も経過したことにおどろく愚父・宇治家参去です。
宇治家参去自身も小学生・中学生・高校生と剣道をやっておりましたので、そのつらさとかつまらなさとか、いわゆる否定的側面は否応無しに知っておりますので、いたいけな?子供がどこまで続くのか・・・
「ちと、みてやろうではないか」
・・・などと思っておりますと、これが存外に続いていることに瞠目する次第です。
8月は、週に一度の教室の夏休みでしたが、最終週に1ヶ月分まとめて4連チャンの稽古となり、小学一年生になった息子殿も「ヘロヘロ」になっていたので、、、
「もう、ねをあげるか!」
、、、などと思っていたのですが、なかなかどうして。
火曜日が練習日なのですが、今日も元気にかよっておりましたので、、、、
親ばかもありますが、、、
まあ、驚いた次第です。
途中で何度か辞めたいとはいっていたのですが、それでも、道場へいくとへなちょこ剣士なりに竹刀を握ると感覚がもどるのでしょうか、、、続けているようでございます。
因みに本人としては①イタイというのと②弱いというのが忸怩たる様子ですが、①に関してはイタみを学習するいい機会ですし、②勝他のみがすべてではない、ということを学ぶ機会になってもらえればと思います。
まあ、これも親が「やれ」っていってやったのではなく、本人が「やる」っていってやっているものですから、どこまでやるのかはわかりませんが、ある程度は「やりぬく」なかで、「徹して」何かを「為す」という生き方を学んで欲しいかなと思います。
上手くなくても下手であってもいいと思うんです。
強くなくても弱くてもいいと思うんです。
※ちなみに息子殿はその両者というところ。愚父と同じ血ですから(苦笑)。
※ちなみにワタシの場合は、親がやっていたので、そのままぶっこまれて涙という奴(苦笑)。
まあ、何かを根気強くやり抜くことを学んでもらえればと思う次第です。
といことで ⇒ 本日発売の「ヱビス ASUKA CRUISE まろやか熟成 」にてなうぅ。伴走者は、ほうれん草のソテー+桃屋のラー油。
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うまい!
「徹して」何かを「呑み」続けることも大事です。
これも剣術のお陰か!
いまの世の中、とにかく早急に答えを求めたり、結果をもとめたりするご時世ですが、ほんものを輝かす為には時間がかかるわけなんです。
ですから、続けることは大事でござんす。
辻斬り (新潮文庫―剣客商売) 著者:池波 正太郎 |
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