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【覚え書】「今週の本棚 富山 太佳夫 評 『仮装戦争 --イスラーム・イスラエル・アメリカの原理主義』 レザー・アスラン著」、『毎日新聞』2010年10月10日(日)付。

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今週の本棚
富山 太佳夫 評
「仮装戦争 --イスラーム・イスラエル・アメリカの原理主義」 レザー・アスラン著(藤原書店・3150円)
歴史と宗教の中を巡る思想的旅行記

 九月一一日--毎年この日がめぐって来るたびに、われわれはニューヨークの世界貿易センター・ビルと国防総省へのテロ攻撃の場面を想起するしかないのだろうか。今年もそうであった。しかも、コーランの焼却騒ぎまで付随してしまった。
 毎年この時期になると、あのテロ攻撃を引き起こした政治と宗教と文化のコンテクストを、たとえ遠くからであるにしても、考え直してみるしかないようだ。時の経過とともに変化してくるその歴史的な意味を。
 レザー・アスランの『仮装戦争』はそれを試みた一冊ということになる。その背景にはこれまでとは違う状況がある。今大統領の地位にあるのは、「カンザス州出身の白人キリスト教徒の母とケニア出身の黒人ムスリムの父親」の間に生まれたバラク・フセイン・オバマ。「片手を胸に星条旗に忠誠を誓うように教えられたアメリカの権化である」。それに対して著者は一九七二年、テヘランの生まれ。七歳のときにオクラホマ州に移住して来て、「イランのアメリカ大使館員人質事件、イラン・イラク戦争、イラン・コントラ・スキャンダル、ベイルートのアメリカ軍兵舎爆破事件、二度にわたるパレスチナのインティファーダ、第一次湾岸戦争などのあいだ、ここで育った」。しかし、「公民権があるのはアメリカで、国籍上はイラン人、民族的にはペルシア人、文化的には中東人で、宗教的にはムスリム、性別は男性」である。アメリカの大学で学び、アメリカの大学で教えている。そのような経歴をもつこの著者の意見はともかく聞いてみるに値するはずである--。しかし彼は、テレビ番組では中東問題のアナリストとしても仕事をしている。そして、一九世紀のアメリカを代表する小説家メルヴィルの、「われわれアメリカ人は特異な選民、現代のイスラエルである」という言葉を引用してみせるだけの読書量もそなえている。
 この本は政治や宗教や経済問題に的を絞った単なる地政学的な評論ではない。端的に言えば、歴史と宗教の中をかけめぐる思想的な旅行記ということになるかもしれまない。各章の副題に使われている地名を抜き出してみるならば、パレスチナ、エルサレム、イスラエル、アメリカ(「アメリカに誕生した『原理主義』の解説を含む)、イラク北部の町トゥズ・ホルマト、英国の移民の町ビーストン、カイロということになる。著者はそうした土地を実際に訪ね、そこの紛争的な雰囲気をともかく体感し、あるいはテロリストの育った環境を調べる。更に、遠い過去にまでさかのぼって歴史的、思想的な背景を確認してゆく。
 それは大変な仕事だが、「イラン人として、ムスリムとして、アメリカ市民として」多重の帰属意識をもつ、というか、もたざるを得ない著者は、それに挑戦してみせる。
 その中核にある状況とは、おおよそ次のようなものであるのだろう。「グローバル化は個人の帰属意識(アイデンティティー)に対する非宗教的ナショナリズムの締め付けをゆるめ始めているので、人々は国家機構が簡単にコントロールできない宗教や民族といった……帰属意識を中心に再集合し始めている」。その背景には移民問題も横たわっている。「ヨーロッパには二〇〇〇万人以上のムスリムがいて、その大半がヨーロッパの旧植民地からの移民である」。こうした現況もにらみながら著者が希望を託す「民主主義の……継続的な推進」という言葉の重みは、今われわれのまわりを飛び交っている安易な用法とは何と違うことか。(白須英子訳)
    --「今週の本棚 富山 太佳夫 評 『仮装戦争 --イスラーム・イスラエル・アメリカの原理主義』 レザー・アスラン著」、『毎日新聞』2010年10月10日(日)付。

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帰属意識からの離脱が今世紀の大きな課題。

しかし、いつまでもたっても国家や民族や宗教や会社など人工的な構築物への帰属意識から抜け出すことができないのが現状。

たしかに、完全にその意識から離脱することは不可能なのですが、相対化させることは可能なはず。絶対化させることが碌なことにはならないことは歴史が証明しているにもかかわらず、相も変わらず、その詐術から逃れることが出来ていない。

久しぶりに書評を読んでいて読みたくなった一冊。

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