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文明はわれわれをそこない、迷わせる。

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 文明はわれわれをそこない、迷わせる。それはわれわれを他人およびわれわれ自身にたいする重荷と化せしめ、怠惰な、無益な、気まぐれな人間とする。それはわれわれを風変わりの状態から放蕩にまでおしやる。われわれの財産、心、青春を惜しみなく浪費させ、われわれをして、あたかもハイネの物語るアーヒェンの犬、退屈をまぎらせるために、通行人たちに一つの施しとして蹴とばしてもらうことを頼んでいるあの犬どものように、仕事、刺戟、気ばらしをかつえ求めさせるのである。われわれはあらゆることに手をだす。音楽、哲学、恋、兵学、神秘主義--これはひたすら気をまぎらせるためであり、われわれをおしつけている、かぎりない空しさを忘れるためである。
 文明と奴隷制度--たがいに無理にひきよせられている、これら二つの極端のあいだには、われわれを肉体的に、また精神的にひきつぶすことを防ぐためにさしこまれた、どんな「ぼろ片」さえもない。
 われわれはひろい教養をあたえられ、現代の世界の願望、風潮、苦悩をうえつけられる。そしてつぎのようなよび声を聞く。「奴隷のままに、つんぼのままに、無為のままにとどまれ--さもなければ、諸君は亡びてしまうだろう。」その代償としてわれわれには農民の皮を剥ぐ権利、彼らから集めた血となみだの貢物をみどりのラシャの上で、あるいは居酒屋で使いはたす権利がのこされる。
 その青年は奴隷根性と卑俗な野心とにみちたこの世界で、活気のある、いかなる興味をも見いだすことができない。けれども彼はほかならぬこのような社会に生活するように運命づけられていた、なぜなら民衆はまだ彼から遠いところにいたから。「この世界」はすくなくともおなじ種類の、堕落した人間から成り立っていた。しかし民衆とこの世界とのあいだにはなんの共通点もない。伝説はピョートル一世によって--少なくとも現在のところそれを人力をもってしては復活しえないほど完全にうちこわされた。われわれにのこされたものは孤独、あるいはたたかいである、しかしわれわれはそのいずれをとるにも十分な精神の力をもっていない。かくてひとびとは、もしも娼家やどこかの要塞監獄の地下牢で身を亡ぼさないばあいには、オネーギンのような人間になる。
 われわれは文明をぬすんだ。そしてゼウスはプロメーテウスを苦しめたときとおなじ苛酷さをもってわれわれを罰しようとしている。
    --ゲルツェン(金子幸彦訳)『ロシヤにおける革命思想の発達について』岩波文庫、1974年、125-127頁。

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「ゲルツェンにあっては、第一の関心事はつねにロシヤ社会の改革の事業への奉仕であり、文学はその武器であった」(解説、269頁)……とあるように、すぐれた作家・批評家であったゲルツェン(Aleksandr Ivanovich Herzen,1812-1870)によるロシヤ革命思想(前史)の論考と手引きが上に引用した一書。

基本的には19世紀前半ロシアの革命思想の展開とそれを紹介する体裁ですが、その実19世紀ロシア文学への偉大なオマージュであり、ロシアの精神風土を端的にまとめた一冊です。

ロシア的なるものとは何か。ドストエフスキー、トルストイを読む前に読んでおきたい好著です。

しかし、その批判の眼は、ロシア的なるもののみでなく、人間そのもの、そして文明そのものの暗黒面を鋭く撃ち抜いておりますねぇ。

いやはや、久しぶりに好著と遭遇。

「文明はわれわれをそこない、迷わせる」。

なるほどねぇ~。

雪はやんだのですが、深夜に帰宅時、道路が凍結してい、自宅直前で転倒してしまったですよ。

慣れた道だし、大丈夫だろうって、自転車を運転していたわけですけれどもね。

皆様もご注意あれ。

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