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【覚え書】H.アレント 「よりましだ」とする発想の盲点

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 今日、戦争問題の論争のなかに自由の概念がとりいれられているのを耳にすると、いつも妙にちぐはぐな気持ちになるのは、多分戦争を国際政治の最後の手段として正当化してきたこのような伝統的議論の中に、この自由の論拠がまるで欠けていたからであろう。核戦争の想像を絶するような未曾有の破壊力を眼の前にして「われに自由を与えよ、しからずんば死を与えよ」式の威勢のいい議論はむなしいどころではない。お話にならないほど馬鹿げたことである。実際、自分の国や至尊の生命と自由のために自分自身の生命を投げ出すことと、それと同じ目的のために人類の存在そのものを賭けることは全然別のことである。そしてそのことはまったく明らかだと思われるから、「赤より死のほうがましだ」とか「奴隷になるより死を」というようなスローガンの擁護者たちは人を欺いているのだと疑わないわけにはいかない。もちろん、だからといって、その反対に「死より赤のほうがましだ」というスローガンがもっと推奨できるといっているのではない。古い真実が役に立たなくなったからといって、それを逆立ちさせれば真実に近づくというわけのものではないのだから。実際問題として、今日、戦争問題の議論がこのような観点からおおなわれているばあいには、双方の心理的な背景をさぐるのはむずかしいことではない。「赤より死のほうがましだ」といっている人びとは、実際にはこう考えているのである。つまり、破壊はある人たちが考えているほど大きくはないだろうし、われわれの文明は生き残るだろう、と。これにたいして「死より赤のほうがましだ」といっている人びとが実際に考えていることはこうである。すなわち、奴隷状態はそんなに悪くないだろう、と。いいかえれば、論争者たちの不誠実さは、自分たち自身の提出した非常識な二者択一をどちらもそのまま信じていないという点にある。要するに双方とも真面目ではない。
    --ハンナ・アレント(志水速雄訳)『革命について』ちくま学芸文庫、1995年、14-15頁。

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