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【研究ノート】ジジェク:自己の存在が他者性とどのように交差するのか……。

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 自身の責任を完全にとることの不可能性は、〔人が体験を〕物語として再構成する際につきものの、単純化できない主体と主体の間の文脈によっている。私が自らの人生を物語として再構成する際には、必ず主体間の一定の文脈内で行うのだ。<他者>が呼びかける命令に答え、一定の形で<他者>を扱っている。(無意識な)動機やリビドーの関与を含めた背景を、物語の中で充分に平明な形で明らかにすることはできない。記号体系の物語において自分を完全に説明することは理論的に無理であり、<汝を知れ>というソクラテス的な命令に従うことはア・プリオリな構造上の理由により不可能なのだ。規則的・象徴的な伝統の実質のみならず、身体的・欲求的な<他者>の実質、<他者(たち)>に開かれ、たまらなく傷つけられやすい自分、主体としての自分の立場--これらの実質が<他者>との繋がり次第であるためである。しかし<他者>への決定的な露出がもたらす根本的な脆弱性は、私の倫理的な地位(自主性)を制限するどころか、基礎づける。個人を人間たらしめ、我々が彼・彼女に責任を持ち手助けする義務を生じさせるのは、相手の有限性と弱さなのだ。この根本的な露出/依存性は、「私は自分の主ではなく、自身を超越した力によって行動が左右されている」ために究極的には責任を負っていないのだと、倫理を切り崩すわけではけっしてない。そればかりか、互いの脆さと限界を受け入れ、尊重しあう個人の間に、適切に倫理的な関係を切り開くのである。ここで要となるのが、<他者>の不可解性と、自分自身の不可解性が連動している店だ。それらは、自らの存在が<他者>への根本的な露出に基づくがゆえに繋がっている。他者と突き合わされても、私は自分を充分に説明することなどできない。この<他者>への露出に対して自らを閉ざしたり、意思によらないものを意図されたものに置き換えたりすべきではないと強調することで、バトラーはニーチェの思想の核心部分異論を唱えてはいないだろうか? <同じ世界>の永劫回帰を願うという彼の立場は、まさしく、我々が与えられたままに投じられた状況にあるという意思によらない全てのことを、何か<意図された>ものに移しかえるものなのだから。
 そうして、倫理の第一歩は、絶対的に自己を措定する主体という立場を諦め、自らの露出/投げ出された事実、<他者(性)>による圧倒を認識することである。我々の人間性に制約を加えるどころか、この限定は人間性の積極的な条件である。有限性の自覚がほのめかすのは、根源的な容赦と寛容の「生き、生かせ」というスタンスだ。私は<他者>を前にして自分を説明づけることなどできず、また<他者>によっても他者自身は謎であるため、彼・彼女から「あなたは誰?」という質問への答えを得ることはできない。すなわち<他者>を意識することは、<他者>を理性的、善良、愛すべきといった、明確に定義された範囲で捉えることに終始するわけではない。相手自身の不可解で不透明な渾沌の中で、相手を認識することなのだ。
    スラヴォイ・ジジェク(岡崎玲子訳)「人権の概念とその変遷」、『人権と国家--世界の本質をめぐる考察』集英社新書、2006年、145-147頁。

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人権の概念の立ち上がりとその変遷を概観するジジェク(Slavoj Žižek,1949-)の議論の一節から。

自己の存在が他者性とどのように交差するのか……。

興味深い一節です。

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