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どうかくれぐれも警戒を怠らず、諸君の思い、諸君のおこないの一つ一つが、自由の護持・享受であってください!

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 自由はいまこそ諸君のもとに還ってきました。自由がどれほど甘美なものか、どれほど望ましいものかは、それを失ってみてはじめてよくわかることです。多少の経験により自由の貴重さを身をもって知る諸君よ、いまこそ自由を享受してください。心たのしく、まじめに、謙虚に、平静に、享受してください。そして神に感謝をささげてください。これほどの贈り物をあたえてくださる神に。まことに神は、ご自身の聖なる都をいまだ忘れたまわず、世界統治の座に定められたこの都がこれ以上隷従状態にあるのを見るに忍びがたかったのです。
 ですから、雄々しくも強き人たちよ、いにしえの強き人たちの後継者たる人びとよ、自由とともにいま健全な精神も立ち返ったのであれば、諸君のひとりひとりが、身命を賭して自由を守る決意をかためてください。自由なき人生は一場の茶番にすぎないのです。かつての隷従をつねに眼前に思い浮かべてください。まことに、私の思い違いでなければ、いまや諸君にとっては生よりも自由がはるかにたいせつなはずです。ですから、もしそのいずれかを失わねばならぬとすれば、だれしもみな、隷従のうちに生きるよりは死ぬことを選ぶでしょう。ローマの血をいささかでも受けつぐ者ならなおさらです。釣針をのがれた魚は、水中にうごく何を見てもこわがるものです。狼の牙をまぬがれた羊は、遠くに灰色の犬の影を見かけてもおののき、鳥もちをのがれた小鳥は安全な木立にもおびえるものです。
 諸君もまた、いつわりの希望という好餌でさそう釣針によって包囲され、悪しき習慣の鳥もちや、餓狼の群れに取りかこまれているのです。どうかくれぐれも警戒を怠らず、諸君の思い、諸君のおこないの一つ一つが、自由の護持・享受であってください! 諸君の関心も努力もひたすら自由をめざし、各自の行為もすべて自由を目的とすべきです。それ以外のいかなる行為も、取り返しのつかない時間の空費、危険な錯誤とみなしてください。おそらく多年の週間により諸君が暴君どもにいだいた不当な敬愛の念、恥すべき親愛感の記憶、それらはことごとく諸君の胸底から消え去るがいい。どれも已むをえず傲慢な主人をあがめ、籠の小鳥も飼い主とたわむれるものですが、奴隷は可能となれば鎖を断ち切り、小鳥も出口が見つかれば喜々として飛び去るのです。
    --ペトラルカ「古代ローマ再生のために」、近藤恒一編訳『ペトラルカ ルネサンス書簡集』岩波文庫、170-172頁。

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十四世紀半ば。
《教皇のバビロン幽囚》によって教皇不在と貴族たちの悪政で腐敗しきったローマに、古代の栄光を再興し、「永遠の都」ローマを衷心にイタリアを統一することを夢見て登場したのが人文主義者にして政治家のひとりコーラ・ディ・リエンツォ(Cola di Rienzo,1313?~1354)。

スキピオ(Publius Cornelius Scipio Africanus Major,235-183 BC)のごとく民衆の前に登場しながらも、具体的な政治理念の欠如と果てしない自己顕示欲のため、自らの「コーラ革命」は失敗し、一度は手に取いれた「自由」は再び霧散してしまう……。

人文主義の父といわれる桂冠詩人ペトラルカ(Francesco Petrarca,1304-1374)は、コーラの意図と企てそのものはこれを高く評価したが、その行動面でのドンキホーテぶりを決して許すことが出来なかったという。革命の成功に気をよくしたコーラは次第に傲慢な芝居がかった態度を取り始め、僭主としてふるまいはじめ、かつては畏敬の念で向かい入れられた民衆自身によって断罪されてしまう……。

高圧的に自由を抑圧する形式にも辟易としますが、自由を手にしたにもかかわらず、自らの不手際で喪失してしまうことも事実。

昨今の暴風的な翼賛体制の成立をみるにつけて、「自由」をたらしめる不断の努力の必要性を痛感すると同時に、ペトラルカの冷静な筆致には驚くばかりです。


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