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覚え書:「東日本大震災:トッドさん、三神さん対談 被災地を巡って見えたもの=エマニュエル・トッドさん」、『毎日新聞』2011年9月29日(木)付。

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東日本大震災:トッドさん、三神さん対談 被災地を巡って見えたもの=エマニュエル・トッドさん

 フランスの歴史人口学者、エマニュエル・トッドさんが来日し、8月上旬に東日本大震災の被災地を歩いた。日本の家族構造分析を通して見えてきた、被災地の姿とは--。同行したジャーナリスト、三神万里子さんとの対談により、震災がえぐり出した日本人の本質を語ってもらった。対談の詳細は、雑誌『環』(藤原書店)に後日掲載の予定だ。【構成・鈴木英生、撮影・塩入正夫】

形式主義でない日本社会の深層--エマニュエル・トッドさん
地域、産業の疑似家族的結束生きた--三神万里子さん

 エマニュエル・トッドさん 全般的な旅の印象は、日本社会の深層へと降りた感じです。被災地を南下するうちに、日本の形式主義的な面が消え、お会いする方に庶民的な人が増えました。福島県南相馬市で会った理髪店の奥さんの物腰は、まるで南フランスの女性でした。

 三神万里子さん より激しく被災した場所ほど、「フランスに似ている」とおっしゃっていましたね。特に福島第1原発に近い一部地域などは、私から見ても「日本=秩序」がはがれ落ちていた印象です。

 トッドさん 被災地で見られた集団のあり方を、東北の家族構造から考えてみましょう。伝統的に東北では、ときに長男ではなく長女が家を継ぐ。兄弟の間が緊密で、かつそこに上下関係がある。比較的早く父親が引退し、長男が父親役をする例もある。そこから、東北の家族集団は、他地域より強く大きく広がり、より序列的になると考えられる。逆説的ですが、水平的なつながりも強まり、柔軟にもなる。

 三神さん 一般に東北の人は我慢強いとされますが、厳密には被災後、多くの人がまず、「自分はもっとも悲惨な人よりどのくらい無事か」を考え、「もっとひどい人がいるから文句は言えない」と自制していく図式でした。そこで、被災地間ですら水平的な支援の輪が広がった。

 トッドさん 復興の原動力は、グローバル化が進むなかで集団主義的だと批判される、伝統的な日本の文化でした。しかも、この文化は、排外主義と一体ではない。被災地で私に敵対的な人は一人もいませんでした。

 三神さん 復興を支える伝統的な力を具体的に言えば、岩手県釜石市では、地域の祭りや消防団を支える青年団の存在がカギでした。津波被害がない地区の青年団は、極めて組織的に他地域の高齢者の安否確認や物資調達をした。津波被災地域の青年団は、単に助け合うだけでなく、過去の津波被害を調べて市の復興計画に具体案を出しています。地域が家族的に機能するかどうかは、そこの経済力にも大卒比率にもよりません。また、同じく製鉄所がある北九州市との「兄弟関係」で、同市職員が応援に来ていました。日本は地域や産業の疑似家族的結束が強いのです。

 トッドさん 日本の企業間競争は競技的で、いわばゲーム。いざとなれば、それに勝る価値が大きく働くようですね。

 三神さん 宮城県山元町の金型会社、岩機ダイカスト工業の例が非常に典型的でしたね。主要工場を津波で流されたのに欠品がなかった。同業他社に金型を渡して「代わりに作ってもらえませんか」と頼んだのです。ノウハウが詰まった金型を渡すのは、通常あり得ない話です。

 他方、同県女川町では、幼児的ともいえそうな日本の危うさを自覚しました。女川原発は高台にあったため無事だったと評価されていますが、現地で見ると高さは間一髪の印象です。原発までの主要道路も崩壊しました。つまり、もし原発で何か起きても、容易にアクセスできなかった。住民の脱出用道路も、十分ではなかった。

 トッドさん 日本は何をしても完璧に見えますが、核については恐ろしく非理性的、非合理的です。安全保障上の核兵器は極端に避けるが、地震国でありながら原発はたくさん造る。巨大なリスクと事故の影響を直視していない。

 三神さん 福島第1原発から約25キロまで近づきましたが、物的な破壊よりもむしろ、人々の平常心を奪う被害が重大だと感じました。住民は事故後、本当に危険な場所が分からないまま、たらい回しになった。「若い人に迷惑がかかるから」と自殺する高齢者も出たそうです。日本が崩壊した場合の未来を見るようでした。

 トッドさん あそこの避難所は、まるで日本から出た(排除された)感じでした。

 三神さん ここのボランティアは若者が減り、無職や派遣社員、既存の社会システムになじめていない様子の人々が見られた。避難者は大半が60代以上で、光熱費が払えないため仮設住宅にも移れない。

 トッドさん 日本は原発事故の結果、一方には安全な地域、他方で完全な立ち入り禁止地域、そして中間の不確実で漠然とした地域に分かれた。そこで、経済的、社会的に発達した国からこぼれ落ちた事象が集中する異質な場所ができつつあるのでは。とはいえ全般的に、私は、日本が停滞しているとかもう伸びないとは思いません。「失われた10年」を経ても、世界の特許の3割は日本人が持っている。津波で、世界中の自動車工場のラインが止まった。今ほど世界中が日本製品に依存している時代はない。だから大丈夫でしょう。

■人物略歴
エマニュエル・トッド
1951年生まれ、フランス国立人口統計学研究所所属。著書に『デモクラシー以後』『アラブ革命はなぜ起きたか』など。

みかみ・まりこ
1972年生まれ。慶応大卒。信州大客員准教授。仙台市の東日本放送で「東北ビジネス最前線」のキャスターも務める。著書に『メガバンク決算』など。
    --「東日本大震災:トッドさん、三神さん対談 被災地を巡って見えたもの=エマニュエル・トッドさん」、『毎日新聞』2011年9月29日(木)付。

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家族が支え合う・ご近所で支え合うは「排外主義と一体ではない」。自称排外主義者は「伝統」を再確認すべき。

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