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覚え書:「金言:民主主義のツール=西川恵」、『毎日新聞』2011年10月14日(金)付。

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金言:民主主義のツール=西川恵

 米アップルの創業者スティーブ・ジョブズ氏の訃報を耳にした時、思い浮かべたのは「中東の春」であり、権威的な政府に批判を浴びせる中国のネットユーザーたちであり、抑圧体制の下でツイッターで民主主義と自由のための大衆行動を呼びかける人々のことだった。
 いまでは世界の多くの人たちが手にし、一日とてなくてはならないパソコン。しかし本来、パソコンは大勢に抗した対抗文化(カウンターカルチャー)の申し子として、1960年代末から80年代初めにかけ米国で生まれた。
 70年代までのコンピューター開発の主流は、何でもこなす高機能で大容量の汎用(はんよう)大型コンピューターだった。高価で、導入できるのは政府機関や軍部、大企業に限られ、それを操作できるのも一部のエリート専門家だけ。この汎用大型コンピューターに対して、「市民が使える安くて使いやすいコンピューターを」と一部の技術者たちが傾注したのが傍流にあったパソコンだ。
 そこには当時の社会背景がある。ベトナム反戦や非政府組織(NGO)の活動を担う草の根の市民同士をつなぎ、情報をやりとりし、連帯を生み出すツールとしてパソコンが求められたからだ。その対抗文化の理念と思想を体して開発にいそしんだ一人がジョブズ氏である。
 ここにはまた汎用大型コンピューターを握る国家の中央集権型の社会に対して、市民一人ひとりがパソコンを手にした分権型の社会を対置するという反体制の理念があった。いうならば民主主義を実現するツールとしてパソコンは位置づけられた。
 こうして77年に出た「アップル2」は一般の人に使い勝手のいい安いコンピューターとして爆発的に受け入れられ、傍流が主流へ、対抗文化の申し子が大勢の文化となる一つの契機となった。日本では往々にコミュニケーションの利便性からしか捉えられないパソコンが、出発点において「民主主義の実現」という理想主義的な理念と思想に支えられていたことは押さえておいていい。
 私がジョブズ氏の死に「中東の春」や中国のネットユーザーたちを思い浮かべたのもこのためであった。パソコンや、その発展形でもあるスマートフォンなど電子機器類が人々の連帯した抵抗をそこここで生み出している。
 犯罪への利用など、ネット社会の端末が生み出すものはバラ色の風景だけではない。しかし「民主主義の実現」というパソコンの開発思想が少なからず世界を動かしているのは否定しがたい事実なのである。(専門編集委員)
    --「金言:民主主義のツール=西川恵」、『毎日新聞』2011年10月14日(金)付。

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