« 飲む気になれば,理由はいつでもどこでも,必ずある.古今東西を通じて真理であろう | トップページ | 国民的追憶に関しては、哀悼は勝利以上に価値あるものです »

覚え書:「記者の目:米大統領候補者選びのケイン氏人気=吉富裕倫(静岡支局)」、『毎日新聞』2011年11月17日(水)付。

Km1_dscf1995

-----

記者の目:米大統領候補者選びのケイン氏人気=吉富裕倫(静岡支局)

 ◇吉富裕倫(ひろみち) 静岡支局(前ロサンゼルス支局)
 ◇白人保守層の主張に迎合か
 米国の野党共和党の大統領候補者選びは、黒人実業家のハーマン・ケイン氏(65)が草の根保守「ティーパーティー(茶会運動)」から支持され勢いがある。私は6月に米国の人種問題について「きしむ多人種国家アメリカ」を連載し、非白人人口増大や経済低迷と軌を一にし、白人保守層の一部に移民排斥などの人種差別的な感情が高まっていることを指摘した。マイノリティー(少数派)の支持が高い民主党でなく、保守勢力の共和党でなぜ黒人候補者が人気を集めるのか。米メディアでは、同氏の「白人への迎合」を指摘する見方も出ている。

 ◇貧しい家庭から経済的に大成功
 ケイン氏は人種隔離が厳しかった南部ジョージア州アトランタの貧しい家庭から身を起こし、ピザチェーン「ゴッドファーザーズ・ピザ」の最高経営責任者(CEO)に上り詰めるという経済的成功を収めた立志伝中の人物だ。
 モアハウス大学という全員黒人の男子大学を卒業。ただ、学生時代盛んだった黒人への差別撤廃を求める公民権運動には参加せず、「トラブルに巻き込まれないようにするため」勉強と学費稼ぎのアルバイトに専心した。
 政治に深く関わったきっかけは93年、当時のクリントン民主党政権が打ち出した医療保険制度改革。雇用主に従業員の保険料の8割を負担させる内容を含んでいたため、全米レストラン協会の会長の立場から、反対の急先鋒(せんぽう)として廃案に追い込んだ。 無保険者を減らし安心して医療を受けられるようにしようという制度改革は、低所得者が多い黒人には歓迎の声が強いが、ケイン氏を含め共和党・保守派は激しく反発した。昨年、オバマ政権が成立させた医療保険改革法も、「小さな政府」を求めるティーパーティーから、こっぴどい攻撃を受けている。

 ◇不法移民問題で過激発言に拍手
 そんなケイン氏だけに、白人保守派に受けのいい過激な言辞が目立つ。米メディアによると、10月15日、テネシー州のティーパーティー主催の集会で、ヒスパニック(中南米系)の不法移民を防ぐため、フェンスによる国境守備計画を披露した。「高さは20フィート(6メートル)。上部に有刺鉄線を置き、電気を通す。国境の反対側に『警告--死にます』と看板を掲げる」と発言した(後に「ジョークだった」と釈明)。別の集会では「不法移民を国境で止めるため、本物の銃と本物の弾丸を装備した軍隊を派遣することもできる」と話した。こうした発言のたび、拍手がわき起こったという。
 ワシントン大学の民族人種性別研究所の10年の調査では、ティーパーティーを支持する白人の56%が「移民が米国人の仕事を奪う」と回答(同じ答えは、ティーパーティーを支持しない白人では31%)。ケイン氏は、そうしたマイノリティーに反感を抱く白人の敵意さえも取り込むことで、政治的影響力を確保しようとしているように見える。さらに、ティーパーティーの集会で「ここには人種差別主義者はいない」と持ち上げ、「黒人は民主党を支持するよう洗脳されている」と述べる。「白人に話を聞いてもらうために黒人のマイナスイメージを引き合いに出している」(ブラウン大のウリ・ライダー客員研究員=米紙ニューヨーク・タイムズ)のだろうか。
 「電気有刺鉄線」の提案などは、共和党内にも波紋を呼んだ。テキサス州共和党のヒスパニックの幹部が「ケイン氏は無実の人々に対する殺害を主張した。共和党はそんな発言を許容し拍手喝采している」と述べて離党する騒ぎも起きている。
 だが、共和党の党員は89%が白人でヒスパニックは5%、黒人は2%に過ぎない(09年、ギャラップ社調べ)。このため、マイノリティーの反発は、ケイン氏には打撃になっていない。むしろ、ビジネスでの成功と、所得税、法人税、消費税のいずれも9%にする分かりやすい経済政策、妊娠中絶反対などで保守派の評価を得ている。
 米国政治は近年、中間派、穏健派の存在感が薄れ、両極への分断が目立つ。製造業の海外移転が続き、中産階級が衰退し貧富の差が拡大したことが背景にある。
 そうした状況の下での今回の大統領選。もし「オバマ対ケイン」になれば、「史上初の黒人大統領誕生」の前回に続き、「史上初の黒人同士の対決」という画期的な選挙になるはずだ。だが、ケイン氏は「今の米国で人種差別が大きく人を妨げることはない」と述べ、目の前の人種・民族問題を直視しているようには見えないし、人権派弁護士だったオバマ大統領すら「白人の歴代民主党大統領より人種問題に消極的」と指摘されることがある。私には現状が「新しい米国」を感じさせるものとは思えない。
    --「記者の目:米大統領候補者選びのケイン氏人気=吉富裕倫(静岡支局)」、『毎日新聞』2011年11月17日(水)付。
Km2_dsc03177


Km3_resize0155


|

« 飲む気になれば,理由はいつでもどこでも,必ずある.古今東西を通じて真理であろう | トップページ | 国民的追憶に関しては、哀悼は勝利以上に価値あるものです »

覚え書」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/451663/43038681

この記事へのトラックバック一覧です: 覚え書:「記者の目:米大統領候補者選びのケイン氏人気=吉富裕倫(静岡支局)」、『毎日新聞』2011年11月17日(水)付。:

« 飲む気になれば,理由はいつでもどこでも,必ずある.古今東西を通じて真理であろう | トップページ | 国民的追憶に関しては、哀悼は勝利以上に価値あるものです »