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覚え書:「日本の若者は何を考えるのか 20代の若者は現在の生活に満足」、『毎日新聞』2011年11月21日(月)付。


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日本の若者は何を考えるのか 20代の若者は現在の生活に満足

 ◇格差や貧困に当事者意識ない
 ◇古市憲寿(ふるいち・のりとし=東京大学大学院総合文化研究科博士課程)

 長らく日本の若者の政治離れが叫ばれてきた。「政治に興味がない」「投票に行かない」「ましてやデモになんて行くはずがない」、と。しかし、その若者が東日本大震災以降、積極的にデモに参加しているようなのだ。
 特に多くの人を巻き込んでいるのが、東京・高円寺の雑貨リサイクル店「素人の乱」が中心となって企画する一連の脱原発デモだ。4月に高円寺で行われた「原発やめろデモ」には約1万5000人(主催者発表)が集まり、駅一帯は数時間お祭り騒ぎに包まれた。その後も、5月、6月、8月、9月に都内で相次いで同様のデモを行い、毎回5000~2万人(同)の人々が参加した。
 そんななか、米ニューヨークで多くの若者が反格差を訴える運動「ウォール街を占拠せよ」が盛り上がっているというニュースが飛び込んできた。
 日本でもここ数年、格差が拡大し若者の貧困が問題になってきた。また、脱原発デモを主導してきた「素人の乱」は、リーマン・ショック以降に格差社会に対する抗議運動も積極的に行ってきた集団でもある。このため、米国から各国に呼びかけられた反格差の「国際行動デー」の10月15日、日本版の「オキュパイ・トウキョウ(東京を占拠せよ)」にも多くの人が集まるのではないか──。そんなことを本気で期待していた人がいたかどうかはしれないが、当然、そういうことは起こらなかった。告知は欧米と同様、フェイスブックやツイッターなどのソーシャルメディアが使われたが、実際に日比谷や六本木などに集まったのはせいぜい数百人だった。しかも、年齢的に「若者」と呼べる人はほとんどいなかった。

 ◇格差に現実感ない
 なぜ、日本の若者は反格差デモに反応しないのか。告知期間が短かったことあるが、そもそも日本に住む若者がどれだけ「格差社会」なるものに現実感を持っているのか、という問題がある。
 例えば、米国であれば貧困層と富裕層が明確に分かれている。世界トップレベルの私立大学の授業料が年間数百万円にのぼる半面、公立大学の進学費用も工面できずに、やむなく手当や奨学金目的に軍隊に入隊する若者もいる。また、天文学的な金額の金融取引が展開されるウォール街の片隅で、貧困線ギリギリの賃金で働く移民労働者がいる。米国で「1%の富裕層が富を独占している」というスローガンに現実感があるのは当然だろう。
 つまり、敵が明確なのだ。エジプトのムバラク政権やチュニジアのベンアリ政権などの独裁者の存在が民主化運動につながった中東のように、米国でも「1%の富裕層」がわかりやすい攻撃相手になっている。
 一方の欧州は、もともと若者のデモが盛んなうえ、若年層の失業率はとにかく高い。経済協力開発機構(OECD)によれば、2010年のスペインにおける15~24歳の失業率は41.6%、ギリシャは32.9%、福祉国家のイメージばかり言いはやされるスウェーデンでも25.2%。日本の9.2%という数字は世界的に見れば低水準だ。
 そして、高等教育機関を出ても未経験者にはほとんど働き口のない欧州と違い、日本には新卒一括採用制度がある。一部の優良大企業の席を争う「就活レース」に批判も多い半面、中小企業の有効求人倍率は4.41倍(10年)で、4社の中小企業が1人の学生を取り合っている計算になる。もちろん、サービス残業の強要やパワーハラスメントなどの違法行為が常態化している「ブラック企業」問題もあるが、欧州に比べたら大卒というだけで何とか働き口が見つかる日本は「若者に優しい社会」だといえる。
 さらに、若者自身が果たして日本社会で生きることに不満なのかも疑問だ。内閣府の「国民生活に関する世論調査」(10年)によれば、現在の生活に満足していると答えた20代の割合は、男性65.9%、女性75.2%だった。格差社会の名の下、不幸さばかりが吹聴される若者だが、生活満足度は約7割にも及ぶ。また、20代男性では1970年の52.2%と比べると、10%以上上昇し、近年では若年層ほど満足度が高い。
 また、同調査では、今後の生活の見通しも聞いているが、20代の65.4%が「同じようなもの」と答え、「悪くなっていく」は11.5%しかいない。さらに、「悪くなっていく」と答えた40代は24.7%、50代は35.4%に達している。つまり、20代より40代、50代の方が社会に強い不満を持っているのではないか。
 「若者が立ち上がって社会を変えてくれる」という勝手な期待をしている人には悪いが、当の若者はどうやら今の日本社会を、そこまで悪いものだとは考えていないようだ。

 ◇脱原発デモはオフ会
 ではなぜ脱原発デモには1万人規模の人が集まったのか。1つは、脱原発が「わかりやすい敵」として立ち現れたからだ。福島第1原発事故のような大惨事が起これば、誰だって原発に不安を持つ。ただ、1万人が集まったところで、特に社会は変わっていない。
 そもそも「素人の乱」は、「家賃をタダにしろ一揆」や「ニート祭り」など、まるでお祭りやピクニック気分の雰囲気で「誰でも参加しやすい入場料無料のカーニバル」のようなデモを主催してきた。3・11以降の脱原発デモも、インターネットで知り合った仲間が月1回実際に集まる「大規模なオフ会」のようなものだ。事実、4月10日のデモには、同日が投票日で原発政策も争点だった東京都知事選挙が行われたが、投票しなかった参加者もいた。
 「しょせん、オフ会」だった脱原発デモに比べて、10月15日の「オキュパイ・トウキョウ」は真面目すぎた。少しもお祭りっぽくない。だから、数百人しか集まらなかった。一方、同日にオープンした有楽町阪急メンズ館の行列は600人。開店2日で10万人もの人を集めた。やはり、若者はデモより消費に魅力を感じているようだ。
 一番長続きしやすい社会運動というのは当事者運動だ。例えば、今でも最も放射性物質の影響を心配しているのは小さな子供を持つ親だろう。一方で、日本の若者は格差社会の当事者、つまり自分たちが「弱者」だという認識がない。日本で反格差を掲げたデモは広がらないし、続くこともないだろう。

 ◇格差の本質は未来
 若者にとって格差や貧困とは、未来の問題だ。20代のうちは体も健康だし、親も元気な場合が多いし、世代内収入格差も少ない。しかし、40、50代ともなれば自分の体も弱るし、親も老いてくる。同世代でも「成功者」と「落伍者」がはっきり分かれるだろう。
 今後、本格的なデモや社会運動が起こるとしたら数十年後かもしれない。93年頃から始まった就職氷河期が生んだ「フリーター第1世代」が高齢者になる頃だ。現在は消費者として元気な団塊の世代がいなくなり、モノを買う人が減る。現役人口はさらに減り、高齢者の割合は増える。すると社会保障費や年金がついには立ち行かなくなる。
 日本の落日は、欧州よりは遅いかもしれない。しかし、現在の社会制度を変えない限り、「その日」は必ず訪れる。今日、明日食べることさえおぼつかなくなったら、いくらおとなしいと言われる日本でも暴動は起こるだろう。その時に「ついに日本中の人が政治に興味を持ちだした」なんていう能天気なことを言える人がいるだろうか。
 「その日」を回避するために、誰が何をすべきか。それは若者ではなく、今、おカネも人脈も経験も相対的に豊富に持つ「年配者」の仕事ではないのか。自分は何も行動を起こさずに、リソース(資源・財源)の少ない若者が社会を変えてくれることを待つというのは「少し都合が良すぎる」、と一若者として思う。
    --「日本の若者は何を考えるのか 20代の若者は現在の生活に満足」、『毎日新聞』2011年11月21日(月)付。

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