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覚え書:「ザ・特集:ギリシャ人、何思う 怠惰、浪費、脱税…欧州危機で非難の的」、『毎日新聞』2011年11月24日(木)付。


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ザ・特集:ギリシャ人、何思う 怠惰、浪費、脱税…欧州危機で非難の的

 ♪ソ、ソ、ソクラテス--じゃないけれど、悩めるギリシャが気にかかる。債務危機が続く欧州で、世界経済を危機のふちに追いやった張本人のように後ろ指をさされる昨今。西洋文明発祥の地に暮らす人々は本当に「怠け者」で「浪費家」なのか。日本在住のギリシャ人3人に今の思いを語ってもらった。【井田純】

 ◇ユーロ導入後、給料上がらず物価は上昇。庶民は副業当たり前。
 ◇脱税は腐敗政治家と結んだ一部の富裕層の問題。サラリーマンは無関係。
 ◇「コネ社会」で政治機能不全。苦しいし抵抗はあっても健全化に改革は必要。
 「ギリシャ人は怠惰だと言われていますが、それは事実じゃありません」

 東京・六本木のギリシャ料理レストラン「スピローズ」。あいさつもそこそこに「弁明」の口火を切ったのは、ギリシャの食材を現地から輸入・販売している日本在住10年のアサナシオス・フラギスさん(62)だ。怠惰どころか、「ギリシャ庶民の多くは本業の収入だけでは生活費が足りず、副業を持つのが当たり前なんです。中には三つの仕事を掛け持ちする人も珍しくない」と言うのだ。
 ブドウの葉でごはんを包んだ「ドルマダキア」などギリシャの前菜が並び、テーブルは一気に華やいだものの、「01年のユーロ導入後、給料は低いまま、物価は他の欧州諸国と同じか、それ以上に上がってしまったんです」とヤニ・プララキスさん(32)が顔をくもらせる。来日1年半、東大大学院で建築を学ぶ留学生だが、それまではアテネで建築関係の仕事に就いていた。
 アサナシオスさんの言い分を裏付けるデータもある。経済協力開発機構(OECD)の統計では、昨年のギリシャの労働者1人あたりの労働時間は2109時間。一方、欧州連合(EU)最大の経済大国ドイツは1419時間。自己申告ベースとはいえ、ギリシャの方が約1・5倍働いていることになる。

 だとしても、浪費が過ぎてしまったのでは?
 「元々、ギリシャでは『欲しいものがあれば貯金しなさい』というのが伝統だった。日本と同じようにね」。アサナシオスさんが言う。ところが、ギリシャがユーロ圏に入ったころから、空気が変わってきたというのだ。「ローンを組んで住宅や車の購入を勧める金融機関のテレビCMが増えた。まるで洗脳のようでした」とヤニさんは振り返る。
 質実を旨とする古くからの美徳も、旧通貨・ドラクマとともに消えたということなのか。
 でも、指摘される脱税の横行はユーロ導入とは無関係のはず。ヤニさんはこう反論する。「徴税システムに問題があるのは事実です。だけど、脱税は、腐敗した政治家と結びついた一部の富裕層によるもので、所得が捕捉された多くのサラリーマンは無関係なんです」
 経済のグローバル化とともに国境を超えた投機マネーによって、一国の経済が危機を迎える事態は、確かにギリシャが初めてではない。政府も、流れ込むユーロをアテネ五輪(04年)開催に向けた公共工事や公務員増員などさまざまなばらまきに投じ、公的債務を国内総生産(GDP)比約1・5倍に膨らませるなど、財政の無規律ぶりをさらした。

 今回の債務危機についてギリシャ、そしてギリシャ人は被害者だったと言える?
 「いや。腐敗した政府はもちろん、愚かな国民にも責任はある」。アサナシオスさんは厳しい口調で言う。それにしても「デモクラシー」という言葉を生んだ地で、民主主義の負の側面があらわになる皮肉に話を向けると、「うーん」とうなって無言になった。
 女性の意見はどうか。別の日、貿易関係の仕事に就くクリシ・テオドラカコスさん(45)に会った。
 「ギリシャ人が甘やかされてきたのは事実です」。小学生の男の子2人を育てる母親は、いきなりバッサリ。先の男性たちとはかなりトーンが違う。
 「増税や緊縮財政は、アメばかりなめていた子どもにニンジンを食べさせるのと同じ。抵抗はあるでしょうが、必要な措置です。今まで通りではダメに決まってるんだから」。健全な状態に切り替えるために多少の痛みを伴うのはやむを得ない、と強調する。アテネの生まれだが「父はスパルタの出身」と聞き、何だか妙に納得してしまう。あるいは英国でコンピューターサイエンスを学び、米国系企業に勤務したキャリアの影響か--。
 政財界腐敗の最大の原因は伝統的な「コネ社会」にあるという。「その人に何ができるかではなく、その人が誰の知り合いかで決まる。問題の根源は政党政治のシステム」と顔をしかめるクリシさん。だからこそ、欧州中央銀行副総裁の経歴を持つパパデモス新首相に期待する。世論調査でも、学者肌の新首相の支持率は高い。
 「無秩序と自由をはきちがえている国民には、規律が必要でしょ。改革は苦しいものになるだろうし、一時的に犯罪が増えることもあるかもしれない。それでも、日本のようにきちんと機能するシステムを構築しないと。震災後の日本と同じ、『ガンバッテ』というところかな」
 「日本のように」という言葉は正直面はゆいが--。
 再びギリシャ料理レストラン。若いヤニさんに尋ねた。そもそもギリシャがユーロ圏に入ったのは間違いだった?
 「いいえ。我が国はこれまでもEUに貢献してきたし、これからも欧州の一部であり続けます。今回借りた資金は長い時間をかけても返すべきだし、ユーロからの離脱にも反対です」。アサナシオスさんが続ける。「世界大戦を経験した欧州が平和のために築いたのがEU。ギリシャは19世紀の独立以降、20世紀半ばまで、地域紛争や内戦などで平和が10年と維持されたことはなかった。平和の尊さは十分にわかっている」
 現在の経済システムのもとで生じるさまざまな格差によって「世界は不安定化する危険性をはらんでいる」とヤニさん。「ウォール街デモで分かるように、米国人でさえおかしいと思い始めた。今回の危機から、ギリシャでは世界に先駆けた前向きの変化が生まれると思います。そこに注目してほしいな」
 アサナシオスさんが賛意を示すように、やや改まった口調で言った。「若者よ、人生のたそがれを迎えつつある私から言葉を贈ろう。知識人として、また科学の徒として、さらには一人のギリシャ人として、新しいギリシャへの貢献があなたたちの義務なのだ」「たそがれなどと、何を言うのです。まだ道半ばでありませんか。われわれギリシャ人は長生きなのですから」とヤニさんが返す--。何やらプラトンの「対話編」の一節のように聞こえた。
 ディナーも終わりに近づき、伝統料理の「ムサカ」が運ばれてきた。まろやかなベシャメルソースに包まれた肉と野菜の豊かな風味に2人が相好を崩す。これからのギリシャが楽しみにも思えてきた。
    --「ザ・特集:ギリシャ人、何思う 怠惰、浪費、脱税…欧州危機で非難の的」、『毎日新聞』2011年11月24日(木)付。

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