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「論点 原発輸出」、『毎日新聞』2011年11月25日(金)付。

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論点 原発輸出

 10月の日本・ベトナム首脳会談でベトナムの原子力発電所建設を日本が受注することで合意しました。国内では脱原発依存を唱えながら輸出は認められるか。政府の原発輸出を論じます。

十市勉 日本エネルギー経済研究所顧問
◇アジアの発展取り込め

 原発輸出を考える大前提として、日本が今後、原発をどのように活用すべきかを、国際的な視点も含めて考える必要がある。

安全高めた活用前提に
 東京電力福島第1原発事故の発生を受け、原子力に対する国論は割れているが、日本が直面している課題を解決する上で、原子力発電の役割はなお重要だ。電力の安定供給や地球温暖化の防止、再生可能エネルギーの高い発電コストなどを考えれば、安全性を最高水準に高めて原子力を活用すべきことが必要だ。原発輸出の問題は、それを前提にした上で考えるべきである。
 民主党政権は昨年6月にまとめた新成長戦略で、原発輸出を積極的に進める姿勢を示した。ベトナムをはじめアジアの新興国は経済が発展し、電力不足が深刻化している。経済の発展には電力の安定供給が欠かせない。地球温暖化対策の面でも、長期的には新興国にも温室効果ガス削減の義務が課せられる可能性が高く、これらの国での原子力発電の必要性は高まっている。
 日本は1960年代から原子力の平和利用に取り組み、多くの技術の蓄積を持つ。こうした蓄積を世界のために生かすことは、アジアの経済発展を取り込んで生きていくという、日本自身の国策にも合致する。
 韓国は稼働中の原発が21基、建設中と計画中が13基を数え、国策として原発輸出に力を入れている。中国も14基が稼働中、27基が建設中で、15年には40基を超え、日本を追い抜き米国、フランスに次ぐ原子力大国になる。いずれ中国も、本格的な原発輸出を目指すだろう。
 このような中、ベトナムやトルコは福島事故後も、日本の原子力技術に高い信頼を置いている。事故の教訓を最大限生かし、こうした期待に応えるのも日本の国際的な責任と役割である。
 原発輸出は政治的にも大きな意味を持つ。ベトナムは領土や領海問題をめぐり中国と対立しており、歴史的にも強い警戒心を持っている。そのベトナムが日本を信頼し、協力を求めている。日本にとってベトナムは「対中カード」としても重要な国の一つであり、その要請に応えることは、外交上もプラス面が大きい。逆に、ここで日本が合意した輸出をやめれば、対中戦略上も悪影響を与えかねない。
 ただ、福島事故で原子力に対する国民の批判が強い今、日本が本当に原発輸出をやれるのか、課題が多い。
 原発輸出は単なる建設にとどまらず、完成後の操業まで含めて30年、40年の長期にわたる関与が必要だ。日本の原子炉メーカーは高い技術を持っているが、全体の責任主体となるべき電力会社は、リーダー役の東京電力が福島事故で経営的に大きな痛手を受けた。他の電力会社も、事故の影響で稼働中の原発が次々と停止し、経営は弱体化している。さらには政府内では、電力会社の発電部門と送電部門の分離(発送電分離)の可能性も議論されるなど、将来の見通しがついていない。

国がリスクを負う覚悟を
 原発輸出に取り組んでいる、フランス、ロシア、韓国などは、国の強い支援を受けて、国営企業がリスクを取って主導している。日本では、民間企業が新たなビジネス機会として取り組むには、国が「原発輸出は国益上進める必要がある」との覚悟を持ち、公的な金融支援および最終的なリスクを負う態勢をとって進める必要があるのではないか。
【聞き手・尾中香尚里】
といち・つとむ 1945年生まれ。東京大学大学院博士課程修了。米マサチューセッツ工科大学客員研究員を経て現職。著書に「21世紀のエネルギー地政学」など。

飯田哲也 環境エネルギー政策研究所所長
◇ 現実を見て立ち止まれ

 世界史に残る地球規模で最悪の原発事故の収束がいまだに見えないというのに、民主党政権が原発輸出に前のめりになっている。素朴に見てもナンセンス極まりないが、問題は意外に根深い。
 政権交代直後の民主党に欠けていた「成長戦略」というあなに「インフラ輸出」というキーワードがスッポリ入り込み、一昨年末、アラブ首長国連邦への原発輸出競争で韓国に敗れたことで、逆に競争心をあおられ勢いづいたのだ。
 最大の問題は、政権が事実と現実を知らないことだ。

コスト急騰と建設遅延
 世界で建設されつつある原発は、コストの急騰と建設期間の遅延で、非常に大きな投資リスクとなっている。フィンランドで建設中のオルキルオト原発3号機はコストが当初の見積もりの4倍に高騰し、建設期間も現時点で4年もの遅延だ。フランスでも唯一建設中のフラマビル原発で2倍以上のコスト超過と遅延が生じ、アメリカではサウステキサス電力会社が計画していた原発が3倍以上の見積もり高騰で、フクシマ後にキャンセルされた。
 まして海外でプラント主契約者の経験がほとんどない日本が、成功する見込みは乏しい。民間保険会社の規模を超えるような損害に政府などが対応する貿易保険などがあるが、国民の税金などをこうした事業のリスクにさらす、「もうけは一部の企業、リスクは国民」という不公平極まりない構図はそもそも許されない。
 そもそも原発輸出が「新経済戦略」になるのか、冷静に再考すべきだ。上記の原発事業自体のリスクに加えて現在の原発輸出の構図は、中国・ロシア・インド・韓国などの新興国が自国市場やその他のアジア諸国を含む新興国に輸出する形だ。日本がそうした新興国の市場で競争力を持てるとは思えない。
 仮に受注を獲得しても「成長戦略」と呼ぶに値しない程度の数に限られ、しかも海外パートナー企業の設計のもとで日本は製造下請け的な付加価値の低い役割にとどまる。
 そして何よりも、フクシマ事故が立証した、お粗末極まりないに日本の原子力ムラの実態だ。すでに先の国会では、ヨルダンとの原子力協定に先立って、建設予定地は緊急時の冷却水の確保が困難な乾燥地帯であるなど、ずさんな調査の実態が非政府組織(NGO)から指摘されている。原子力ムラはフクシマ事故から何も学んでいないのだ。

核拡散助長のリスクも
 原発輸出の経済面以外のリスクも考える必要がある。原子力未開発国に対して原発を輸出するということは、潜在的に核拡散を助長するリスクを高める。これはイランや北朝鮮等で現実のリスクとなっており、日本の2国間協定で防止できるという考えはナイーブにすぎる。
 輸出先の原発事故で製造者責任を問われるリスクもある。それを回避するために、「原子力損害の補完的補償に関する条約(CSC)」が用意されているが、日本はフクシマ後に慌てて加盟を検討し始めたという泥縄的対応だ。それ以前に、この条約自体が輸出車に都合の良すぎる身勝手なものだ。本来、日本が取るべき対応は、フクシマ事故を踏まえて、こうした悲惨な事故を他国に引き起こさないために、原発輸出に禁欲的になる規範性ではないか。
 政権は、こうした根拠なき過信がフクシマ事故を招いたとの真摯な反省に立って、今こそ勇気を持って立ち止まり、原発輸出という妄想を捨て去るべき時だ。
いいだ・てつなり 1959年生まれ。京都大学大学院原子核工学修了。原子力産業・原子力規制を経験後、持続可能な自然エネルギー政策の専門家に転じた。


吉岡斉 九州大副学長(科学史)
◇ 国民が賠償負う恐れ

 政府が原発輸出に積極関与する背景について、まず歴史を踏まえておきたい。
 世界の原発は80年代末以降、400基台前半で停滞している。先進国ではもはや原子力産業は構造不況の斜陽と言っていい。ところが、00年代に中国やインドをはじめ東南アジア、中東、アフリカ諸国に原発計画が浮上し、原子力メーカーの目は海外に向いた。だが、それら新興国は国内の電力供給システムすら未整備の国が大半で、原発の運転管理や人材育成などをすべて盛り込んだ「フルパッケージ型輸出」を求めた。こうなるとメーカー単独で請け負うことは不可能だ。

初の官民一体型方針に
 こうした要請が、昨年6月に民主党政権がまとめた「エネルギー基本計画」につながっている。戦後初めて、官民一体のフルパッケージ型原発輸出の方針を打ち出した。電力会社や原子炉メーカーなどが参加する原発輸出専門の新会社「国際原子力開発」も設立され、オールジャパンの枠組みが整った。
 とわいえ、原発輸出は経営上の問題点が多い。あくまで民間ビジネスとしてやればいいことであり、政府の関与は無期凍結すべきだと考える。
 最大の問題は、事故や契約不履行が生じた場合の賠償責任が国民負担に結びつく可能性が高い点だ。例えば、パッケージの一つとして輸出しようとしている核燃料サイクルは、現状において国内実績がゼロに近く、日本企業にサービス提供能力はない。契約不履行となれば、結果として相手国から日本政府にも巨額賠償が請求される恐れがある。
 事故の損害賠償も同様だ。原子炉建設から運転管理、燃料供給、廃棄物処理にいたるまですべてを請け負えば、事故時の賠償責任を負わされるリスクが増すのは確実だ。
 もちろん、相手国の債務不履行というリスクもある。いずれにしろ官民一体型は政府負担、つまりは国民負担のリスクが常につきまとう。福島第1原発事故で巨額の国民負担が生じている中、新たなリスクは許されるだろうか。そもそも国際原子力開発の筆頭株主である東京電力に余力はない。
 第二に、新興国の買い手市場となっている点も問題だ。政府はベトナムとの原発輸出交渉で、ベトナム側が提示した核廃棄物処理や建設費の低利融資などの諸条件をのんだとされる。この他、政府間では原発と直接関係ない付帯サービスの契約もあるかもしれない。そういった取引条件の多くは秘匿され、全体として黒字なのか赤字なのか、国民の目からは経済合理性の判断がつかない。国内の公共事業と同じ構図だ。
 インドのような核拡散防止条約(NPT)非加盟国と原子力協定に向けて交渉していることも問題だ。戦後、非加盟国との原発技術協力は御法度だったが、それを破ったのが08年にインドと原子力協定を結んだ米ブッシュ政権だった。市場として成長が見込めるからと言って、被爆国日本がそれに追随するのは異常だ。

日米とも国内市場縮小
 米国の原子炉メーカーはリストラが進んで今や圧力容器すら自前で造れず、提携する東芝や日立と共同でなければ原発建設を受注できない。東芝や日立がこれ以上原発部門を縮小すれば、米国メーカーもつぶれる依存関係が出来上がっている。原発輸出は国内市場の縮小に悩む日米双方のメーカーの救済策にはなるだろうが、払うリスクが大きすぎる。
【聞き手・阿部周一】
よしおか・ひとし 1953年生まれ。東京大理学部卒。政府の福島原発事故調査・検証委員会委員を務める。著書に「原子力の社会史 その日本的展開」など。
    --「論点 原発輸出」、『毎日新聞』2011年11月25日(金)付。

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