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近代の文化と文明に浴している人間にとっての重大な問題は、精神生活における合理的なちからと非合理的な力のあいだの健全な、自然な、そして調和的な関係である

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 近代の文化と文明に浴している人間にとっての重大な問題は、精神生活における合理的なちからと非合理的な力のあいだの健全な、自然な、そして調和的な関係である。なぜなら、まさにこの近代の文化と文明こそ、それのもつ特性によって、この均衡を脅かしているからである。
 悟性と理性が--非常に大ざっぱに、しかしわれわれの目的にかなうように考察するならば--一方の領域の力であり、心情、空想力、欲求および意欲が、いま一方の領域の力である。けっきょくは理性が、それゆえ合理的な力が、心の波動全体を支配すべきものである。しかしこの理性は、その最高、最良の働きをするためには、それ自身すでにまた、非合理的なもろもろの力によって養分を与えられなくてはならない。心情は理性に、よきものへの、利己心の抑制への、あらゆる倫理的、宗教的な目標への道を、空想力は美しいものへの、それとともにまた利己的-感覚的な欲求からの心の解放への道を示さなければならない。さらにまた心情と空想力とは、世界を理解する任務をもつ悟性をも、すなわち認識や真理への衝動をも養い導かねばならないが、しかしこのことは、要領よく、慎重に、かつ暴力を加えることなく行われる必要がある。しかしながら、よいもの、美しいもの、真なるもののすべての領域において最後に行政権を行使しなければならない意志は、理性の女王に服従すべき義務がある。なぜなら、理性とは、心のもろもろの力の全体から高まって、それらをすべてじゅうぶん理解し、和解させ、指導する支配者だからである。
 心の個々の力の一面的な発展はどんなものでも、それが合理的な力であろうと非合理的な力であろうと、全体をかき乱すおそれがあり、だんだん高まってゆくと最後には、個人にとっても集団にとっても民族全体にとっても、悲惨な結末に達し、思いがけない大事件が嵐のように殺到して、それらを危険な方向に追いこむ可能性があるのである。
 このような嵐が当時ドイツ人を襲ったのであって、この嵐に完全に抵抗したのは、ほんのわずかな人々だけであった。
    --マイネッケ(矢田俊隆訳)『ドイツの悲劇』中公文庫、1974年、62-63頁。

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理性的に振る舞おうとも、非合理にあこがれようとも、その態度が中途半端であるかぎり、ややもするとそれとはまったく意図しない方向に雪崩をうってしまうということは、おそらく「よくある話」の一つなんだろう。

そしてそれを加速させているのが、コンテンツの吟味を割愛した「専門」風「教育」ということなんだろうけれども、これは、今に始まった話ではないということ。近代という社会システムがそうした感情や非合理を嫌悪する分断知に依拠することに一つの起源があるのであり、裏返すならば、その合理的「計画」知は、感情や非合理を合理的に検討しよういう挑戦を「前世紀の遺物」として退けてしまい、関わるという視座を割愛してしまったしっぺ返しかも知れない。

合理的・計画性・経済性によってすべてが吟味できるわけではない。しかしその規準で、本来は勘案すべき問題を見逃すことによって、かえって、免疫がなくなってしまった……。

そういうところもおそらくあるのじゃないかとも思う。

理性的であるから優れているわけでもないし、非合理であるから「ありがたい」ものでもない。その両者とも人間に由来する事実をわすれて、どちらか一方のみを先鋭化してしまうとろくなことはありゃアしないということでしょう。

「心の個々の力の一面的な発展はどんなものでも、それが合理的な力であろうと非合理的な力であろうと、全体をかき乱すおそれがあり、だんだん高まってゆくと最後には、個人にとっても集団にとっても民族全体にとっても、悲惨な結末に達し、思いがけない大事件が嵐のように殺到して、それらを危険な方向に追いこむ可能性があるのである」。

時代の嵐を直接経験した歴史家・マイネッケ(Friedrich Meinecke,1862-1954)のこの指摘は重いものがありますねぇ。

蛇足ですが、写真は先週いただいた「北海道産・仙鳳趾牡蠣」。
なかなかウマシでした(汗


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