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覚え書:「記者の目:大阪ダブル選挙「橋下・維新」圧勝=林由紀子(大阪社会部)」、『毎日新聞』2011年12月9日(金)付。

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記者の目:大阪ダブル選挙「橋下・維新」圧勝=林由紀子(大阪社会部)

政策のデメリット含め語って
 大阪府知事と大阪市長のダブル選(11月27日に投開票)で大阪市民が市長に選んだのは、「市長なんかいらない」「市役所をつぶして一から作り直す」と訴え、府知事から転身した橋下徹氏(42)だった。大阪市などを解体して都と特別自治区に再編する「大阪都構想」を掲げた橋下氏は、行政改革の断行や経済再生など、有権者の心をくすぐる訴えで75万票(得票率59%)を集めた。その選挙戦術のうまさには脱帽したが、一方で都合の良い部分だけを拡大して見せる政治手法には違和感を覚えた。
 私は、告示前から約4週間、橋下氏を追いかけた。街頭では連日、有権者に交じって演説を聞き、商店街での練り歩きにも同行した。

巧みな弁舌で聴衆を感化
 橋下氏の演説手法は明快だ。相手候補や既成政党を、改革を阻害する「抵抗勢力」として一刀両断。「このままでは大阪はじり貧だ」「5年、10年後には給料が3割下がる」と断定口調で危機感をあおり、「変えるのか、変えないのか」と二者択一を迫る。巧みな弁舌が醸し出す高揚感の中で、聴衆たちが次第に感化されていく雰囲気がはっきりと体感できた。
 こんな場面もあった。
 橋下氏が自ら率いる政党「大阪維新の会」は、選挙に先立つ8~11月、大阪市内24区で、政策を説明するための「区民会議」を開いた。橋下氏や市議が学校選択制などについて政策を示し、地域住民と話し合う。ある区では、冒頭、制度への賛否を問うと、「賛成」は2~3割だった。それが、橋下氏が数十分話した後では、8割近い人が賛成に手を挙げた。橋下氏のカリスマ性が際立ち過ぎて、人気という言葉だけでは表せない怖さも感じた。
 一方、巧みな弁舌とは裏腹に、政策の中身に関する説明には不信感を抱いた。
 例えば、最大の争点となった都構想だが、維新が作成した「大阪都構想推進大綱」などでは、市内24区を30万人規模で8~9の特別自治区に再編するとしている。ところが、橋下氏は個人演説会の会場や街頭でそうした説明はほとんどせず、灰色一色に塗りつぶした大阪市の地図と、24区を24色に色分けした地図を並べたちらしを配布。「今はネズミ色一色の24区を24色多色豊かな大阪市に」と訴えた。
 ちらしを見れば思わず橋下氏の訴えに飛びつきそうになる。だが巧妙な「争点ぼかし」に思えた。市民になじみのある現在の区をなくして再編することに対する拒絶反応を考慮し、都構想の根幹に関わる大事な部分を隠したといわれても仕方ないだろう。
 橋下氏はこうした手法について記者から「都構想を問うていることにならないのでは」と質問されると、「8~9というのはゴール。まず方向性を示すのが政治であって、手法のことは今言わなくていい」「民意をいかにマネジメントしてうまく利用するかを考えるのが政治戦略だ」とかわした。しつこく追及すると、「マニフェストに書いていることを全部言わなきゃいけないのか。正確に伝えるのはメディアの皆さんの責任だ」と反ばくする。これでは責任転嫁ではないか。
 間近で見ると危うさをはらむ橋下流だが、多くの有権者の目には、大阪を前向きに変えてくれそうな「期待の星」と映ったようだ。

「停滞ムードを変えてほしい」
 「何かを変えてくれそうだから」。橋下氏を支持する有権者に理由を尋ねると、この言葉が多く返ってきた。長引く景気低迷は、中小企業が多い大阪に深刻な影響をもたらし、停滞ムードが強まっている。橋下氏に集まる支持は、「新しい切り口で大阪を再生してほしい」という有権者の意識を反映している。橋下氏は、そんな雰囲気を鋭くかぎわけ、「改革者」を演出することで選挙に勝利した。
 だが、選挙結果で見逃せない点がある。橋下氏に対抗した現職候補の平松邦夫氏(63)が、前回を16万票上回る52万票(得票率41%)を集めたことだ。民主、自民両党だけでなく、共産党まで自主的支援に回ったのは、政治的立場の違いを超えて、橋下氏の政治手法に対する共通の危機感があったからだ。
 大阪を活性化させる改革には、確かに突破力も必要だろう。しかし、市民はすべてを白紙委任したわけではない。橋下氏の政治手法に警戒感を抱く人が多いことも示された。選挙中に説明が不足していた政策の中身を、デメリットも含めて正直に市民に語ることが何より重要ではないか。
 性急なやり方では市民はついてこない。人々が本当に納得できる形で、大阪再生を目指す改革に取り組んでほしい。
    --「記者の目:大阪ダブル選挙「橋下・維新」圧勝=林由紀子(大阪社会部)」、『毎日新聞』2011年12月9日(金)付。

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