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覚え書:「論壇:この1年 「論壇をよむ」執筆者対談・語り下ろし」、『毎日新聞』2011年12月5日(月)付(東京・夕刊)。

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論壇:この1年 「論壇をよむ」執筆者対談・語り下ろし

 東日本大震災が、この国の積み重ねてきた矛盾を露呈させた今年。論壇では、大震災をはじめ2年目の民主党政権の評価、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)問題などが語られた。「論壇をよむ」(東京本社版朝刊文化面)執筆者のうち、添谷芳秀・慶応大教授(国際政治学)、牧原出・東北大教授(政治学)の対談と、中島岳志・北海道大准教授(近代政治思想史)の語り下ろしで、2011年を振り返る。【構成・鈴木英生、写真・手塚耕一郎】

 ◇もっと世界にアンテナを--添谷さん
 ◇変わった政権の意思決定--牧原さん
 ●東日本大震災

 添谷芳秀さん 日本の課題を考える「きっかけ」としても、東日本大震災以上の国家的危機はありませんでした。復興の道筋を今後の国のかたちに結びつけて論ずべきなのに、論壇を含めて、そうした議論がほぼなかった気がします。

 牧原出さん 確かに、論壇誌も紋切り型のルポが多かった印象です。とはいえ、特に大震災後1カ月ほどは、原発事故がどうなるか分からず、誰もが思考停止していましたから。ともあれ、論は後追いになる。日本の今後についての議論は、これから出てくるのでは。

 添谷さん 原発については、国際的な「風評被害」を今も感じます。政府や東京電力は、不利な話を含めて正確に情報開示して信頼を得ることができなかった。国境を越えた問題だという視点での総括が必要です。

 ●民主党政権

 牧原さん 他方、大震災に経済危機が相まって、民主党政権の「決められない政治主導」がいかにだめかが明確になった。菅直人前首相と大震災ほどのミスマッチはなかった。ただしその結果、枝野幸男氏や細野豪志氏ら新しいタイプの政治家が前面に立った。野党時代の党代表経験者による政治には戻らないでしょう。菅さんらの「やれるか分からないが言ってみる」ではなく、野田佳彦首相の1日おいてTPP交渉参加を表明するようなやり方がいいんです。野田政権で、意思決定の仕組みは変わってきました。最近は、前よりはよく動くようになってきたと思います。

 添谷さん 民主党の若い政治家が急速に学びつつあるという見方は同感です。

 牧原さん それと、野田政権は自民党型ではない。たとえばTPPです。自民党ならば、あれだけ党内が割れたら絶対に決まらなかった。

 添谷さん 他方、世界各国で、誰が政治をしてもなかなか結果の出ない時代です。橋下徹氏の大阪市長選当選は、既成政党に先を託せないとの意識の表れでしょうか。

 牧原さん 橋下氏は、サルコジ氏、ベルルスコーニ氏などポピュリストの系譜の最終走者か、新時代の制度設計者の旗手となるかの岐路に立っていると思います。

 ●外交・TPP

 添谷さん 日本の政治家で、普段から外交について考えている人は、5%もいないでしょう。戦後、米国さえいれば大丈夫という構造が続いた結果です。ただ、その構造の意義を理解せず、鳩山由紀夫さんのように「対米依存が過剰だ」と唐突に言ってもむちゃです。次の菅さんは、何も考えていなかったから「現実主義」、野田さんも同じで、だからとりあえず官僚を尊重する。官僚を毛嫌いした菅さんよりましですが、中国の台頭に欧州危機など外交課題は以前と完全に違っています。挙国一致で世界にアンテナを張り、それを政治がリードしなくてはならないのですが……。

 牧原さん 欧州危機もあり、いよいよ日本の国債の危機も叫ばれています。おかげで、TPPへの交渉参加のように、国内のあるセクターは多少切ってでもこちらを伸ばすというような思考が、ようやくできる環境になってきたのでは。

 添谷さん TPPは国の戦略的選択の問題で、内政の個別課題とは決定の次元が違います。国内的で身近な論理に基づく反対論が出るのは当然です。だからこそ、戦略的決定と同時に国民一人一人への気配りが政治に求められる。その緊張感がなく、二元論的な対立に陥ってしまっているように見えます。

 牧原さん 国内の強い反対は外交カードになりますが、そこまで考えて反対している人がどれだけいるのか。

 添谷さん それにしても、対外政策でここまで国論が分かれたのは、60年安保以来でしょう。反対論の根底に米国の陰謀論があるのも安保に似ている。戦後日本が、米国の意味をいまだ整理できていない証拠。実際の交渉では、各国が結束して米国にもの申す場面も出てくるはずです。そうした多国間の視点での議論が見られない。ほかに国際経済で気になるのは、欧州危機と日本の財政赤字の関係ですね。

 牧原さん 欧州で財政危機が叫ばれている国々の国債発行残高は、サブプライムローンの3倍と聞きます。これが一気に吹っ飛んだときのインパクトは大きいでしょう。

 添谷さん 中国もバブルが崩壊しつつある。先日、マカオで中国のナショナリズムについて話したら、中国本土出身の大学生が「国家台頭による自信なんて全くない。むしろ、今後の心配ばかりです」と。欧州危機が中国に波及する可能性を空気として感じます。中国がくしゃみをすれば、米国を含む世界が風邪をひきますよ。

 牧原さん 世界同時不況になりますね……。それがどう政治に波及するか。

 添谷さん 中国のような権威主義体制では、社会・経済が不安定化したときに、国民の不安を外に向ける可能性も否定しきれません。

 牧原さん メルケル独首相が先日、「平和と繁栄の欧州はもう来ないかもしれない」と言っていました。「繁栄」はともかく、「平和」と言ったことが驚きです。来年は、主要国で大統領選挙があります。危機の下で政治変化が起こることになります。目が離せない日々になりそうです。

 <今年の3点>

 ◆添谷さん

<1>ナショナリズムと組織の論理(高原明生)=外交10号

<2>日朝平壌宣言までの長い道程(田中均)=中央公論7月号

<3>文化と外交(渡辺靖)=中公新書

 ◆牧原さん

<1>「戦後」が終わり、「災後」が始まる(御厨貴)=中央公論5月号

<2>津波に耐えた「死者ゼロの街」(葉上太郎)=文芸春秋9月号

<3>アーカイブズが社会を変える(松岡資明)=平凡社新書

 ◇広まった「救世主」待望論--中島さん
 今年は、東日本大震災と福島第1原発事故、それへの対応のまずさを含む民主党政権の不安定さが、シニシズム(冷笑主義)をますます社会に広めた。これが小泉ブームに似た「救世主」待望論となり、大阪市長選での橋下徹氏の当選にもつながったと思う。

 原発事故では、政府や東京電力への不信感が膨らんだ一方、「ベクレル」や「マイクロシーベルト」など難解な用語だけが流布して、人々は、究極の自己責任を強いられる日常を送った。そこで事故後しばらくすると、多くの人に「放射能について知るほど不安になるだけ。だから、深く追及せず考えないことにする」という、いわば「状況へのネグレクト(拒否)」が起きた印象だ。

 しかし、いくら状況を拒否してみても、不安は消えるものではない。だからこそ、分かりやすい「敵」を叩(たた)くことで不安を解消する、「救世主」を求める雰囲気が広まったのではないだろうか。橋下氏の論理は一貫して「既得権益バッシング」。ちょっと得をしているとみえる人たちを徹底的に叩き、支持を集める。構造は、ユダヤ人を批判して政権を取ったナチスに類似する。

 小泉ブーム後、格差批判が民主党政権を生み、「救世主」待望論は下火になったはずだ。だが、民主党は新自由主義的な政策に流れ、結局、人々の不安を解消できなかった。小泉ブーム後は民主党政権という別の選択肢があったが、今は民主も自民もダメという状況だけに、問題はますます深刻ではないか。

 脱原発ブームも、対話よりバッシングが先行している。橋下氏への支持に似た構造を感じる。希望は、橋下氏の人気が必ずしも盤石ではないことだろう。有権者には、やはりどこか、健全なバランス感覚がある。

 もう一つ、原発の是非を巡って保守系の論壇が分裂したことも、肯定的にとらえたい。今後そこから、単なる反左翼、現状追認や排外主義ではなく、近代や科学、合理主義を問い直すような本来の保守主義が再興することを期待している。

 <今年の3点>

<1><フクシマ>論(開沼博)=青土社

<2>日本の大転換(上)(中沢新一)=すばる6月号

<3>「脱原発」の思想的課題(宮崎哲弥)=正論9月号
    --「論壇:この1年 「論壇をよむ」執筆者対談・語り下ろし」、『毎日新聞』2011年12月5日(月)付(東京・夕刊)。

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