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覚え書:「急接近:藤垣裕子さん 原発事故後の科学技術と社会の関係は?」、『毎日新聞』2011年12月24日(土)付。

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急接近:藤垣裕子さん 原発事故後の科学技術と社会の関係は?

 <KEY PERSON INTERVIEW>

 東京電力福島第1原発の事故後、放射線被ばくの許容量や食品の安全性をめぐって判断がぶれる政府や科学者への不信が高まっている。藤垣裕子・東京大教授は「科学技術と社会が本来の信頼関係を結ぶきっかけに」と提案する。【聞き手・元村有希子、写真・津村豊和】

 ◇自ら学び自律する市民--東京大教授・藤垣裕子さん(49)
 --事故をめぐる政府の対応は、外国の人たちにどう映っていますか。

 ◆ 今年の国際科学技術社会論学会が秋に米国で開かれ、関係3学会が合同で企画したセッションは「フクシマ」がテーマでした。発表した米国人研究者が「日本政府はディスオーガナイズドな(整理されていない)知識を発表していた」と、作業服姿で記者会見する枝野さん(幸男・官房長官)と菅(直人)首相(いずれも当時)の写真を示すと、800人の聴衆から失笑がもれました。

 --なぜ政府が機能不全になったのでしょう。

 ◆ 原発事故という緊急事態下で、科学技術に関する情報を国民と共有する「科学コミュニケーション」が非常に下手でしたね。「科学はいつもただ一つに定まる正しい答えを用意しなければならない」「一般市民は科学に疎いので、こわい情報を流すとパニックになる」。こうした思い込みから政府は安心情報しか流さなかったし、「分からない」と明言しなかった。状況が分からないのだから、「うまくいっていればこの程度で済むが、最悪の場合はこういう事態もあり得ます」というように、幅を持たせて情報を出すべきでした。幅があっても偏りのない、たとえば安全側にのみ偏っているのではない知識が求められていましたが、「出してもパニックにならない」という信頼感がなかったのでしょう。「当面は問題ない」という情報ばかり流し、逆に信用されなくなりました。

 --「新聞とネットで書いてあることが違う」と、受け手の側に不安も生まれました。

 ◆ 本来、複数のメディアがあり、そこで紹介される意見に違いがあるのは当然で、その中から信頼できる情報を選べる程度に成熟している社会なら問題ないと思います。そうではない側面もあったので混乱が生まれた。しかし混乱の中から「自分たちで勉強しよう、測ろう」という動きが出てきました。福島県郡山市の小学校では、父母が「もう文部科学省に任せておけない」と、校庭の線量を測り、自分たちで表土をはぎ、行政を動かしたし、ホットスポットを抱える千葉県柏市の市民グループも動き始めました。

 長い間日本人が慣れてきたパターナリズム、「お上に任せておけば大丈夫」という考えが崩れたことは「自律への兆し」だと思います。こういう大事なことを人任せではなく、自律的に判断しなくちゃと、行動し始めたのは評価されていいのではないでしょうか。英国では、BSE(牛海綿状脳症)で多数の死者が出て、「政府は信用できない」と怒った市民が、自ら科学技術について考え始めました。

 --パターナリズムや科学への信頼は日本特有ですか。

 ◆ 北欧などは、科学技術の問題に関しても専門家の意見は割れて当然と考えるんですね。だから政策決定の時には両方の意見を聞いて国民が決める。ところが日本人には「科学(者)はいつも正しい。科学の答えは一つ」という思い込みがある。それを政府がうまく使っているのが審議会という政策決定プロセスで、「御用学者」と呼ばれる専門家の意見を持ち出し国民を納得させてきたわけです。

 ◇世界に貢献、日本の出番
 --社会の側に課題は?

 ◆ 理科教育ですね。たとえば高校物理の教科書で放射能を教える場合、「半減期1600年のラジウム1グラムが4分の1になるまでに何年かかるか」という問題を解かせる。それに対し、英国の高校生が学ぶ「21世紀科学」という教科書の物理では、「あなたがロンドンからオーストラリアへ行くとして、計18時間のフライトで浴びる放射線量を計算しなさい」となる。入試に合格するための知識か、日常生活で不可欠な知識かという大きな違いがあります。予防接種、遺伝子組み換え食品など、科学的な知識を応用して判断しなければならない日常的な問題はいくらでもある。理科の教科書も変えないといけません。

 --日本はどう変わるべきですか。

 ◆ この事故を経験した民主主義国家である日本が今後どのような対応を取り、どういう情報発信をするか、世界が注目しています。チェルノブイリ原発事故後、原子力に関するいくつかの国際的な条約ができました。「フクシマ後」は日本が貢献するのが当然です。

 科学者に関してですが、私は4月下旬、34学会に所属する科学者44万人が出した声明に失望しました。「研究費削るな」とか研究者共同体本位のことが書いてある。同じ時期、フランスの科学者団体が出した声明は「福島をきっかけにエネルギー選択や原子力の安全性について科学者が議論すべきだ」との内容でした。倫理観や社会的責任を信念として行動する科学者が減っているように思います。事故後始まった「自測活動」では、同じ地域に住む科学者が協力しているところもある。市民と一緒に活動する、こういう形での貢献もあると思います。

 ■ことば
 ◇科学技術社会論
 科学技術と社会との境界で発生する課題を研究する分野。公害、原子力、食品の安全など、科学技術が生活に影響を及ぼすテーマについて、社会学、人類学、政治学、哲学、歴史学、計量学などさまざまな方法論を使って分析する。

 ■人物略歴
 ◇ふじがき・ゆうこ
 東京大大学院博士課程修了。東京大助手、科学技術政策研究所主任研究官、東京大准教授を経て現職。編著書に「専門知と公共性」「科学コミュニケーション論」など。専門は科学技術社会論。
    --「急接近:藤垣裕子さん 原発事故後の科学技術と社会の関係は?」、『毎日新聞』2011年12月24日(土)付。

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